野生の二人って素敵やん
「ご主人様!おやめください!危険でございます!」
「そんな格好をなさるとは!嘆かわしゅうございますぞ!」
「止めてくれるな!男にはやらねばならぬ時があるのだ!」
ヘルマセール伯爵は嬉しそうな表情ですがる執事たちにそう言い服を着替えた。
やはり嫌な予感は的中する、このお方、俺と一緒に行動するつもりのようだ。
「どうだねクルース君?これで私も市井を生きる者に見えよう」
悲嘆にくれる執事たちの前でお着換え後の姿を俺に見せる伯爵。
折り返しカフのついた濃紺のスーツ、シルクのような上品な光沢を見せるコットンシャツ、細身のボウタイ、市井の者というよりもおしゃれな紳士、もしくはやり手情報部員といった佇まいだが。
「ええ、まあ、良しとしますか」
「ほらみろ!クルース君もそう言っておる!いざ行かん!敵の拠点へ!」
伯爵は嬉しそうに言い、右手をつき上げた。
「仕方がないならば我らも行きますぞ!」
「バカを言うな!それではせっかくこうして変装をしたというのに意味がなくなるだろう!少しは考えよ」
「しかし、それではやはり、あまりにも…」
「くどいぞ!」
尚も食い下がる執事たちに一喝する伯爵。
「わかりました。ならばクルース様、ご主人様をくれぐれも頼みましたぞ!」
執事たちが一斉に俺を向き懇願するような目で見てくる。
「ううっ、わかりました、無茶はさせないようにしますから」
にじり寄る執事たちに俺は後退りながら言う。
「くれぐれも、御頼み申しますぞ」
「へ、へい、お任せください」
俺は祈るような目をしてこちらを見る執事に何とかその言葉だけ返し、意気揚々と歩いて行くヘルマセール伯爵を追いかける。
「ふむ、久しぶりだがまだ腕はなまっておらんようだな。どうだねクルース君?君はどれが好みかね?」
武器庫のような部屋に入った伯爵は細身の剣を振るいながら俺を見た。
「いや、俺は自前のがありますから」
「これから行くのは筋の良くない場所だ。丸腰で行けばかえって怪しまれかねんぞ?ふりだけでも良いから何かひとつ身に着けて行くと良い。目立つものなら尚更良いぞ」
腰に細身の剣を装着しながら言う伯爵。ううむ、そこまで言われちゃ何か身に着けていくか。
「ではこれで」
俺は壁にかけてあったメイスを手に取る。銀色を下金属製の柄、先端についた王冠のような形の頭部は青黒い色をしていて妙な迫力があった。こいつなら、相手を威圧するのに丁度良い。
「ほう、さすが目利きだな。そいつは当家に代々受け継がれてきたメイスだ。先々代はそれを持ち戦場で暴れたので敵からは魔獣司祭と恐れられたものだ。先端は当家の紋章からかたどられている」
「そんな歴史のあるものなんですか?別のにします」
「何を言うか!ここ最近では戦もめっきり減り、あっても術式具戦になってしまいそいつも寂しがっておる。君が使ってくれればそいつも喜ぶだろう。さあ、改めて出発だ!」
「わ、わかりましたよ」
元の場所にメイスを戻そうとする俺にかぶり寄り言う伯爵。俺はその迫力に負けてメイスを腰にぶら下げざるを得なくなった。
まるで遠足にでも行くようにはしゃぐ伯爵に続いて屋敷を出る俺。
「さてと、君は最新鋭の魔導馬車に乗って来たそうだが、どこにあるんだ?」
「こちらでございます」
伯爵の質問に俺より早くお付きの執事が答え魔導二輪を指し示す。
「ふむ、それが最新鋭の魔導馬車か」
「魔導二輪と申すようで、そちらのクルース殿も開発に携わっていると聞きます」
執事が答える。
「ほう?ふうむ、これは面白い。うちにも早速仕入れよう」
「はっ」
「ではクルース君、速く、出発しよう」
伯爵はそう言って魔導二輪のリアシートに座った。
「え?これで一緒に行くのですか?」
「何か支障があるかね?」
「いや、伯爵ともあろう方が、こんな品の無い乗り物で移動するというのもあれかと思いまして」
「だからいいのだ、これなら誰も私がヘルマセール伯爵家のものだとは思うまい。それに野趣あふれて良いではないか。さあ、早う早う」
伯爵は嬉しそうに言いシートを叩いた。
「うう、いいんですか?」
俺は近くにいた執事のおじさんに尋ねる。
「こういう時のご主人様は意見を曲げませぬ。よろしく御頼み申します」
とほほ、お偉いさんをケツに乗せて運転するだなんて、女の子を乗せるより緊張するんですけど?
