敵は眼下にって素敵やん
「ヒャッハー!」
「逃げんなこらぁーー!」
「皆殺しだぁぁ!」
「ひゃはははー!見ろ!あいつの面をっ!」
「汚物は消毒だぜぇぇぇ!」
まるでモヒカンの世紀末系悪者が言いそうなセリフで嬉々として戦っているのはビゴロ君達であった。
「こりゃあ、俺の出る幕はなさそうだな」
「いや、増援が来たみたいっすよ」
俺の言葉に弓を持ったハリアー君が後方を見て答える。
「んじゃ、もうひとっ走りしてくっかな」
俺は馬車の近くでUターンしようとしたその時。
「ぬおっ!」
「なんだなんだ!!」
「うわっ!!」
後方で突然土煙が上がり道が弾け飛び周囲に土や石をまき散らした。馬車は停まり、馬たちは竿立ちになったり暴れたりと恐慌状態になる。
ビゴロ君達は道の真ん中に空いた穴から遠ざかり必死で馬をなだめる。
ブルーウォールズの連中も同様にしているが、馬の扱い方で一歩劣るようで落馬する者が多数出てしまう。
「畜生!なんだってんだ!」
ベッカ弟が今だ土煙を上げる穴を睨む。
穴から強い気配を感じる。
「みんなっ!!穴から遠ざかれっ!」
俺の声にビゴロ君達は無言で馬を使い距離を取るがブルーウォールズの連中はポカンとしてその場を動かない。
「早くっ!!」
俺は叫びながらバイクを降りゲイルダッシュで穴へ向かう。
すると穴の中から突然クジラの頭のような円錐がニョッキと顔を出し、パッカリと口を開けるとその中から無数のツタのような触手のようなものが飛び出しブルーウォールズの連中に絡みついた。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「うわっ!!助けっ!!」
「ジョージが!ジョージが連れてかれちまう!!」
「誰か!誰か助けてくれ!」
馬のみならず本人たちも恐慌状態に陥るブルーウォールズの連中。
俺はそんな中にゲイルダッシュで突っ込み、パックリ開いた口に運ばれそうになってる奴の足に絡みついた触手を光魔法で出した剣フォーカスソードで切り刻む。
「ミョギヤァァァァァァァ」
妙な叫びを上げてクジラの頭みたいなものが身をうねらせ地面が揺れる。
「こなくそっ!」
俺は揺れを堪えながらひたすら触手を切り刻んで行く。解放されたブルーウォールズの連中は四つん這いになって逃げていく。
「ギュゥゥゥゥゥゥズズウウウウウウゥゥゥゥゥ」
重ったるい叫びをあげクジラ頭は地面に潜っていく。
「撃退したのか?」
スベン君が聞く。
「いや、まだ気配がする。おい!お前ら動くな!」
ドタドタと走って行くブルーウォールズの連中に向かって俺は声をかける。気配はそいつらを追いかけるように遠ざかっているからだ。
だがブルーウォールズの連中は俺の言う事などに耳を貸さず、ただただここから逃げたい一心で、動かない足を必死で動かし逃げている。それが余計にあのクジラ頭を引き寄せているとも気付かずに。
「バカめが!」
俺はゲイルで飛びドタドタと逃げ回るブルーウォールズの連中に向かって空雷弾を連射する。
ブルーウォールズの連中は身体を硬直させその場に崩れ落ちる。
地面の中の気配は追う者がいなくなりしばらく身を潜めた。
「もうだいじょぶなのか?」
「静かにしたほうが良いみたいっすよ?さっきの奴は音や振動に反応するみたいだから」
心配そうに言うベッカ弟にハリアー君が助言する。ハリアー君、グッジョブ!俺はハリアー君に向かってサムズアップする。
「なんなんだねこれは!お前がやったのか?」
「事情を聞かせて貰おうか!」
誰かが通報したのか衛兵さんがふたりやってきて俺に向かって大きな声を出した。
ビゴロ君達は必死で鼻に指を当て衛兵さん達にシーと静かにするようジェスチャーするが衛兵さんは気に留めもせず俺を誰何する。
地中の気配が衛兵さんの方に向かう。
「逃げて!」
俺はゲイルで衛兵さんに向かって飛び抱きつくようにタックルをする。
「貴様!」
「抵抗するか!!」
叫ぶ衛兵さん、弾け飛ぶ地面。
「ぶはっ!!間一髪!」
俺は衛兵さんを地面に置き向きなおる。
地面からはクジラ頭が大きく身を乗り出し口をパックリ開け俺達を喰らおうとしていた。触手はさっき散々切り裂いてやったのが効いたか出していない。
その代わり今度は直接パックリといこうってのか。
「そうはさせるかよ」
俺は両手を前に出し力を込めて土魔法を放つ。軽自動車サイズの岩が俺の手から放出されパックリ開いたクジラ頭の口の中に飛んで行く。
堅いものが砕けるような音と柔らかいものが潰されるような音が混じった嫌な音がする。
「バビュウウゥゥゥゥゥゥ」
断末魔なのか空気が抜けるような音がしてクジラ頭は絶命する。
恐る恐る近付いて見ると穴のなかには尻尾状の円錐が確認でき、こいつの全貌がほぼ見える事になった。
クジラのような頭をして口から触手を出し、地中を動く巨大な芋虫みたいな生き物。
ううむ、前世の映画で見た事あるやつ!
