敵も然る者味方はもっとって素敵やん
「よう、ようようクルースちゃんよう!早く種明かしてくれよう」
「そうそう、あの時、見当がつくって言ってたろ?どういう事か聞かせて貰おうか!」
ベッカ兄と弟が俺に絡んでくる。
「カッシュリー商会は今回の件で被害者というスタンスを崩さないだろう事は予想できてたんだよ。倉庫に駆けつけた時も荷物はそのまま人っ子一人いないし、看板は外されているしでしらばっくれる気満々だった」
「なんでしらばっくれる気満々だってわかるんだよ?」
スベン君が俺に尋ねる。気づけば馬車の後ろでハリアー君も耳を傾けており、御者をやってるファブロー君以外は皆俺に近付き話を聞く体制になっていた。
「これは情報通の俺の連れの意見なんだがな、ヘルマセール伯爵が俺の方についてくれるようになったのは敵さんも誤算だったんじゃないかってんだよ」
俺はストームに聞いた事を話す。
「つまりさ、敵さんは伯爵がいれば大概の事はその力でなんとかなると踏んでたけど、その力がまさか自分達に向かうとは思ってなかったわけだ。んで、真正面から伯爵と事を構えるのは避け、知らぬ存ぜぬで突き通すよう方針転換した。看板を外し荷物も置いて急ぎ撤収したのは、自分ら商会はこの件に関わっていませんよと言い逃れするためだろう、とね」
「じゃあじゃあ、さっきの件はどうなの?魔獣が盗まれたとか言ってる奴は?」
ハリアー君が俺に聞く。
「恐らくあの魔獣はブルーウォールズの連中の口封じだろうな。んであわよくば俺達の口もってとこだろうさ」
「けしかけておいて盗まれたって言ってるのかよ?」
ベッカ弟が憤る。
「まあ、そう言う事だね。口封じに成功すれば盗んだ連中が自爆したってんで話は終る。あくまでカッシュリー商会は被害者のまま、な」
「ざっけんなよ!きたねえ真似しやがって!」
「それだけの相手だって事か」
「アニキ…」
興奮していたベッカ弟は難しい顔をして言うベッカ兄の言葉に真剣な表情になった。
「アニキさんの言う通りだよ。伯爵がこちら側になってくれて、さらにこれだけ大事になったからにはもう俺達を個人的に狙うような事はないとは思うけども、これ以上奴らを刺激するような事はしない方が良いだろうな」
「刺激って例えば?」
ハリアー君が俺に尋ねる。
「カッシュリー商会を糾弾し続けたり、妙なちょっかいをかけたりしない事だな」
「妙なちょっかいってなんだよ?」
ベッカ弟が聞く。
「お前らが陰でやってる事はわかってるぞとか言ってたかりかけたりすんなって言ってんだよ」
ビゴロ君が笑って言う。
「ちぇっ、んな事しねーっつーの」
「いや、お前ならやりかねん」
不貞腐れる弟に兄が言い、皆が笑った。
「とにかく、この件はここまでだ。俺もこれ以上は首を突っ込まないから、みんなもそうしてくれよ」
俺が言うとビゴロ君達は渋い顔をして頷いた。ベッカ弟は何か言いたげな顔をしていたけど、それを押して頷いてくれていた。まあ、言ってもみんなそれぞれの場所に戻ればそこの立て直しやらなにやらで忙しい日常に戻る事になるのだ。そうなれば、カッシュリー商会などという大店を敵に回してひと悶着、なんて非日常はかすんでしまう事だろう。
「クルース君!あれ!」
御者台の方からファブロー君の声がし俺はアクセルを回して馬車の横につく。
「クルース君、あれ見て!」
言われて前方を見るとかすかに煙が上がっているのが見える。
「なんだか嫌な予感がしない?」
「ああ、ちょっと先に行ってくるわ」
「うん、こっちも急ぐけど頼むよ」
俺は更にアクセルをひねり速度を上げる。
煙が上がっているのは倉庫街の方向だ。このタイミングでたまたま偶然なんてありえないだろう。
ところがどっこい到着して見れば煙を上げていたのはカッシュリー商会の倉庫だけではなかった。
周囲の倉庫の幾つかからは火は消えているもののまだまだ煙が出ている状態であった。
「大丈夫ですか?」
魔導二輪を降り小柄な制服姿の男性と話している伯爵に声をかける。
近くで見るとなんと倉庫は三分の一ほど崩れている有様だった。一体何があったんだ?
