夜の大勝負って素敵やん
やいのやいのと騒がしいベリンボール部の女子達をなんとか静かにさせたケイトは、改めて校外助っ人の件を説明する。
「え~?じゃフルメン助っ人はダメって事~?」
やる気無し子ミラーがぶーたれた声を出す。
「当然だろ!つーか助っ人に頼るなんて気合がたんねぇーだろ!」
「つーか、メンツ足りなきゃそもそも試合になんねーし。気合じゃ飯食えねーし的な?」
キャプテンのマーシャルの威勢の良い言葉に正論で冷や水ぶっかけるギャル子ベイカー。
「監督、助っ人って誰なんです?」
シンプソンが本に目を向けたまま抑揚のない声で言う。
「まだ、決まってません」
「「え~~」」
マーシャルとベイカーが声を揃えて言う。何気にこのふたりは気が合うようだ。
「失礼するぞ」
声と共に部室のトビラが開き入って来たのはキーケちゃんだった。
「明日でも良いと思ったのだがなにやら声が聞えたものでな」
「どしたの?学長から何か追加指示でも出た?校外助っ人やっぱダメとか?」
俺が尋ねるとケイトの顔色が悪くなった。
「違う違う。むしろ逆だ」
「逆と言いますと?」
ケイトが食い気味にキーケちゃんに聞く。
「助っ人の件で心当たりがあってな」
「ホントですか!教えてください!」
「おっと、どうしたケイト?お前らしくもない」
がぶり寄るケイトを制しキーケちゃんが言う。
「どうもこの件でケイトはかなり責任を感じているみたいなんだよ」
俺は言う。
「なるほどな、ケイトらしいと言えばケイトらしいか。まあ、良い、続きを話そう。この間、街で飲んでおった時の事よ…」
ある日の晩、キーケちゃんは女子寮長のナッタムさんとうちのクラスの担任であるカルデイナ先生とで街で飲んでいたそうだ。なんでもナッタムさんもカルデイナ先生もかなりのお酒好きなようで、このメンツでちょくちょく飲みに行くのだとか。もう、誘ってよ。
「…その日は三人とも飲み足りずもう一軒行くかと夜の街を歩いていたのよ。すると、空き地に人が集まっておってな。ちょっと覗いて見るかと行ってみるとそこでやってたのは賭けベリンボールだったんだよ」
「賭けベリンボールですか?」
ケイトが身を乗り出して尋ねる。
「おうよ、と言っても投手と打者だけの勝負だがな。そこで次々と打者を打ち取っていた投手がなんと若い娘でな。カルデイナが面白がって挑戦したがかすりもしなくてな」
「あのカルデイナちゃんがですか?へえ、それは凄いっすねえ」
「なんで?カルデイナちゃんってベリンボール上手かったっけ?」
感心するマーシャルにベリンが聞く。
「カルデイナちゃんは運動全般スゲーよ。学生の時は色んな運動部を掛け持ちしてたって言うし。まあ、一番
得意なのはこっちみたいだけど」
マーシャルはそう言って空中に向かってシュッシュとパンチを繰り出した。カルデイナ先生ならさもありなん
と言ったとこだな。波乗りのも上手だったし。
「その空き地は、どこなんですか?」
「オウコメッツを知っとるか?」
「ええ、海鮮料理の美味しい店ですよね?」
ケイトが答える。
「おう。そこの近くにちょっとした空き地があってな。毎晩そこでやっとるらしいぞ」
「わかりました。ありがとうございます!今から行って来ます!」
ケイトは言うが早いか部室を飛び出して行った。
「かっかっか!気の早い奴よ。おぬしはどうするんだ?」
「いや、そりゃ勿論追いかけるけど、みんなも行くよね?」
「勿論だぜ!」
「わ、わたしも行くです」
マーシャルとソロニックが返事をするが他のメンツは目を合わせようとしない。
「え?みんなどうしたんだよ?助っ人が見つかるかも知んねーんだぞ!」
「え~?ケイトっちが行ったからいっしょ」
「面倒だからパス」
「大勢で行く事もない」
ベイカー、ミラー、シンプソンが言う。
「ま、頑張れ」
「ディアナは一緒に行くよな?」
「やる事あるから無理、健闘を祈ってるよ」
「おいおい、お前もかよ」
てなわけで俺はやる気空回りマーシャルとおどおど自信なしソロニックというでこぼこコンビと共にケイトを
追いかける事となったのだった。
「クルース様は目的地はご存知で?」
「ああ、だいたいわかるよ。後、様ってのやめてね」
