自己紹介からのエンダーって素敵やん
投手女性の案内で夜の街を歩く俺達。
「だ、大丈夫っすか?なんか、柄が悪そうな感じっすけど?」
「ビビってんじゃねーよ、おどおどしてんと余計狙われるぞ!」
怖がるソロニックの背中をたたいて気合を入れるマーシャルだったが、ソロニックが言うように周囲は段々と怪し雰囲気になっている。薄暗い照明、酒瓶を持って寝転がっているおっさん、ケンカしてるおっさん、そこかしこに転がるゴミ、時折見かけるネズミは大きく、人を見ても逃げもしないふてぶてしさだった。
「どこまで行くんですか?」
俺は先を歩く女性に聞く。大金もってこんな柄の悪い地区を歩くのはなんとも心細い気分だ。
「お金入れたいんでしょ?今この辺でやってるのはこの先の古物商しかないのよ。もうすぐだから」
投手女性はそう言って路地を歩いて行く。
すると暗い路地裏から頭に黒い頭巾を被った奴らが突然現れた。
「お前ら有り金全部寄こせ!」
黒頭巾の男は剣を手に持ちわめいた。
「あんた、フギーだろ?ふざけた真似は止めな」
投手女性は頭巾の男に言った。
「ちっ、なんでわかった?」
頭巾の男が舌打ちする。
「声でわかるってーの、大方、そこの兄さんが金入れたいっての聞いて待ち伏せたんだろ?やめときな、うちの客だよ」
「ふんっ!あんだけの金見てあきらめられるか!やっちまえ!」
フギーと呼ばれた男はそう言って剣を振り上げた。
「ちっ、バカね!」
投手女性はそう言って横っ飛びに転がり、地面に落ちていた石を手に取りピュンピュンと黒頭巾に投げつけた。
「ぬおっ!」
「がっ!」
「ぎっ!」
額に石が直撃した男達は短い悲鳴を上げ武器を手放し頭を押さえた。
「怯むな!大金だぞ!!」
黒頭巾が叫び残りの頭巾共が手にした武器を振り上げる。
「まったく、どこにでもいますねこの手の輩は」
「まったくだな」
ケイトはうんざりした様子で言うので俺もそれに答える。
「んだと!」
近くにいた黒頭巾が怒声を上げるがそいつは俺の空雷弾を喰らってすぐに崩れ落ちた。
ケイトは踊るように頭巾たちの間をすり抜ける。
「ぐっ!」
「がっ!」
「ひいっ!」
「のっ!!」
ケイトが動きを止めると頭巾たちは短い悲鳴を上げて地面に崩れ落ちた。
「どうします?衛兵に引き渡しますか?」
ケイトはそう言いながら投手女性を見た。
「いい、いい。迷惑料だけ貰ってほっとけば」
投手女性は倒れた頭巾達の懐を漁り金を抜いている所であった。
「よし!これで軍資金は出来た。私のおごりね!」
投手女性はそう言って抜いた金をポケットに突っ込んだ。
「しっかりしてんなあ」
「見ましたか?あの手際」
ケイトが俺を見る。
「金を抜き取る手際か?鮮やかなもんだったな」
「違いますよ、石投げですよ」
ケイトは俺の肩をつついて言う。
「あれは凄かったっす」
「益々、うちのチームに欲しくなってきたぞ」
ソロニックとマーシャルはそう言ってニヤリと笑い合った。こいつらはどうやら校外助っ人受け入れ歓迎方向で意見が一致したようだな。それはそれで良い事だ。まずはチーム内で固まってくんないとな。
その後俺は彼女の案内で金を自分の金を預けている枠に入れさせてもらい、みんなで彼女お勧めの居酒屋ブルックフラワーにやって来た。
投手の彼女に適当に注文して貰いとりあえず届いた飲み物を各自飲むとやっと一息ついた形になった。
「さてと、どこから聞いたらいいのかな?」
投手女性はグラスを傾けて妙に色っぽ目をこちらに向けた。
「先ずは自己紹介っす」
「ああ、そう言えば私、名乗ってもいなかったわね。私はメイタム・オルリッツ、メイって呼んで構わないわ」
ソロニックの言葉に食い気味に答える投手女性メイ。う~む、こうして酒場に来て一緒に酒を飲んでいると、妙にしっくりくると言うのか、水を得た魚のように見えるなメイは。ウォータービジネス関係か?