「おうクルース君!あの後、とんでもない事が起きてな!いやー君にも見せたかったよ」
「どうもクルース君、ご無沙汰ですね」
興奮気味に話す伯爵に続いて俺に声をかけて来たのはなんと対外治安総局情報局副長ルネ・ダーミットその人だった。
「わっ!なんでここに?」
「それは私が聞きたい所ですね…」
ダーミット副長はそう前置きをしてから状況を説明してくれた。情報局はカッシュリー商会とハンドラーの繋がりについて探っていたとの事。そして、カッシュリー商会がハンドラーのために様々な物資を用意し報酬を受け取っている場所を特定する。それがこの倉庫だったという訳だ。
「…そして所轄の衛兵隊本部で作戦を練っている所に伯爵殿からの一報が入ったのです。カッシュリー商会の倉庫にて盗品らしきものを発見、直ちに来られたし、と。私はすぐに駆けつけましたが、その時には倉庫は魔物に襲われていたんですよ、ね?伯爵殿?」
「ふふふ、そこからは私が話そう」
ダーミット副長から話を振られたヘルマセール伯爵は嬉しそうにそう言った。
「地元衛兵隊に連絡をした私はバンとふたりで倉庫にて彼らの到着を待った。しばらくすると、倉庫の裏手から何やら複数の人が走るような音が聞こえる。私とバンとで見に行ってみると、なんとそこにいたのは水路から這い上がる魔物達だったのだ!やつらはいわゆるシーウォーカーと呼ばれる魔物達で手に持った武器や口から火を吹き倉庫を破壊し始めたのだ!それを見た私は一も二も無く奴らを迎え撃ち次々に元居た水路へと叩き返してやったのだがさすがに多勢に無勢、奴らは散らばって倉庫を破壊し始めた。私も必死で応戦はしたがあちこちから煙を上げる倉庫を見てこのままでは証拠品から何からすべてが灰になってしまうと覚悟を決めたその時!空からひとりの屈強な鎧騎士が降りたったのだ!それこそが誰あろうダーミット君だったのだよ!」
「いやいや」
ダーミット副長は珍しく照れた顔を見せる。屈強な鎧騎士って事はあれだな?ダーミット副長お得意の術式具、魔導装甲って言ったっけ?とにかくあの装着するタイプの人型兵器だな。
「あれ見たんですか伯爵?いやー!羨ましい!あれカッコイイんですよねえー!俺も見たかったー副長の本気の闘争を!」
「やめて下さい」
副長さんがいつもの冷静な表情で言う。怒らせたら怖いからこれ以上褒めるのはやめとくか。
「君も見た事があるのかね?いやー、あれはいい。何と言うか男心をくすぐる術式具だ。男のロマンと言ってもいい。私はね、彼らに協力する代わりに自分様にあの術式具をあつらえる許可を貰ったのだよ。ふっふっふ、どうだね?羨ましかろう?」
ヘルマセール伯爵は満面の笑みで言う。
「どういう事ですか?」
俺はダーミット副長に尋ねる。
「ふぅ、実はですねヘルマセール伯爵殿はハンドラーと深く接触をしいわば彼らに騙されていたのだとおっしゃられる。そこで我々情報局は、伯爵殿にハンドラー対策アドバイザーとしてお力添えを願ったのです。すると伯爵殿はひとつ条件をお出しになられた」
「それがあの魔導装甲って訳ですか?」
「ふっふっふ、ただの複製品ではないぞ?彼のとはまた違うデザインで考えておる。装甲はも少し薄くても良い、動きやすさを重視したい所よ。頭部は丸く飛び道具を弾く形状を考えておる。そして足の裏に君の乗っている魔道具のようなものを装着し機動性を確保したいなあ。あれはなかなか良いな」
「そ、そっすか」
嬉々として話す伯爵に俺は何とかそれだけを返す。ううむ、装甲は薄く頭部は半球場、足の裏にタイヤってそれもう鉄の棺桶と呼ばれそうなんですけど?まあ、伯爵ならパーフェクトなソルジャーになれそうだけども。
「ふう、まあそうした訳でね、伯爵殿にはこれからお力をお貸し願う事になったのでね、君もひとつよろしく頼むよ」
「は、はあ」
珍しく困ったような顔をするダーミット副長に俺はそう答えた。
「クルースくーーん!!だいじょーーぶーー?」
馬車が到着し俺を確認したファブロー君が大きな声を出した。
俺は手を振り皆を呼び寄せるとここであった事をざっくりと説明する。
あいつらの仕業に違いないと憤るベッカ弟をなだめるのに苦労したが、とにもかくにも俺達は半壊した倉庫に入り、荷を検める作業に入ったのであった。