伯爵はそんな事は何も気にならない様子で別の執事と話をしている。
「クルース君!ウォルカイの場所を聞いたぞ!早う早う!」
はしゃぐ伯爵。
やれやれ。
俺は魔導二輪に跨り伯爵に声をかけアクセルをひねった。
「おう!動いた動いた!なんと力強い事よ!」
大喜びの伯爵。普段、責任あるお仕事で気を張ってばかりいるのでこういう時には子供のようになってしまうのかな?そう言う事にしておこう。
俺は大はしゃぎする伯爵を乗せ魔導二輪を走らせる。
伯爵は要所要所で道案内をしてくれるのでそれに従い走らせる。
いかにも田舎風で古めかしい商店が立ち並ぶ通りを抜け、一件のお店に到着する。
「ここでいいんですか?」
「ああ、ノブランに聞いた通りの場所だ。屋号もあっているし間違いなかろう」
確かに伯爵の言う通り、店の看板には『ウォルカイ商店 国内外取り揃え地域一番』と消えかけの字で書かれている。
俺は店の隅に魔導二輪を停める。
「では行こうぞ」
「はい」
俺は楽しそうに言う伯爵に続いて店に入った。
「おい!主人!ミルクと焼きビールつまみはなしだ」
店に入るなり元気良く言う伯爵。あちゃ~、こう言うのはもっと後ろ暗い感じで伏し目がちに小さな声で言うもんでしょうに。やっぱ、伯爵に任せちゃいけなかったか。
「少々お待ちを」
店の主人は品定めするかのようにこちらを一瞥すると、そう言って店の奥に入って行った。
「ちょっとまずいんじゃないですか?」
「何がだね?」
「いや、ああいうのはもっとコソコソと言うもんじゃないんですかね。店の主人、怪しんでませんでしたか?」
俺は平気な顔をしている伯爵に小声で言う。
「別にやましい事をしている訳でもあるまい、コソコソするのは性に合わん」
「そっすか」
俺は心の中で深いため息をつく。さすがこんな鈍器で武勇を上げたご先祖様をお持ちなだけはあるわいな。俺は腰にぶら下げたメイスを見てそう思った。こいつの頭部の色がまだら気味なのは戦場で数多の敵の血を吸ってきたからじゃあないやろな?そう思うと、途端に腰が重くなってきた。変なカースとかかかってないよな?身に着けてると無性に人をぶん殴りたくなるとか?気を付けなきゃいけないぞ。
「ブヒヒィィィィィン!!!」
そんな事を考えていると店の外でいななきが聞こえ、激しい馬の足音がした。
「む!」
伯爵は一言唸ると店の外に飛び出していく。ほら、言わんこっちゃない。
「逃げるとは卑怯な!追うぞクルース君!」
遥か先を走り去る馬を見て伯爵が声を上げる。
俺は魔導二輪に飛び乗る。伯爵もリアシートに飛び乗る。なんだかんだ息があって来ているのが怖い。
アクセルをひねり先行する馬を追う。
「クルース君!後ろから来るぞ!」
伯爵の声にバックミラーを見ると、恐ろしい勢いで馬が二頭、俺達を追って来ているのが見えた。
「うぉらっ!!」
「待てや!!」
馬の乗りてはそう叫び腰から剣を抜き斬りかかって来た。
「ふっふっふ、こうこなくっちゃいけないなあ」
後ろで伯爵が嬉しそうに言い、剣を抜く。
路面は未舗装路でわだちもありそこまで速度が出せない。
「伯爵!この状態では馬を引き離すのは難しかもです!」
「よいよい!君は操縦に集中し先行する敵を見失わないよう頼むぞ。腰の物、ひと時お返し願う」
そう言って伯爵は俺の腰に吊るしてあるメイスを取った。ひと時なんて言わないでずっと持っていて下さいよ。
「いざ参る!」
伯爵はそう言うと剣とメイスの二刀流で迫りくる馬上の敵ふたりと渡り合った。
