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それぞれの道って素敵やん

 「ちょ、ちょい待ってくれよクルース。そりゃ、どういう事だよ?ここまで来てそりゃねーだろ!ハンドラーってななんなんだよ?そんなにヤベー連中なのかよ!」


 「そうだクルース!説明してくれよ!」


 バウミーを縛り上げる俺にベッカ弟とビゴロ君が詰問する。まあ、そうか、こいつらの気性じゃはいそうですかと素直に引き下がりはしないよな。

 俺はハンドラーについて軽く説明をする。貴族や大商会主など国の中枢を担うような人物が多くいる組織で、そいつらの目的はいわゆる世界征服にある事。その名前は世の中には広まっておらず、知っているだけでもリスクが伴う事。

 

 「…そいつらを相手にするって事は権力者や大金持ちを相手にするって事でね。どこのどいつが構成員かは奴ら自身も全容を把握してないくらいで、どこに潜んでいるか知れたもんじゃないわけよ。今まで、笑って付き合ってた相手や取引先、上司、先輩、もしかしたら親兄弟もその構成員かも知れない。本人も知らないうちにその手伝いをさせられている事も少なくない。実際、君らも似たような境遇だったわけだしな」


 俺が言うとふたりともつばを飲み込みしばし押し黙った。


 「…ほ、ホントにそいつら世界征服なんかするつもりなのかよ?マジでそんな組織が存在するってのかよ?」


 「今、お前も見ただろ?少なくともこいつとヘルマセール伯爵は本気でそいつに付き従ってるってわけだろ?」


 なんとか言葉を絞り出したベッカ弟にビゴロ君がまるで自分自身を納得させるかのようにそう言った。


 「彼らのような考え方をするものは少なくは無いよ。例えばラザインの告知者って団体も突き詰めれば自分達の思想に賛同しない者はゆくゆくは神によって滅ぼされ、選ばれた民のみの世界がやって来ると信じているわけだからね。そして、そうした思想はラザインの告知者だけのものじゃあないわけだ」


 「別にラザインの告知者なんておっかなくもなんともねーぜ。あんなのちょっと頭のイカレた連中だろう?ハンドラーって奴らも似たようなもんなんだろ?」


 ベッカ弟が俺に言う。


 「ラザインのような団体を舐めちゃいけないよ。あの構成員は普段はごく普通の人々なんだ、それが上の指示ひとつで自分の命も投げ出してしまうようになる。それがどれだけ恐ろしい事かわかるか?」


 「わかるぜ。俺らみたいな愚連隊もさ、百人の兵隊よりもヘッドのために命を捨てられる五人の兵隊がいるチームの方が強いって良く言うからな」


 ビゴロ君が言い、ベッカ弟がつばを飲み込んだ。


 「今度の相手は更に構成員が権力や財力や人脈を持っていると考えてくれ」


 「そりゃ、ヤベーだろ!ヤバすぎるぜ!そんな奴らを怒らせたら何をされるかわかったもんじゃねー」


 「考えられるだけでも家族や仲間に嫌がらせしてくるのは間違いないだろーな」


 俺の言葉にベッカ弟とビゴロ君が険しい顔をして答える。


 「そう言う事なんだよ。俺は親も兄弟もいない身だし知り合いにはかなりの権力者や武術の達人がいるから、なんとかなっているんだよ。そんな訳だからさ、ここから先は俺に任せてハンドラーの事は忘れて欲しいんだよ」


 「忘れて欲しいってオメェ、残した連中をどうやって納得させりゃあいいんだよ?」


 「そうだよ、おりゃあアニキに嘘をつくのは嫌だぜ?」


 「申し訳ねーが、そこはふたりで上手い事、考えて欲しい」


 「「そりゃねーだろー!」」


 俺が言うとふたりが声を揃えて言う。


 「でもなあ、ついてきたらこんな状況がもっと増える事になるんだぞ?すでにハンドラーの名前を知った事で何か良からぬチョッカイがかけられる可能性もあるんだ」


 「お前はどうするんだよ?一緒にいる仲間にどう説明すんだよ?」


 ビゴロ君が切ない目をして俺に問いかける。


 「そうだな、叔父が大きな商会主なんでそっち絡みで話をつけて貰ったとでも言うさ」


 「オメェ、いつもそんな感じなのか?仲間に全部話せねーで生きてるんか?そりゃあよう、ちっと苦し過ぎんだろ…俺らでよきゃよう、ここまで首突っ込んじまったのもあっからよう、話を聞くぐらいはするぜ?勿論、話せる範囲で構わねえからよう」


 ベッカ弟が絞り出すようにそんな事を言った。

 こいつら、根はいい奴じゃねーか。 


 「ありがとよ。でも、俺の事情を全部知ってる仲間もいるから大丈夫だ。お前らの方こそ、今後ハンドラーを臭わす怪しい影に悩まされたら俺んとこにすぐ来いよ?つーか、すぐに教えてくれると助かる。これはお願いだ」


 俺は二人にそう言った。


 「わかったよ。男張ってりゃそんな事もあるよな」


 ビゴロ君が言い俺に握手を求めた。俺は握手を返し頷く。


 「んじゃあ、よ。俺らは行くけど、くどいようだが本当に大丈夫なんだな?」


 ベッカ弟が握手を求めながら俺に言う。


 「ああ、ここからはどっちの知り合いの方により強い権力者がいるかってゲームになると思うからね。最悪、すごすごと引き下がるだけで、命までは取られないさ」


 俺は握手に応えながらそう言った。実際の所は相手の出方次第になるだろうけどな。まあ、嘘も方便だ。

 