「あ~?今あなた私のこと見て夜の女かと思ったでしょ~?ざーんねん、違いまーす」
メイは手にしたフォークの先をこちらに向けて軽い声を出した。
「そ、それじゃ、何のお仕事をされてるんすか?」
ソロニックが果敢に質問する。こいつ、おどおどしていつもきょどってる割に妙なところで度胸があるんだよなあ。
「それは、もっと深い関係になったら教えてあ・げ・る」
「うっぷ、あ、あ、あ、そっ、そうでした、自分、ファルブリングカレッジでベリンボールチームやってますパトリシア・ソロニックと申します。よろしくお願いします」
メイから秋波を送られたソロニックが慌てて自己紹介を始めたので俺達もそれに続く。
そして最後に自己紹介をしたケイトがスカウトの件について話を始めた。
「…という訳で、私達は助っ人を探していたんです」
「それで私に目を付けたって訳?」
「はい」
挑戦的な目つきで言うメイに対して真正面から目を反らずに答えるケイト。
「うふっ、そう。随分と惚れられちゃったみたいね。でも知ってる?こういうのは惚れた方が負けなのよ?」
「と、申しますと?」
ケイトは身じろぎもせずにメイを見る。
ううむ、これから女と女の戦いが始まるのか?こりゃ酒の肴に丁度良いや。俺はどんな戦いが繰り広げられるのかワクワクしながらビールを飲み、煮込み料理に手を付ける。
「つまり、私をものにしたいのならそれなりの事をあなた達はしなければならない、って訳」
そう言ってメイはグラスに入った飲み物を飲み干し即座に通りがかりの店員さんに同じものを頼んだ。俺も即座にそれに乗っかり同じものを頼む。
くくく、面白くなってきたぞい。
すぐに飲み物が届き俺はそれを一口飲んでみる。ミントの強い香りとライムの風味はバッチリ合った刺激的なカクテルだった。うん、こりゃ爽やかで良いぞ。
「それなりの事、とは?」
「そこの坊やをしばらく貸して欲しいんだけど、いいかしら?」
届いたカクテルをクッと飲んだメイは俺をチラリと見てそう言った。
「ぶほっ、ごふっごふっ」
俺は驚いてカクテルが気管に入り咳き込んでしまう。ミントと柑橘の刺激が鼻を通り抜けジンジンする。
「はい?なんです?」
俺は鼻を拭いながら間抜けな声を出して尋ねた。なんで急に俺の名前が出てくるのよ?
「だから、お兄さんの身体を借りたいのよ。いい仕事しそうじゃない?うふふ」
怪しい笑みを浮かべるメイ。
「かっ、身体っすか!」
「くぅ~!やったじゃんかクルースちゃんよう!」
ソロニックが顔を赤くしマーシャルは大きな声でそんな事を言い俺の背中をバチンと叩いた。
うぐっ、なんだってんだよ?突然過ぎて理解が追い付かないよ。なんで?俺、メイと出会ってからいいとこなんかあったか?好かれるような要素あったとは思えないんだが?
「申し訳ないんですが、それは自分だけでは決めかねます。彼はこう見えても複数の女性から好意を寄せられているのですが、どういう訳か誰の好意にも答えずにいるんです、身の程知らずな事に」
おいおいケイト!今、なんつった??身の程知らずって言った?
「へえ、で?それが私の条件にどう関わってくるのかしら?」
「ですから、私だけでは決めかねると申しているんです。彼に好意を寄せる女性達にも尋ねてみないとならないのです。ですから、お時間戴けますか?」
おいおいおーーい!何勝手に決めちゃってるの?俺を差し置いて。好意を寄せてるってブランシェットさんの事か?複数?誰の事?は?何?俺、これからどうなっちゃうの?俺の意思は関係なし?頭が混乱してきた。
「うふふっ、ごめんね冗談よ。なんか、みんなうぶだからからかっちゃった。身体って言っても夜伽じゃなくってね番犬君として借りたいだけなの。この子、なかなか使うでしょ?」
そう言って親指を立て人差し指で俺を指すメイ。こいつ、俺が空雷弾使ってたとこ見てやがったな?つーか、紛らわしい言い方すんなよ!ビビったじゃねーか!
