ケイトの苦悩って素敵やん
ひと仕事終えて後は風呂入って一杯やって寝るだけだとたかをくくっていた所に、顔色の悪いケイトが泣きつくように俺に話を聞いてくれとやってきた。
いつもクールなケイトがどうした?と俺は話を聞く事にした。
「実はですね…」
食堂の人気のない席に陣取った俺にケイトがゆっくりと口を開いた。
ストームと共に今日の報告に出向いたケイト。報告はほとんどストームが済ませてくれたのでケイトはほぼ横にいただけだったそうだ。まあ、謙遜して言っているんだろう。こんな憔悴した様子なのにさすがは武門の出だと言えよう。
そうして退出をしようとした時、学長からケイトだけ残ってくれと言われたのだそうだ。
一体何事かと構えたケイトに学長はこう言ったのでそうだ。
合同学園祭でベリンボールの親善試合が行われるので、ケイトに監督になって貰いたい、と。
ベリンボールってのは細かなルールは違うものの、握りこぶし大のボールを投げバット状の棒でそれを打つという、ほぼ野球のようなスポーツだ。
「…女子ベリンボールクラブの監督をやっていたマーガリンメーカー先生が産休をとってしまったため監督不在になってしまったと言うんです。私はベリンボールの監督などした事ないと言ったのですがルールがわかっていれば良いと押し切られてしまって…」
ケイトは泣きそうな顔で言う。恐らく、ケイトのリーダー的資質を見て学長も決めたんだろう。
「それで、監督をする羽目になってしまった、と?」
「ええ、そうです。ジミーさん、なんとかして下さい!」
珍しく語気荒く言うケイト。
「おいおい、ちょっと落ち着けよ?親善試合だろ?別に勝たなきゃいけないってわけでもないんだろ?学長もルールさえわかってりゃいいって言ってくれてるんだし、大丈夫なんじゃないのか?」
「私もそう思っていたんですが…」
「そこからは私がお話ししましょう、はい、これあったかいヤグー茶飲んで。今日はお疲れさんでした」
「お、ありがとさんって、お前なんで?」
俺はニコニコしてお茶を持って来たディアナに問う。
「ケイトっちにその話を最初に聞いたのはあたしなのよん。まあ、いいから聞いて頂戴な。まずはうちの女子ベリンボールチームの事からお話ししましょうかねえ…」
隣に座って自分のお茶を飲みながらディアナは話し出す。
ファルブリングカレッジ女子ベリンボールクラブ、チーム名はドギューズ。
メンバーは五人で今まで対外試合で勝った事なし。というか、そもそもベリンボールの正式人数は七人なので試合をするには二人足りないのだ。試合をするする時は監督だったマーガリンメーカー先生があちこちに働きかけて人を調達していたのだと言う。
「…まあ、マーガリンメーカー先生も悪い人じゃあないんだけどさ。先生自体が運動神経ない人でさあ、運動系のクラブとも人脈薄くてね。それで、いつも助っ人呼ぶにしても彼女の人脈からだと文化系からばかりになってねえ。そんなのもあって勝った事なし、常勝無敗ならぬ常敗無勝ってなわけさ」
「そんな言葉聞いた事ないけど」
「そりゃ今このディアナさんが作った言葉だからね。ってそんな事ぁどーでもいいのよ。問題はここからでね。今回の親善試合はジャーグル難民救済チャリティー試合になる予定なのさ。だから、客に入って貰わないと話にならないわけ。熱い接戦を繰り広げろとまでは言わないまでも、ボロ負けの一方的な試合なんかじゃ客は集まらないっしょ?」
「そーゆーもんなのか?」
チャリティー親善試合ってんなら、マジな試合じゃなくってお笑い要素を入れたエンタメ的な試合にしても委員じゃないか?なんて思うけど。
「あんなあ、試合で客を呼ぶってな大変な事なんだぞ?特にベリンボールはあまり人気がない上に当日は別のクラブの試合も企画されてるからな」
「は?別のクラブの試合?」