「オラオラオラオラ!貴様らそれでもいっぱしの悪党か!根性が足らんぞ!!」
バギンバギンと重い音がして敵の馬がふらふらと不安定な動きをする。
敵の攻撃よりも片手でそれぞれの相手をしてる伯爵の攻撃の方が重く正確なようで、向こうさんは困惑してきているのか攻撃の手数が少なくなっている。
「かっかっかっか!そんな事で我らが止められるか!!」
伯爵は大笑いをして右手に持ったメイスを一閃すると、右手の馬に乗った音がそれを剣で受けて吹き飛んだ。
「ほれほれ!貴様も吹き飛ぶが良いぞ!」
左手に持った剣で素早い突きを繰り出す伯爵。馬の手綱が切れ男は短い声を上げて落馬する。
「はっはっは!たわいもない!」
「速度を上げます!気を付けて!」
すぐ先から道が舗装路になっているので俺は伯爵に声をかける。
「おうおう!飛ばせ飛ばせ!痛快じゃ!」
伯爵はテンションマックスで言う。前方に走る馬が近付いて来る。
「ふっふっふ!良く逃げたと褒めて遣わすか」
伯爵が得物を前にした猫のように舌なめずりをして言う。
「そう簡単にはいかないみたいです」
街道脇から複数台の魔導二輪が飛び出て来たのを見て俺は言う。魔導二輪のタイプは初期型のダートトラックタイプ。ハンドラーの手の者でまず間違いないだろう。
「なんだ!奴らも魔導馬車に乗っておるぞ!」
「大方、非合法な横流し品でしょう」
「ふむ、むこうの方が軽やかじゃのう」
「安定性じゃこっちのが上です」
「なるほど、そのようだな」
伯爵は近づいて来た敵の魔導二輪のフロントフォークをぶっ叩きながら言う。ぶっ叩かれた魔導二輪は派手に前転してぶっ飛んだ。
「はっはっは!なんじゃあれは!カトンボのようではないか!」
伯爵が笑う。強烈な近接攻撃を受けぶっ飛んだ味方を見て他の魔導二輪たちは距離を取った。
距離を取った敵の魔導二輪部隊はこちらに向かって術式武具を向ける。
「しっかりつかまって下さいよ!」
「おうよ!」
俺は身を屈め魔導二輪を左右に動かしこちらに向かって放たれる術式攻撃を避ける。
「ちっ!飛び道具とは卑怯な!」
「ツッコみますから近付いた敵をぶっ飛ばして下さい」
「それは些か無謀ではないのか?」
さすがの伯爵も敵の猛攻にそんな事を言う。
「大丈夫です、ちょっと傾きますよ!」
俺は声をかけながらアクセルをひねりフロントタイヤを浮かせる。俗に言うウイリーだ。
竿立ちになり進む魔導二輪。こいつの動力部は特に固い素材で作られているので敵の術式具の攻撃は当たっても滑り大きなダメージにはならない。
「ほっほーーう!!こいつはいいぞ!」
地面スレスレに寝転んだような形になった伯爵は近づく敵の魔導二輪のリアタイヤ付近を片端からぶっ叩き、切り裂いていく。
俺達の乗った魔導二輪にすれ違われた敵の魔導二輪は軒並みぶっ飛ぶか転がるかして動きを止める。
「元に戻りますよ」
「心得た!」
俺はアクセルを緩め体重移動でフロントタイヤを接地させる。
「なんとも痛快よ!悪党どもは残さず退治じゃな!!」
伯爵が嬉しそうに言う。
「そっすそっす!世の中にゴミと悪党は残すなってね!」
俺は伯爵に続いて言いアクセルをひねる。先を行く馬が近付いて来る。
やっぱバイクで悪党と戦うってのはシビレルやねえ。今回は伯爵に任せきりだったけど、次の機会には走行中の射撃訓練をしていない者としている者の違いを見せてやりたい!
まあ、そんな訓練してないけど。