俺はソロニックに言う。オウコメッツならコラス達と何回か行った事がある。その近辺の空き地だってんなら
行ってみりゃあわかるだろう。
「んじゃ急ごうぜ?ほらっ!走って行くぞ!ケイトッちが心配だ!」
マーシャルが走り出す。俺とソロニックはマーシャルの後に続いて走る。
「おい、行き先わかんのかー?」
俺は前を走るマーシャルに声をかける。
「わかんねー!気合があればなんとかなる!」
「なんねーだろっ!」
俺はマーシャルを追い越しオウコメッツ方面に向かう。
「だったら気合入れてけよクルース!」
後ろで威勢の良い声を上げるマーシャル。ちらと後ろを見るとマーシャルだけじゃなくソロニックも普通に俺
について来ている。
俺は身体強化は勿論の事、走る時に軽く風魔法のゲイルも発動してるのでこのペースについて来るって事は二人とも身体能力はそこまで低くないという事だ。
そうしてファルブリングの街を走り続ける事しばし。
俺達は目的の空地へと到着する。
「や、やっぱ人が集まってますね」
空き地に見える人だかりにソロニックが腰の引けた声を出す。
「ビビってんじゃねーよ、ちょお、どいてくんな」
マーシャルはソロニックに一喝し人波をかき分けて空き地に入って行く。
俺達もそれに続いて行くと見えたのは打者席についたケイトの姿だった。
「もう一球!もう一球お願いします!」
ケイトはバットを持ったまま投手に懇願している。
「お姉さんお金はあるの?これで七球目だけど?」
投手の女性がケイトに言った。俺達が到着するまでにケイトは七回も勝負に負けているのか?ケイトだってかなりの運動神経の持ち主だ、それがいいようにあしらわれてるなんてちょっと考えられない。投手の女性を見るとカールしたブロンドヘアーに大きな目とやけに赤い唇は運動場よりも社交場の方が似合うような佇まいだった。
「あっ!良いところに!彼がっ!彼が持ってます!」
ケイトはそう言って俺の方を指差した。
おいおい、ギャンブルってのは自分の金でやるのが鉄則だぞ?そいつを守れなくなるとエライ事になっちまうんだぞ?
「どうしたケイトぉ?お前有り金全部すっちまったのかよ?」
「恥ずかしながらその通りです」
「で?幾ら必要なんだ?」
「実はですね、倍プッシュの連続で今の掛け金は…」
「ぶっ!!マジかよ!おめぇー、それうちの店の給金レベルだぞ?」
俺はケイトから聞いた金額に驚いた。それでもケイトモの給金は他所よりかなり良い事で知られているから、いわば一般的な販売業の売り子の月収を上回る額の金を負け込んでいる事になる。
「わかっています」
「ケイトッち、勝算はあるのかよ?」
決死の覚悟で言うケイトにマーシャルが尋ねる。
「はい」
「何か作戦でも?」
きっぱり答えるケイトに今度はソロニックが尋ねる。
「いえなにも」
「おいおい、んじゃ賭けに熱くなってるだけじゃねーか。一旦、頭冷やせ」
俺はそう言ってケイトの肩をポンと叩く。
「確かにそうかもしれません。でも、ここで引くわけにはいかないんです」
「なんでだよケイトッち?なんでそこまでしてやるんだよ?」
マーシャルが聞く。
「それは私が監督だから」
ケイトは噛み締めるようにゆっくりとそう言った。
「なんでだよ?別に監督なんてこないだなったばっかりじゃねーかよ?それで、そんなに金ブッコんで、そんなになって…なんでだよ!」
「ジミーさん、構わないですか?」
すがるように言うマーシャルに答えずケイトは俺に問う。俺はケイトの意気を買い大きく頷いた。
「お願いします」
ケイトは投手の女性に声をかける。
「うちは構わないけど、この辺で止めといた方がいいんじゃない?お兄さんお金出すんでしょ?彼女止めといた方がいいんじゃない?」
「いや、こうなったら俺はケイトにフルベットするよ」
「本気なの?」
「ああ、本気も本気、大本気だよ」
俺はそう言って近くにあるテーブルに積まれた金に財布を置く。
「なんでだよ…皆、バカじゃん」
「で、でも、なんか、凄いっす」
へたり込んで呟くマーシャルの肩に手をやるソロニック。俺は勝負を見守る。
「それじゃ、行くよ」
「はい」
投手の女性は大きく振りかぶりボールを投げる。
