夢がかなうって素敵やん
「おい、俺とビゴロ以外は残しといたぞ?それでいいだろ?」
後ろから馬で追いかけて来たベッカ弟が俺に声をかけた。
「おお、上等上等」
俺は返事をする。
「つーか、あいつマジで人なのか?魔物だったりしないのか?」
前を走る劣化版人造魔神を見てビゴロ君が思わず言う。
「元は人なんだが、以前に見たやつは完全に自我を失ってたな」
「どういう事だよ?」
ベッカ弟が並走して聞く。
「なんつーのかね、人としての意識を失ってるってのかね」
「何かに操られてるみたいなか?」
「まあ、それに近いのかな」
「やっぱ、おめえが前に戦ったのと同じ奴なのかあれ?」
「似てるけど弱点が違ったしな。なんとも言えないよ」
俺は答えるが、劣化版人造魔神がその後どうなっているのか知らないし、前を走ってる奴が以前に相対した奴らと同じではない可能性もある。だから、俺もはっきりした事は言えないんだよな。
「しっかし、ありゃあマジで人間離れしてやがるぜ。この速度で休みなしだぜ?もうすぐサイの街に入っちまう」
ビゴロ君の言うように街道の景色に民家や店が目立ち始める。
馬の走り方も駈足を越え襲歩に近くなっている。速度で言えば60キロ近く出ているんじゃないだろうか?
この異常な身体能力、異様に硬い身体、特定の弱点、感情の無さ、どれをとってもアエシュマを使った強化兵と合致する。
いったいどんな奴がこれを操ってんだ?そして、どういうルートでこいつを手に入れた、もしくは作り上げたんだ?疑問が疑問を呼ぶ。
「おい、あの野郎、速度を落としたぞ?」
「ホントだ、あ!あそこに入ってくぜ!」
ビゴロ君の言葉にベッカ弟が同意するが、その最中に劣化版人造魔神は歩みを止め建物に入って行った。
「行くぞ!」
「おうよ!」
ビゴロ君とベッカ弟が速度を上げ俺を追い越していく。
「おい、慎重に行けよ慎重に」
俺は後に続くがふたり共頭に血が上っているのか俺の言葉など耳に入っていない様子で、馬を降りトビラに蹴りを入れて建物の中に踊りこんで行った。
やれやれ、若いなあ。
俺は魔導二輪を停めトビラを開ける。
「あ~あ、蝶番がバカになっちまってるよ」
彼らが蹴りを入れたトビラは根本の蝶番が外れかかって上手く閉まらなくなっちまった。
なんて心配している場合じゃなさそうだ、建物の中ではビゴロ君とベッカ弟が複数人の男達と睨み合っていた。
「なんだオメーら!どこのもんじゃ!」
「ぶち殺すぞ!」
「殴り込みか!」
複数人の男達が凄む。
「んだこらっ!テメーらこそ、なにがしてーんだ!」
「その青白い顔の男はなんなんだ?ん?言ってみろやっ!」
ベッカ弟とビゴロ君も負けじと凄む。
「ちょいちょいちょいちょい、おわけぇーの、お待ちなせぇ」
俺は手刀を切りながら彼らの間に割って入る。
「んじゃこらっ!」
「誰だテメー!」
「殺すぞ!」
男達はヒートアップしたまま俺に凄んでみせる。
「邪魔すんなクルース!」
「そうだぜ!話し合いじゃすまねーだろうが!」
ベッカ弟とビゴロ君もヒートアップしている。
「静かにせいっ!!」
風魔法を使い声をデカくして俺は言う。周囲の空気がブルブル震え集まった男達は静まり返った。
「よーし、これでやっとまともに話ができる。ふたりもちっとは落ち着いたか?」
「耳がキーンとしてるぜ」
「なんだ今のは?」
ベッカ弟とビゴロ君は首をコキコキと動かして顔をしかめた。
「まあ、とりあえず落ち着いたろ?んじゃ、改めて話しさせて貰おうか。そこの青白い顔のやつ、どっから来たの?自分達で作った訳じゃないだろ?」
「なんです?商談中に騒がしい」
やっと話しになりそうな場面で奥の部屋から出て来たのはきちんとした身なりをした紳士だったが、ただの紳士と言うには目つきが鋭すぎた。
「こんちは、この顔色悪いやつはおたくさんの持ち物ですか?」
俺は出て来た紳士にズバリ聞く。
「これが何かご迷惑でもかけましたか?」
