まだあるんかい!って素敵やん
「本当にここで良いのかね?看板が掛けられていないようだが?」
ヘルマセール伯爵は馬の速度を緩めバンに声をかける。確かに周囲の倉庫には商会名や個人名の記載された看板が掛けられているが、ここにはそれがない。
「あれ?ホントだ。おかしいな?それに見張りもいないし」
バンがキョロキョロと周囲を見渡して首をひねる。どうも、本当に戸惑っているようだ。
「どうなっているのだ?」
伯爵が拍子抜けしたような声を出す。
「私にもわかりません」
「どうします伯爵?もしかしたら我々の来るの察知して待ち構えているかも知れませんよ?」
「どうもこうも、行くしかあるまい。な~に、罠なら罠で真正面からぶち壊すまでよ」
伯爵はメイスをグルリと回して言う。ううむ、初めて見た時は智謀知略に長けた老獪な人物かと思ったが、実は現場好きの豪傑タイプだったのか。
いやハンドラーみたいなところからも目を付けられるって事は権威、人脈等も兼ね備えた方と考えた方が良いか。
俺はバンさんと共に倉庫のトビラに手をかける伯爵の後ろ姿を見てそんな事を思った。
「私です、バンです。誰か、いませんか?」
恐る恐ると言った感じでバンが声を上げる。
俺もふたりに続いて倉庫の中に入るが中には誰もいない。呼吸を整え倉庫内の気配を探るが人の気配は感じられない。
「おかしいです。荷物を置きっぱなしなのに誰もいないなんて」
バンが言うように倉庫の中には色々な荷物が山積みになっている。
俺は念のため倉庫内を歩き回り人がいないか確かめる。
「やはり誰もいないようです」
俺は伯爵に報告する。
「どうなっておるのだ?」
「私にもさっぱり」
伯爵に言われたバンが首を振る。
「クルース君、君達が盗まれたと言う荷物はあるかね?」
今度は俺に聞く伯爵。
「すいません、ちょっと自分には判断がつきかねます。仲間だったらわかると思うんですけど」
「仲間はどこにいるのかね?呼んですぐに来れる場所にいるのかね?」
「アニスタなんでひとっ走りすればそれ程時間はかからず呼んでこれますけど」
俺は伯爵に答える。
「よし、それでは君は仲間を呼んで来たまえ」
「伯爵はどうされるんです?」
また無茶をしやしないかと俺は心配になって尋ねる。
「私はここの衛兵に声をかけて見る」
ならば安心だろう。もし万が一、ここの衛兵にどこかの誰かに買収されていたとしても、さすがに伯爵相手には無茶はできないだろう。
俺は了承し仲間を呼びにアニスタへ向かう事にした。
「おい、ストーム。聞いてるか?」
「うん、聞いてるよ」
アニスタへ向かう道中、俺はストームに通信し経緯をザックリ話す。
「やっぱりね」
説明を聞いたストームはひとり納得したような声を出す。
「やっぱりってどういう事だよ?」
「権力だよ権力。相手は伯爵が直接やってくる事を知ったんだろうね。伯爵レベルの人間に直接出向かれたら、めったな事じゃ誤魔化しはきかないよ」
「それじゃあ、やつらは尻尾を巻いて逃げちゃったってのかよ?」
「まあ、そうだろうね」
「マジか。じゃあ、俺らの不戦勝って事か」
「そうとも言いきれないなあ」
ストームは煮え切らない様子で言う。
「なんでだよ?」
勝ちって事でいいじゃんかよ。
「看板が外してあったって言ってたよね?カッシュリー商会はまず関与を否定するだろうね」