 「じゃあ、お前らは衛兵にこいつらの事を連絡するのと、残した連中への上手い言い訳をお願いするよ」


 魔導二輪に跨る俺は二人に言う。


 「おお、任せとけ」


 「武運を祈るぜ」


 俺は二人に手を上げアクセルをひねった。

 あ!そういやあ。俺は魔導二輪を停めてふたりに振り返る。


 「どうした?」

 「やっぱ、俺らも一緒に行くか?」


 ふたりが心配そうに俺を見た。


 「ヘルマセール伯爵の家、教えてくれない?」


 俺の問に二人はズッコケる。


 「おいおい、知らないで出発しようとしたのかよ?」


 「こいつひとりに任せて大丈夫なのかねえ」


 ビゴロ君とベッカ弟は微妙な顔をして俺を見た。


 「たはははは、こりゃ一本取られたな」


 俺は笑いながら頭を掻いた。


 「ヘルマセール伯爵の屋敷なら街道の先、バルザルの街だ。こっから幾らもかからねーよ」


 「ありがとさん!んじゃ改めてさらば!」


 「ホントにダイジョブかね?」


 「まあ、ああいうお茶目な所が人を惹きつけるんんじゃねーの?知らんけど」


 背中に二人の生暖かい視線を感じながら俺は街道へ進み、バルザルの街方面へ向かった。

 

 「お~い!クルース君!聞えますか~?」


 魔導二輪のハンドル付け根、トップブリッジ中央部から声が聞える。


 「お?その声はストームか?どうした?」


 「どうしたじゃないよ、もう。さっきから声かけてんのに返事がないから心配しちゃったよ」


 「悪い悪い、ちょいと魔導二輪から離れてたもんでさ。通信装置がついてるなんて知らんかったし」


 「僕も知らなかったけど、ハンドル付け根についてるのどう見ても音声発生装置でしょ?だから通信設備も必ずあるとそう睨んだんだよ。左手のグリップ根元にスイッチあるでしょ?それを押すと発信できるんだよ」


 「ほうほう、なるほどなるほど。んで、何の用だ?」


 「何の用はないでしょー、お互いの状況を話しておくべきだと思って通信したのにー」


 「ははは、悪い悪い、んじゃそっちから教えてくれよ」


 俺はストームに言う。


 「もう、じゃあ伝えるよ。僕らの方は峠の山賊とやらを順調にやっつけてはねぐらを潰し、衛兵さんに連絡するを繰り返してたんだけどね、フルーズの衛兵さんがまったく動こうとしなくってさ。それどころか僕たちを市民に暴行を働いた罪で投獄するなんて言うんだよ」


 「そりゃ無茶な話だな」


 「でしょ?学園に連絡付けてマスターホフスから話をつけて貰って投獄は免れたけど、どう考えてもおかしいじゃない?だから僕たちはフルーズの街で調査を開始したんだ」


 「ほうほう、それでどうなった?」


 「なんか軽いなあ。真剣に聞いてる?」


 「聞いてる聞いてる~」


 俺は殊更軽く答えた。


 「もう~、まあ、いいけどさあ。続きを話すよ?」


 「あいよ」


 「それで街のチンピラなんかをケイトさんにシメて貰ったりして得た情報なんだけどね。どうもここの衛兵にはさる大物の息がかかってるらしい事がわかったんだよ」


 「さる大物?」


 「うん、どうもそいつは山賊の発生にも絡んでいるっぽくてね。更に情報を集めていると嫌な名前が出てきてねえ」


 ストームがおぞましいものでも見たかのような声を出す。


 「おいおい、なんだよ?何が出て来たってんだよ?」


 「ジェニファー・スプレーンよ」


 ケイトの声がする。


 「なんだって?」


 「ジェニファー・スプレーンがその大物と良く付き合い出してから、妙な動きが増えたと言うのよ」


 「あちゃー、嫌な名前が出て来たねこりゃ」


 「スプレーンの名前が出たって事は、後ろにあの組織がいると考えたほうが良いでしょう」


 「あの組織なら俺の方にも顔を出して来たよ」


 「なんですって?詳しく聞かせなさい」


 ケイトが厳しい声を出すので、俺は現状をサラッと説明する。

 

 「…てなわけで街の不良のあんちゃん達がみんな誰かの指示で動いていたって訳よ。んで最後に出た名前のトコが大元のようで今、そこに向かってるってわけ」


 「その大元とは?」


 「ヘルマセール伯爵」


 俺が答えると通信機の向こう側で息をのむのが聞えた。


 「そ、それそれ!」


 ストームがなんとか声を絞り出したというようすで言う。


 「それそれ?何がだ?」


 「僕らがつかんださる大物もそれ!それなんだって!」


 「バルザルのヘルマセール伯爵でよろしいのですね?」


 慌てるストームに続いて冷静なケイトの声がする。


 「ああ、今、バルザルに向かってる所だ。幾らもかからないって話だからすぐに着くんじゃないかな」


 「なんと…これは一体、どういう事なのでしょうか?山賊も愚連隊も元をたどれば同じ人物の息がかかっているとは。何が目的だと言うんでしょうか?」


 「行けばわかるんじゃないの行けば」


 俺はケイトに言ってやる。


 「気を付けて下さいよ?ヘルマセール伯爵という人物、かなり裏があるようですから」


 ケイトが真剣な声で言う。


 「そんな脅かすなって。いざとなればひと暴れして逃げちゃうよ。逃げ足には自信があるから」


 俺はケイトに言ってやる。

 さてヘルマセール伯爵ってのはどんな奴なんだ?あのジェニファー・スプレーンとつるんでるって事は、現場にスプレーンの奴もいるかも知れないな。あいつにゃあ、色々と世話になったからな。手厚くお礼をしてやんなきゃなんないだろうな。


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