ボールは恐ろしい勢いで沈み込みケイトの直前でホップした。
ケイトのバッティングも鋭かったが球の上がりっぷりが凄すぎる。ケイトは見事に空振りし球は後ろにある板塀にぶち当たった。
「まだまだ!」
ケイトは言い、転がった球を投手の彼女に返した。
投手の女性はやれやれと首を振り俺を見る。俺はもう一度だと強く頷く。
肩をすくめた女性はもう一度構え球を投げる。
今度は気が抜けるようなスローボールでケイトの手元、インコース上に投げ込まれる。
「ぬうっ!」
妙な唸り声を上げて空振りするケイト。
「ケイト!力み過ぎだ!身体の力を抜け!考え過ぎるな!」
俺は声をかける。投手の女性は今度は俺を見る事もせず構える。
その後もケイトの空振りは続き、掛け金はそろそろ一般の売り子の年収に届きそうになった。
「あいつら、どうかしちまったんじゃないか?」
「典型的な泥沼だろ」
「あわれだな」
「ここまで負けがこむ奴初めて見たぜ」
「すげーもん見たな」
観客がざわつく。そりゃそうだろうよ、もう掛け金は俺の財布の中身だけじゃ賄えない額になってる。途中で俺は学生証を使って金を降ろしに二回行ってる。傍の机にはかなりの札が積まれている。
積まれた銭が盗られないようにマーシャルが獣みたいな目をして見張っている。
「ねえ、もうこの辺で止めにしない?掛け金は半分でいいから」
投手女性がケイトと俺を見て言う。
「ジミーさん、やらせて下さい」
「あたりまえだ、行けるとこまで行ってくれケイト!」
熱くならないように意識していたが、どうやら俺も少しばかり熱くなってしまっているようだ。
俺の声は知らないうちに大きくなっていた。
「はぁーー、やれやれ。それじゃあ、いくよ?」
「お願いします」
肩を回して言う投手女性にケイトは言い構える。
投手女性は振りかぶり力強く投げた。
球は鋭いストレートだった。
ケイトは渾身の力でバットを振る。
タイミングバッチリだ。
「バッキーンッ!」
乾いた音がしてケイトの振ったバットの頭が折れて真上に飛んで行く。
球はコロコロと一塁方向に転がる。ここで引かれたラインより外に球が出ればファールで勝負はやり直し、出なければヒットでケイトの勝ち。
砕け飛んだバットの頭が落ちケイトの脇の地面に刺さる。ケイトはそれを一顧だにせず球の行方を見守る。
ざわついていた観客も息をのみ見守った。
球はゆっくりと速度を落としライン内側で止まった。
「やった!やったっす!」
「お、お、おう!これはうちらの勝ちでいいんだよな?」
「そうね、私の負けね」
興奮するソロニックとマーシャルに投手の彼女はグローブを外しながらそう答えた。
観客は皆大きなため息をつき呆然とし、それからそれぞれ興奮して会話を始めた。
「ここまで来て申し訳ないんだけど、こんな額のお金、今すぐに用意はできないわ。うちまで一緒に来て欲しいんだけど?」
観衆のざわめきの中、ケイトに近寄って来た投手女性はそう言った。
「いえ、お金の事はいいんです。それより、お願いしたい事があるのですが?」
「は?お金はいいって、それじゃあ、何のためにこんな事を?私が勝っていればしっかり取り立てたわよ?」
「わかっていますしその時は勿論、お支払いしましたけけど、きっとその時も同様にお願いはしたと思います」
「じゃあ、なんでこんなになるまで?」
「勝ってから話がしたかったんです」
ケイトは肩で息をしながらそう言った。この勝負で精神的にもかなり消耗したんだろう。
「だからってそこまでする事ないんじゃない?変な人達ね。わかった、それじゃあ、行きつけの居酒屋があるからそこで聞くわ」
投手女性はそう言ってグローブを持ったまま歩き出した。
俺は机の上に並べた札を財布とポケットにしまって先を歩く投手女性に声をかける。
「ごめん、途中で金を入れてきたいんだけどいい?こんな額の現ナマ持ち歩きたくないからさあ」
「ぷっ、度胸がるんだかないんだかわからないわねえ。わかったわ。ちゃんと寄るから心配しないで」
投手女性は思わず吹き出してそう言った。
仕方ないじゃん、俺って前世では金に縁のない生涯だったからさ、根っからの小心者の貧乏性なんだよ!ほっといて頂戴!




