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家族と一緒って素敵やん

 「おい!こら!諦めて馬を止めろ!」


 「おいこらとは品が無いなクルース君。こういう時はな、こう言うのだ。大人しくしないと頭を吹き飛ばすぞ!」


 伯爵はドスの効いた声で言いながらメイスを振り回した。


 「ぐっ、わかった、わかったから、もう逃げないから乱暴はしないでくれ」


 馬上の男はそう言って速度を緩め馬を止めた。


 「どっちにしてももうこれ以上走れないしな」


 男は諦めたように言い、馬を降りた。俺達も魔導二輪を降り男に近付く。


 「で?なんで逃げた?」


 「逃げたんじゃない、報告に走っただけだ」


 「おや?君は見た事があるぞ?確かスプレーンの」


 俺の質問に憮然とした態度で答えた男にヘルマセール伯爵が首をひねり考える。


 「カッシュリー商会のバンですよ」


 男、バンは不貞腐れたように答えた。


 「そうそう!カッシュリー商会の業務責任者のセッター・バン君だったね」


 「カッシュリー商会とは?」


 納得する伯爵に俺は尋ねる。


 「レンダン王国の商会でね、バッグゼッドで最も成功している国外商会だよ。我々の力になるからとスプレーンから紹介されたんだが、一体こんな所で何をやっているんだね?」


 伯爵は俺に答えながらバンを見る。


 「それに応える事はできないですね。答えれば国際問題になってしまう」


 バンは開き直ったように堂々とした態度になる。


 「レンダン王国とバッグゼッドの関係性ってどうなんですか?」


 「微妙だな、魔導機関に必要な鉱石の大きな輸入先なのだ。顔色をうかがうような相手ではないが、強く出られる相手でもない」


 「なるほど、わかりました」


 それじゃあ、ゼークシュタイン閣下達を頼る訳にもいかないな。


 「わかったら、行って良いか?私にも仕事があるんだ」


 「…ちょっといいかい?クルース君?」


 半分キレたような態度で言うバンの言葉に被せるように通信機の向こうからストームの声。


 「おう」


 俺は小さく短い返事をする。


 「カッシュリー商会についてはかねてから妙な噂を聞いていてね。国外に出向させた者には必ず家族を帯同させ、家族宿舎に住まわせているんだけどそれがある種の人質になっているって言うんだ?」


 「どういう事だ?」


 思わず声が大きくなり伯爵とバンが俺を妙な目で見る。


 「つまり、カッシュリー商会は従業員に表に出せないような仕事をさせている、それも出向するまでその事実は知らされていないようなんだよね。ベンと言ったっけ?その彼も話せない理由はもしかしたらそんな所にあるんじゃないかな?」