「なんの関与だよ?」
「すべてのさ。中の荷物もアエシュマも人造魔神もハンドラーとの繋がりも何もかもだよ」
「んじゃなにか?今回の件じゃ肝心の黒幕は引きずり出せないってのかよ?」
「そうなるね」
「んだよ、それじゃ骨折り損じゃないかよ」
「そうでもないよ。僕たちの当初の目的を忘れたの?」
「当初の目的?なんだっけ?」
「もう!クルース君ボケ過ぎだよ。街道の通行を安全なものにする事でしょ?」
「ああ、そうだったそうだった」
マジで忘れてた。もう、間に色々挟み過ぎだよ。
「そうだったって、もー。まあ、クルース君らしいっちゃらしいけどね。とにかく僕たちの任務は無事終了、盗まれた荷の回収までできたら、もう最高だよね」
「確かにそう考える事もできるな。よし、んじゃ急がねーとな」
「ちょっと待って、ケイトさんに代わる」
「ケイトです」
通信相手がストームからケイトに代わった。
「お、どした?」
「ファブロー君達と連絡が取れました。そちらに向かうそうですので、倉庫にお戻り頂いて結構です」
「マジ?良く連絡取れたな?」
「ええ、向こうから学園に連絡があったので、すぐに取り次いでもらったんです」
「おう、そうか。さすがだなあのふたり」
「さすがじゃありませんよ、あなたも見習いなさい」
ケイトに怒られちまった。ここで、そっちもだろうなんて言うのは愚の骨頂、忙しかったと言い訳するのも火に油を注ぐようなもの。
そこら辺を心得た俺は素直に謝るのだ。
「スマン、今度から気を付けるよ」
「ホントですよっもうっ」
「そんな訳だから、彼らを迎えには行かなくて大丈夫」
プリプリと怒ったままケイトは通信をストームに代わった。ううむ、こんな時はどんな手を使っても結局怒りを鎮める事は出来ないんだよな。まあ、こんな時もあるわいな。
「お、おう。んじゃあ、ここで奴らの到着を待つ事にするわ。せっかくここまで来ちゃったんだし」
「ふふ、そんな暗い声出さないでよ。ケイトさんだって本気で怒ってる訳じゃあないんだから、それだけ、クルース君の事を心配してたって事だよ」
「余計な事を言わないで下さい。本気で怒ってますから」
ケイトの声が薄く聞こえる。
「たはは、まあ、そんなに気にしないで、ね?」
「ああ、ケイトには、わたくしことクルースは思い起こせば恥ずかしき事の数々、今はただ後悔と反省の日々を過ごしております、と、こう伝えてくれい」
俺はストームに、前世で好きだった映画の主人公が最後にはがきで家族に書く名文を使ってケイトへの謝罪をお願いする。
「聞えてます。ふざけ過ぎです」
ケイトの声が薄く聞こえる。
「末筆ながらケイト様のお幸せを遠い異国の空からお祈りしております、とこう付け加えてくれ」
「もう、魔導二輪で聞いてるからふたり共聞えてるんだって。あんまりケイトさんを煽らないで貰えますか?こっちにも被害が及びますから」
「なんです?」
ケイトの怖い声がストームに向かって放たれる。そうそう、矛先が変わってくれれば俺としてはラッキーだ。
「僕を矢面に立たせようたって無駄だよ。ケイトさんはバカじゃないんだから」
「おいおい、おっかねー事言うなよ。そんな事、思っちゃいないってーの」
俺はストームに言い訳する。心の中が読まれそう、メイクをもっと濃くしなきゃダメかしら?