「ボディーガードですか?でしたら私でもよろしいですよ?彼ほどではないですが私もそこそこ使えますよ?」
ケイトが言う。何言ってやがる、本気出したら俺よか絶対おめーのが強いっちゅーの!光学迷彩にマジック鱗粉使われたら俺なんか逃げるしか手はねーよ。
「う~ん、それも魅力的なんだけどね。そこに行くのってパートナー同伴じゃないと入れないのよねえ~。個人的には君の方が好みなんだけど門番納得させるのめんどくさいでしょう?だからわかりやすいとこで手を打った訳」
「そうですか、わかりました。そう言う事でしたらどうぞ幾らでも使ってやって下さい」
「ありがと~!じゃあ、早速行きましょ」
メイは軽く答えて席を立ち俺の肩をつかんだ。
「え?おい、ちょっと待って。今?」
まさか今からとは思わなかったので俺は不意をつかれまたもや間抜けな声を出してしまう。
「善は急げって言うでしょ?あ、みんなはここで飲んでていいわ、すぐそこだからさ。何事もなければすぐにすむから」
「何事もなければって、どういう事なのよ?」
「いいからいいから、あんたは黙ってついて来ればいいの。じゃ、待っててねえ」
「い、いいんすか、行かせちゃって」
「ジミーさんもああ見えてかなり修羅場をくぐっています。ここはお任せしちゃいましょう」
「そうそう、あいつあんなとぼけたツラして複数の女から好きだって言われてるのにそれに応えないなんて、少しは痛い目にあったほうがいいってーの!痴話げんかに巻き込まれてボコられてこい!」
ソロニックにケイトが答えたまではいいが、マーシャルの野郎かなり酔ってやがるな?好き放題言いやがって。
「ほーら、行くよクルースちゃん」
「おっ、あっ、はい」
ケイト達を見ていた俺はメイから肩を引っ張られてバランスを崩しながら居酒屋を出た。
メイはしっかりとした足取りでスタスタ歩いて行く。そこそこ飲んでたけど、どうや酒には強いようだ。
「それで、何をしに行くんです?あいつら別れ話かなんかと勘違いしてたけど、そうじゃないんでしょ?」
俺はメイに尋ねる。別れ話に男同伴する程この人は腑抜けちゃいないだろう。つーか、あんな所でひとりベリンボール賭博をやるほどの肝っ玉だ、今までだって色々とトラブルはあったろうしその度に乗り越えて来た事だろう。
そんな彼女がボディーガードを必要にするってなあ、ちょっとやそっとのこっちゃないって事だろう。
「ふ~ん、なかなか鋭いじゃない?そのぼやけた顔はふりって訳?」
メイは俺に顔を近づけて言う。むうっ、ミントのいい香りがっ。
「元からだっちゅーの」
俺はメイを避けながら言う。
「あら、つれないんだ。まあ、いいわ。クルースちゃん、さっきフギー達をやっつけた技、あれって相手に重傷を負わせないで無力化させる技よね?」
「ええ、そうですけど」
「クルースちゃん、ああいうのに慣れてるっしょ?こっち関係と揉めるの」
メイはそう言って頬に指差しスッと下に動かした。顔に傷のあるジェスチャー、つまり堅気じゃない人達の事だ。
「まあ、慣れてるっちゃ慣れてますけど」
特に最近はそんなんばっかりだもんなあ。
「やっぱりね、私、そういうのわかっちゃうのよね」
「男見る目はなさそうですけどね」
なんだかそんな事を言うメイの口調や雰囲気が少し暗くなったように感じてしまった俺はついつい茶化してしまう。
「そうなのよ、わかる?みんなが痴話げんかと勘違いしたってクルースちゃん言ったけど、あながち間違いじゃないのよね…」
何やらメイの雰囲気がおチャラけたものからシリアスなものに移行しそうだぞ。
俺は心して彼女の話を聞くのだった。