紳士は落ち着いた口調で言うが、その声はどこか高圧的な物を感じさせた。落ち着いて話すよりも恫喝する方が慣れていそうな表情と声だ。
「ああ、かけられたね」
「どんな迷惑です?これは余計な事はしないはずですが」
紳士は劣化版人造魔神の頭を撫でながら言う。劣化版人造魔神が紳士の前で借りてきた猫のようになっているのを見ると、どうやらこいつが大元みたいだな。
「あんたがこいつらの元締めという事でいいんだな?」
俺は紳士に聞く。
「こいつらと言うのは、彼らの事ですか?それともこれの事ですか?」
紳士はビゴロ君達と睨み合っている男達と劣化版人造魔神を交互に見て言う。
「なによ?また管轄が違ったりするのかい?じゃあ、そっちのアエシュマ強化兵の方で頼むよ」
俺は紳士の目をじっと見つめて言う。
「ほう?ふうむ、あなた、どうしてそれを?どこかの情報局の人間ですか?」
紳士の目に怖い光が宿る。
「いや、ただの学生だけど、あんた、他の連中より事情通っぽいな。じゃあ、じっくり話を聞かせて貰おうかな」
俺はなるべく笑顔を心掛け、両手をやや広げ相手に見える位置に出しいきなり乱暴なマネはしないから安心しろと示しながら紳士に近づいた。
「とりあえず、死んでもらいましょうかね」
紳士はそう言うと素早い動きで背広の内側から何かの術式具を取り出し俺に向けた。
「カンッ!」
乾いた音がして術式具の先から何かが弾け飛ぶ。
俺はゲイルを使って横に飛んだ。
「何っ!」
紳士は驚きの声を上げ更に俺に向かって術式具を連発する。
俺は近くにあったテーブルを倒しその影に隠れる。
「やっちまえ!」
「オラッ!」
「死ね!」
「ごらっ!」
「テメコラ!」
男達の怒声と乱闘の音が聞えてくる。
テーブルの影から紳士の方をチラ見すると術式具をこちらに投げつけ隣りの部屋に逃げるところだった。
「待てこらっ!」
ゲイルダッシュでトビラに向かうと劣化版人造魔神が俺の行く手に立ちふさがった。
「邪魔だっつーの!」
俺はゲイルジャンプで跳ねヤツの脳天に蹴りをくれる。
劣化版人造魔神はそのまま真横にぶっ倒れる。
俺はトビラを蹴破り部屋の中に転がり込む。
「こりゃあ」
そこに広がる光景に俺は思わず声を出してしまう。
大きな部屋には沢山のテーブルが置かれ、白衣にマスクをした大勢のおばちゃん達がそこで何かの小分け作業をしていた。こりゃあ、どう見てもアエシュマの小分け作業場だな。
「奴を殺せ!!」
部屋の奥で声がすると、術式具を持った男達が俺に向けて一斉に術を放ってきた。
俺は咄嗟に地面に伏せて近くの長テーブルをぶっ倒す。
「きゃあ!」
「ひぃぃぃぃ!」
おばちゃん達が悲鳴を上げしゃがみ込み、乾いた音を立てて頭上を攻撃術式が通過する。
何かが破壊される音がして周囲に白い煙が立ち込める。
おいおい、この煙はアエシュマじゃあないのかよ?このままじゃ、みんなアッパッパになっちまう。
俺は風魔法で小さな嵐を起こし、煙を拡散させると同時に水魔法で霧を作り男達の周囲に漂わせる。
「けっ!こんなもん目隠しにもなりゃしないぜ!」
男達が声を上げ術式具を連射する。
「目隠しじゃ、なんだけどね」
俺は風魔法を停止し、男達にまとわりつかせていた霧に帯電させる。
「ぎっ!」
「ががっ!」
「ぐう!」
「あっ!!」
「あばばっ!」
術式具を持った男達は身体を硬直させて地面に昏倒する。
「おい、元締めさんよう?ふたりで話をしようぜ?」
俺は立ち上がり部屋の中を見渡すが怯えてしゃがみ込むおばちゃん達と昏倒する男達以外に誰の姿も見えない。
この部屋には裏口もない。
倒れている男達に混じっていないか確かめるがあの目つきの悪い顔はいなかった。
「おーい!乱暴しないから出てきなさいよー」
俺は声をかけながら部屋を歩くが隠れるような場所もないし、どこにも見当たらない。
「おっかしいじゃねーの?消えたってのか?」
俺は今一度室内を見渡すと、ひとりのしゃがんでいたおばちゃんが泣きそうな目で俺を見て盛んに首を動かしていた。
ん?なんだってんだ?