「ふう、まあ、いいんだけど、あんまり油断しない方がいいかもよ?」
ストームが怪談話をするようなトーンで言う。
「おいおい、脅かすなよ。すべて済んだって言ったのはお前だろ?」
「すべて済んだとは言ってないよ。街道を通行可能にできたって言っただけさ」
「あと、荷が取り戻せたとも言ったろ?」
「それは確認して見ないとわからないでしょ?まあ、あるんだろうけどさ」
「じゃあ、万事解決でいいじゃんか」
「嫌な予感がするんだよね。カッシュリー商会ってのはきな臭い噂しか聞かないからさ。例えばさ、クルース君がいるあたりだとブルーウォールズっていうギャングがいるんだけどさ、カッシュリー商会はそこと繋がりがあるって言われてるわけ」
「でも、あれだろ?カッシュリー商会がケツまくってるんだから、そいつらだってもう関係ないんじゃないんでしょうか?」
俺はストームの話を聞いて嫌な予感が伝染したのかついつい語尾が弱くなってしまう。
「それが、そのブルーウォールズってのがとんでもない連中でさ。今まで、幾つかの大手暴力組織が吸収しようと試みてきたけど、ひとつも上手く行かなかったってのよ。同系列の組織にケンカを売りまくったり、上納金をかすめたり自分達にきつく当たる幹部を闇討ちしたりと好き放題でさ」
「めちゃくちゃじゃねーの」
「そうなんだよ。とにかくそこの連中は揉め事作って暴れたいって連中だからさ。一応、気を付けておいた方がいいと思ってさ」
「そんな連中、すぐに衛兵に取っ捕まっちまうんじゃねーの?」
「その衛兵に効かせた鼻薬の効果が切れてればね。今日の今日じゃ、どうかなあ?」
ストームが頼りない声を出す。
「勘弁してくれよ。ちょっと連中を迎えに行ってくる」
「その方がいいかもね」
俺はアクセルを開き街道を走った。街道は舗装され道は良い。すれ違う馬車や人もまばらでハイペースで走る事が出来ている。
と、前方から凄い速さでこちらに迫る馬車を発見。
俺は速度を緩める。
「あ!クルース君っ!」
馬車を操縦する御者が俺を見て声を上げた。ハリアー君で間違いがない。近付く馬車の後ろには複数の馬。どうやら何者かに追われているようだ。
「助太刀するぜ!」
俺は馬車とすれ違い、後方から追って来る馬に向かって魔導二輪をスライドさせてぶつける。
追手の馬はいななきを上げ竿立ちになり乗り手を振り落とす。
俺はそのままターンをし前を走る馬車を追いかける。
「おう!クルース!いいとこにきたなー」
「ったく、来るのがおせーんだよ!」
ビゴロ君に続いてベッカ弟が大きな声を上げる。後ろから追いかけてくる馬の乗り手がこちらに向かって矢を放ってくる。俺は後ろに左手を回し空雷弾を連射する。
バチバチと音がして幾つかの矢が弾けるが当てそこなった矢がふたつ、馬車のケツに突き刺さった。
「なめんな!」
ファブロー君が突き刺さった矢を抜き持っている弓でつがえて放つ。
「ったく、なんなんだよこいつら!敵の親玉は逃げちまったんじゃねーのかよ!」
ベッカ兄が迫る追手を手にした槍の柄で突き言う。
「こいつら、ブルーウォールズだろ?腕に青い腕章付けてやがる」
モーニングスターの鉄球を振り回し追手を撃退しながら言うスベン君。
「カッシュリー商会の下請けやってたんだと」
俺は言いながら敵が振り上げたハルバードを後ろに回って奪い取る。
振り上げた武器を俺に引っ張られた敵は落馬し転がって行く。
「なんだってこんな物騒な武器ばかり使ってんだよ!ったく、危なっかしい!」
俺は追手の大男が振り回す戦斧にハルバードの先を叩きつける。
ハルバードの先は折れ、戦斧を持った男はその衝撃に腕が妙な方向を向いてしまい獣のような声を上げ後方に消えていく。
「ブルーウォールズって言えば音に聞こえた超武闘派集団だからな。さもありなんって感じだぜ!」
ベッカ弟は嬉しそうに言いややスリムな戦斧を振り回す。どうやらベッカ弟は次から次へと敵から武器を奪い取っては新しくしているようだ。今振り回してるのはバルディッシュって奴か?まったく、現状を楽しんでやがるな。
ふと馬車を見ると敵の矛を奪い取ったハリアー君がそのまま手にした矛で敵を突き落とし、そいつの馬に飛び乗っているのが目に入った。
「いざ尋常に勝負!!」
ハリアー君は叫びながら馬を走らせ周囲にいる敵を突き落としている。持っているのは先端が三日月のようになっている矛だ。ううむ、敵もいろんな武器を持ってますなあ。
武器のデパートやでえ。