「うううっ」
「いたたた」
衛兵さん二人が頭を押さえて起き上がる。
「大丈夫ですか?」
俺は地面に放り出したままだった衛兵さんふたりに声をかける。
「大丈夫だが、こいつはオルゴイホルホイじゃないのかね?」
起き上がった衛兵さんのひとりがクジラ頭の死骸に近付き言う。
「だとしたらマズいぞ!早く!みんなここから逃げるんだ!」
もうひとりの衛兵さんが叫んだ。ブルーウォールズの連中は頭を振りながら起き上がりキョトンとした目でそれを見ている。
「何がマズいんですか?」
俺は衛兵さんに尋ねる。
「オルゴイホルホイは死ぬと肛門から強烈な毒のガスを放出するんだ。見ろ!あんなに身体がふくれている!マズいぞ!」
衛兵さんが悲鳴を上げるように言うとブルーウォールズの連中は一斉に逃げようとする。しかし、空雷弾を喰らった直後で身体が上手く動かないのかふらふらしてお互いぶつかり合ったり、四つん這いになったりで遅々としてろくに逃げられていない。
「マズイ、マズいぞ!もう間に合わん!」
衛兵さんが悲痛な声を上げる。直後にバッフン!と大きな音を立てオルゴイホルホイはケツからガスを噴射。ガスは穴の中に充満し外へと漏れる。
俺は風魔法で竜巻を穴の上に発生させる。
ガスは見る見る巻き上げられて空中に霧散していく。
「おお!助かったぞ!」
衛兵さんが声を上げる。
「やった!やったぞ!」
「俺達助かったのか?」
「助かったぞ!」
「ううっ、死なずに済んだんだな」
へたり込んだブルーウォールズの連中が手に手を取って喜び合う。
「君達、詳しい事を教えて貰おうか」
衛兵さんは俺達を見て冷静にそう言った。
俺達は経緯をザックリ話して聞かせた。
「…ふうむ、しかし我々はカッシュリー商会から通報があって来たんだよ」
俺達の説明を聞いた衛兵さんは怪訝そうな顔でそう言った。
「へ?当の本人が?なんて言ってたんだよ?」
ベッカ弟が衛兵さんに尋ねるが思い切りため口なため衛兵さんは少し嫌な顔をする。
「コホン、街のチンピラに商品が盗まれた、商品は危険な魔獣なのですぐに取り返して貰いたい。とね」
「どういう事だよクルース?」
衛兵さんの説明に首をかしげながら俺に効くビゴロ君。
「まあ、見当はつくけどとりあえず後にしよう。じゃあ、衛兵さん、僕らは巻き込まれた被害者という事でよろしいですかね?よければ見つかった荷物を確認に行きたいんですけど」
俺は衛兵さんに言う。
「うむ、主犯は彼らのようだし、行って良いだろう」
衛兵さんは増援の衛兵さんに縛られているブルーウォールズの連中を見て言う。
「ただし、後で聞きたい事ができるかも知れないから連絡が取れるところにいてくれよ?」
「は~~い!んじゃ急ごうぜ!」
ベッカ弟がなめ切った声を上げ衛兵さんの眉がピクつく。いちいち衛兵さんを煽るような事は慎んでほしいもんだ。
そうして俺達はひとまず解放され、伯爵の待つ倉庫へと急いだのだった。