俺はそのおばちゃんに近付く。
おばちゃんは無言でぷるぷると首を振る。
「なんです?怪我でもしましたか?」
おばちゃんに近付くと、近くにいた別のおばちゃんが首を振っていたおばちゃんを持ち上げ立ち上がった。
「それ以上、近付くな!近付けばこいつの首をへし折る!」
おばちゃんの首をつかみがなり立てるのは白衣にマスクをしたあの紳士だった。
「おいおい、乱暴はしないといったろ?話がしたいだけなんだから…」
「近付くな!!本当にこいつを殺すぞ!」
「ひぃぃぃぃ」
紳士が言い、おばちゃんがか細い悲鳴を上げる。
「わかったわかった」
俺は紳士を落ち着かせようと手を前に出す。
「手を動かすな!ゆっくり頭の上に上げろ!」
「動かしちゃダメなのか上げたらいいのか、どっちなんだ?」
「いいからゆっくり上げろ!」
紳士はなぜか焦った様子で俺に命令する。
「わかったから、落ち着いて落ち着いて。ほら、俺は丸腰だから」
俺は制服の上をまくって見せようとする。
「余計な事をするな!お前、その制服、その腕前、クルースだな?」
紳士は緊張した様子で俺に尋ねる。
「どのクルースか知らないけど、一応、俺の名前もクルースだよ」
俺はゆっくりと手を上げながら言う。
「ファルブリングの、そしてケイトモの創設者のクルースだろと言ってるんだ!」
紳士は顔を赤くして言う。首をつかんだ手に力が入り、おばちゃんが短く声を上げる。
「そうだけども、あんた知り合いだっけ?お初にお目にかかると思うんだけど?」
「やっぱりそうか、クソッ!なんてツイてないんだ、ツイてないにも程があるだろ…」
紳士は苦しそうにそう言った。
「バタンッ!!!」
「おい!クルース!無事か!!」
背後で派手な音を立ててトビラが開きビゴロ君の声がした。
紳士がビクっと身体を硬直させおばちゃんの首をつかんでいた手がズレる。
俺は上げてた手をひねり、小指の先から空雷弾を放つ。
「んぎゃっ!!」
紳士は身体を硬直させて昏倒した。ちっと強くやり過ぎたか。
「おう、無事か?」
「なんとかな」
俺は声をかけて来たベッカ弟に言う。
「なんだよここは?」
近付いて来たビゴロ君が誰にともなく聞く。
「恐らく、アエシュマの小分け作業場だろうな」
「じゃあ地面に転がってる連中はみんなグルってわけか」
ビゴロ君が怖い声で言うと首をつかまれてたおばちゃんがプルプルと首を振った。
「グルじゃないのか?」
ビゴロ君がおばちゃんに尋ねる。
「うちらは近くに住んでるものだけど、割りが良い仕事だから引き受けてるだけ!仲間でもなんでもないの!ホントだからねおにーちゃん!」
おばちゃんが言い、立ち上がった他のおばちゃん達も口々にそうなのよ!仲間なんかじゃないんだから!と言いたてた。
「おーい!ちょっとこっちに来てみろよ!スゲーぞ!」
ベッカ弟が部屋の端に積まれた小さな木箱の前で興奮した声を出し俺達を呼ぶ。
「おいおい、こりゃあスゲーな」
近付いたビゴロ君がため息に近い声を上げる。木箱の中身は大量のバッグゼッド紙幣だった。
「どうするよこれ?こんだけありゃあ、なんだってできんぞ?」
「こんなもんパクったらさすがにヤベーだろ」
ベッカ弟とビゴロ君がつばを飲み込んで言い合う。
「どうすればいいと思うクルース?」
ビゴロ君が俺に尋ねる。
「とりあえず賃金を払わないといけないだろうな。おーい、おばちゃんたち、賃金を渡すからこっちに来てー!」
俺はおばちゃん達に声をかける。
「今日でこの仕事はお終いになりまーす。ですから退職金も込みになりますのでよろしくお願いします」
俺はそう言って木箱の中から札束を取って先頭のおばちゃんに渡した。
「え?これ?」
おばちゃんが目を丸くする。
「足りない?」
俺が聞くとおばちゃんはプルプルプルと激しく首を振り札束を胸に抱きスキップするように部屋を出て言った。
その後、バーゲン品に殺到するように群がるおばちゃん達に退職金を渡して行くと最後のおばちゃんに渡した分で丁度木箱ひと箱が空になったのだった。
「お前、随分手馴れてるけど前にもこんな事、あったのかよ?」
ベッカ弟が俺に聞く。
「いや、初めてだけど、こういう事があったら一度やってみたいと思ってたんだよな」
俺はベッカ弟に言ってやる。前世の映画で幾度かこういうシチュエーションを見た事があったのだ。麻薬組織の現場を壊滅させてバイトでパケ詰めやってる現地のおばちゃん達にはその場にあった金を渡して解散させるってやつ。いやーひとつ夢がかなったよ。