「そう、フルポアの運動場で。ベリンボールはボルグスク円形闘技場でやるんだけどね」
「ん?運動場より闘技場のが凄くないか?それだけ期待されてるって事じゃないの?」
「甘いっ!甘すぎる!あっちは人気競技だし両校とも有名選手が揃ってる。しかもフルポアの運動場なんて凄いんだぞー?プロもそこで試合するくらいなんだからな!こりゃあ、心してかからないと悲惨な事になるぞ~」
ディアナは腕組みをしてそんな事を言いひとりうんうんと頷いた。まるでおっさんみたいなリアクションだけど、言われてる事はわからんでもないな。ただでさえ勝ち無しのポンコツクラブが閑古鳥が鳴いてる球場でボコボコにされちまうなんて、多感な時期の少女たちにとっては致命傷だろうな。後の学園生活に差し障るかもしれんどころか後の人生に差し障っちまうかもしれないぞ。
「そいつは確かに責任重大かもしれないなあ」
「ジミーさん、だからあなたに相談しているんじゃないですか」
ケイトが情けない声を出す。
「おいおい、そんな声を出すなよお前らしくもない。よっしゃ、俺に任せとけ。俺だってそこそこ知り合いはいるんだ。運動神経良い奴に声かけて見るぜ。なんならアーチャーさんとリッツさんに話してみてもいいし」
「それができたらジミーに相談なんてしてないんだよな~」
ディアナが頭の後ろに手を当ててそう言った。
「なんでだよ?」
「まず、アーチャーさん達だけどね。コラポン君達と一緒にフルポアで留学生交流会に出席予定だから無理なのよ」
「んじゃ、アルヌーブさんとかルブランさんとか、あ!ブランシェットさんに声かけて見るか!」
「あんなあ?ブランシェットちゃんの事、最初に思い出してやってくれよなあ?可哀想に」
ディアナが肩をすくめて言う。
「いや、別に思い出した順じゃないし。ってか、どうよ?アルヌーブさんもブランシェットさんも運動神経いいぞ」
「だめだめ、みんなそれぞれの役割があって忙しいの。ちゅーか、今、この段階で暇なのジミーぐらいよ?実際」
「マジで?」
俺は目を丸くしてディアナを見る。
「ぷっ!なんだよその顔!笑かすなっちゅーの!ったく、今の状況わかってんのかよー?ケイトっちの顔見ろよ?」
ディアナに言われてケイトを見ると泣きそうな顔をしている。
「まてまて!そんな顔すんなって!ちょっと俺も考えて見るから!」
「お願いします」
ケイトはそう言って静かに頭を下げた。こいつ責任感ありすぎなんだよ。
「で?具体的にどうする訳?」
ディアナが俺を見る。
「まずはメンバー探しだな」
「だから、それが難しいんだって」
「学園内で探そうとするから難しくなるんだよ」
「へ?何言ってんだよ?それじゃあどこで探すってんだよ?」
ディアナがポカンとする。
「とりあえず学長んとこ行って話してみるさ」
俺はそう言って席を立つ。
「おい、ちょっち待てって」
「どうするつもりなんです?」
ディアナとケイトが慌てて席を立った。
「直談判するんだよ。ふたりはここで待っててくれていいんだぜ?」
「バカ言うな、一緒に行くっての」
「私もです」
「まあ、いいけども」
ケイトとディアナを引き連れて学長室に向かう俺。
声をかけ学長室に入ると学長はマスターホフスとキーケちゃんと一緒にまだお茶を飲んでる所だった。
「どうしました?」
ウェッパー学長が俺を見る。
「少しお話ししたい事がありまして」
「なんでしょう?」
俺はケイトとディアナに相談を受けた事を話し、ベリンボールチームの現状を伝えた。
「…という訳で、現状では試合もままならないんですよ。そこで、相手側に連絡して頂いてですね学外からの助っ人を認めて貰いたいんですよ」
「学外から、ですか?う~ん、生徒ではない人を試合に出す、という事ですよね?それは、どうでしょうか?」
「いいんじゃないか?公式戦ではないチャリティー親善試合じゃ。しかも相手校は全国大会に顔を出すような強豪、うちは公式戦勝ち無し、いや非公式戦でも勝ちなしじゃ」