 「バンな。ありがとう、その線から聞いてみるよ」


 「ああ、こっちもカッシュリー商会の家族宿舎を探ってみるよ」


 「頼む」


 「どうしたんだね?誰と話しているんだね?」


 伯爵が訝しむので俺は被っているニット帽型通信機の事を話し、ストームが話した事をざっくりと説明した。


 「…という事を聞きましてね。バンさん、あなたも家族を人質に取られているのではないのですか?」


 「……」


 バンが押し黙る。


 「だとしたら、それは許せん!今から彼の家族を助けに行こう!」


 「無駄だよ、今からじゃ間に合わないさ。すぐに俺が戻らないと、家族は別の場所に拉致されちまう…」


 義憤にかられる伯爵の言葉に項垂れるバン。


 「戻るとはどこに?」


 俺はバンに聞く。


 「この先の街にあるカッシュリー商会の倉庫だ」


 「それなら、すぐに間に合うぞ」


 伯爵が言う。


 「だが、あんた達を連れて行けば家族は無事には済まない」


 「家族のいる宿舎の場所を聞いてクルース君!」


 「家族のいる宿舎はどこにある?」


 俺はストームに言われてバンに尋ねる。


 「メトラムだ」


 バンは力なく答える。


 「よし!だったら大丈夫!」


 通信機の向こうからストームの大きな声が聞える。


 「家族の名前を聞いて!」


 ストームに言われ俺はバンに尋ねる。


 「妻のネリーと娘のリーンのふたりだ」


 「メトラムならここからすぐだよ、僕とケイトさんとでご家族を確保するよ!」


 「連れがご家族を確保するって言ってるよ。無事に確保出来たら協力してくれるね?」


 「あ、ああ。それができれば協力するよ」


 バンは力なく答える。


 「だったらまずは目的地に近付いておきましょう。伯爵、馬に乗れますか?」


 「勿論だよ」


 「では、彼を後ろに乗せていきますので馬で目的地近くまで案内お願いできますか?」


 「おう、任せよ」


 伯爵は嬉しそうにそう言って馬に乗りこむと颯爽と走って行く。


 「気が早いなあ、さあ、バンさん。後ろに乗って」


 「あ、ああ」


 俺は恐る恐るリアシートに乗ったバンを確認し、魔導二輪を走らせ伯爵を追う。


 「本当に家族を助けるなんてできるのか?」


 「そんなに宿舎ってな守りが固いのか?」


 「ああ、チンピラみたいな奴が常駐していて、買い物に行くのも必ず誰かがついて来るんだ」


 「だってよ、聞えてるか?」


 俺はストームに声をかける。


 「ああ、聞えてる。もう宿舎につくよ。あらあら、これは確かにチンピラみたいのがたむろしてるよ。ああ、ケイトさんが行っちゃった」


 通信機の向こうでストームが呆れたような声を出す。


 「ど、どうなってんだ?」


 「連れが宿舎に到着したみたいだ」


 「あちゃー、チンピラがケイトさんの事突き飛ばそうとしたよ。こりゃ、もうダメだね。止める暇もないし。ああ、瞬殺だったね。ちょっと行ってくるよ」


 ストームが言う。


 「どうした?やっぱり無理だったのか?」


 「いや、宿舎の前にたむろしてたチンピラが連れに暴力を振るおうとして返り討ちにあったようだ。今、宿舎の中に入るとさ」


 「ホントかよ」


 後ろからバンの気の抜けたような声が聞えてくる。


 「ちわー、バンさん親子はご在宅ですかー。ネリーさーん!リーンさーん!いらっしゃいますかー!あ!ケイトさんが見つけたみたい。バンさんのご家族さんですか?クルース君、通信機をバンさんに」


 「おう、バンさん、こいつを被ってくれ」


 俺は左手でニット帽型通信機を外し後ろのバンさんに手渡した。


 「あ、ああ。ネリー?ネリーなのか?リーンも一緒か?そうか、わかった。落ち着いて聞いてくれ。迎えに来た人達の言う事を聞いてくれ。お前が言ってた通りだった、やはりこの商会にいたら碌な事にはならない、何かトラブルに巻き込まれるって。ああ、大丈夫だ、足抜けするには丁度良い機会だったのさ。とにかく、私は無事だ。今からケジメを付けに行く。大丈夫だ、一緒にいるのはバッグゼッドの伯爵様とかなり腕の立つ兵士だ…」


 いや、俺は兵士じゃないんだけどな。


 「…ああ、君を迎えに来たのもその兵士の仲間だ。宿舎の前にいるあのチンピラ共もあっという間に無力化してしまったんだ、だから何の心配もない。すぐに、ふたりの元に戻るよ。ああ、わかった、うん、またな。これを返してくれって」


 「ああ」


 俺はバンから通信機を受け取り頭に被る。


 「代わったぞ」


 「ケイトです」


 「ああ、手数かけたな」


 「何を言ってるんですか。それより、今後の事なんですがこちらはバンさん親子を連れて一旦学園に戻ります。今、ストームさんが学長と話をつけていますから、ご家族の事は心配しないようにお伝えください」


 「あいよ、わかったよ」


 「ジミーさん、くれぐれも無茶はしないで下さいよ」


 「そりゃヘルマセール伯爵に言って欲しいな」


 俺は馬に鞭をくれながらトップスピードで走り続ける伯爵を見ながら言う。暴れん坊伯爵かよ!普段は遊び人として市井の人に紛れ込んでたりするのか?


 「伯爵がついているのなら、案外話は早いかも知れませんね」


 「どういう事だ?」


 「なんだかんだで権力が強いって事ですよ」


 「なんだかわかんないけど、まあ、頼むよ」


 「任せて下さい」


 ケイトの返事で通信が切れる。俺はアクセルをひねり伯爵の馬と並ぶ。


 「どうかしたかね?」


 「こっちは片が付きました。直接倉庫へ向かいましょう」


 「心得た!」


 伯爵はニヤリと笑い速度を上げる。おいおい、大丈夫かよ?馬、潰れないだろうな?俺の不安はどこへやら、馬は快調そのもので力強くリズミカルな走りを見せる。

 どうやら伯爵は乗馬もかなりの腕のようだな。


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