「いつだか、プライマリースクールの生徒と対戦した事がありましたよね?」
ウェッパー学長がマスターホフスに尋ねる。
「ああ、あれならしっかり負けとる」
「はい?」
「ふふっ」
マスターホフスが言いウェッパー学長は目を丸くしキーケちゃんは笑った。プライマリースクールと言えば小学校みたいなもんだ、それを相手に負けるなんてある意味大したもんだよ。
「まあ、そんな訳じゃから話の持って行きようでは向こうも呑んでくれると思うぞ?なんなら私が話を通してみようか?」
「ふうむ。わかりました、あなたのやり方ってのを見せて頂きましょうか」
ウェッパー学長はそう言うと席を立ち学長机に腰を掛け魔導通信機を弄り出した。
「…失礼します、わたくしファルブリングカレッジのウェッパーと申しますが…はい、そうです。ええ、キュザック学長をお願いします…、キューザック学長ですか?ファルブリングのウェッパーです、いつもお世話になっております。…はい、いえいえ、こちらこそです…はい、ええ、今日はベリンボールの親善試合の件でお話しがありまして、…はい、ええ、そうなんです。ご存知でしたか。詳しい話しはうちの主任からしたいと思うのですが…はい、ええ、今代わります」
ウェッパー学長はそう言って受話器を押えた。
「先方さんはうちのチームの実情をご存知のようです」
「そりゃあ好都合だ」
マスターホフスはニヤリと笑って受話器を受け取る。
「どうでしょうねえ」
ウェッパー学長は難しい顔をして元座っていた席に戻る。
「先方の様子はどうでした?」
「あまり好意的とは言えませんね」
キーケちゃんの質問にウェッパー学長はこめかみを押さえて答えた。
「…ホフスと申します、いつぞやはどうも。はい、ええ、そうなんですよ。このままでは試合もままならない状況でしてね…ええ、ふたりほど足りませんでね。校外からの助っ人を認めて頂きたいと思い、ご連絡差し上げた次第でして。ええ、はい、わかりますとも、学園祭ですからねえ。しかし、考えて見て下さいよ。おたくさんのような強豪チームがうちのような弱小チームが更に人数足りない状態で試合をしてもねえ、まったく盛り上がりませんわなあ。ええ、そうですよ、そんな試合誰が見るのかって話ですよ。試合開催地はおたくさんの所ですよねえ?そこで観客がどんどん帰ってしまうとなると、いや、このままでは端から集まらないかもしれませんなあ、とにかくそんな状態ではそちらの生徒の士気にも関わるのではないですか?ええ、そうですとも、おっしゃられる通り生徒達は多感な時期ですから、下手をすれば一生その傷が心に残る事になるかも知れませんな。これは教職に就く身としては実にしのびないと、ええ、そう思われますよねえ。…私もそう思います。はい、はい、…勿論そこの所は守ります。ええ…ええ、ええ。わかりました。ご理解頂けて感謝致します。ええ、…はい、良い試合にしましょう。学長に代わりますか?…はい、伝えておきます…はい、失礼します」
マスターホフスは受話器を置くとこちらを見てニヤリと笑った。
「了承を得たぞ。お手柔らかにと言っておった」
「参りましたね」
マスターホフスの話を聞いてウェッパー学長が肩をすくめた。
「さすがだな。だが、向こうさんも無条件というわけではあるまい」
キーケちゃんが問う。
「うむ、助っ人は同年代の女子に限定、現在のクラブ員は補欠に回さない事。このふたつを条件に出しよった」
「ふむ、いいところだな」
「向こうさんも負けず嫌いのようでなあ。これが精一杯だったよ」
「十分十分、これならいい勝負もできようものよ、なあトモよ」
キーケちゃんは笑って言うが、どうだろうなあ?小学生にも負けるチームだもんなあ、いい勝負ってのは難しいんじゃないでしょうか?




