事故の正体みたりって素敵やん
「まあ、行ってみりゃわかるさ。ジャージメ、案内してくれるな?」
ビゴロ君が大きな声で言いジャージメの肩を叩いた。
おお、こういう時の切り替えの早さはさすがひとつのチームを仕切ってるだけの事はある。
「マジで行くんすか?」
「今更後に引けねーだろ、ほれっ!行くぞ!」
スベン君は怖気づくジャージメの肩をつかんで引っ張るようにして自分の馬の方へと連れて行く。
「だなっ!行けばわかんだろ!」
ビゴロ君が言い馬に乗る。
「ったく適当な連長だぜ」
「こんなんで良く頭やってやがんな」
ベッカ兄弟はそう言いながら自分の馬に乗りこんだ。
「へっ、そんな適当な奴らについて来るお前らも相当に適当だぜ」
スベン君がジャージメを後ろに乗せて馬上で笑う。
「ぬかせっ」
ベッカ兄が言い、皆が笑う。
「んじゃ、行くぜ」
スベン君は短く言って馬に鞭をくれる。
走り出したスベン君達の馬に続いてビゴロ君、ベッカ兄弟、ハリアー君とファブロー君の馬車、そしてしんがりに俺が続いて出発する。
「クルース君、クルース君」
ハリアー君が呼ぶので俺はアクセルを開けて馬車に並ぶ。
「なんだ?」
「クルース君、目的地は聞いてるの?」
ハリアー君が聞く。
「そういや聞いてねーや、ちょっと聞いて来る」
「やっぱり?もう、いい加減だなあ」
ハリアー君の言葉を後ろに聞きながら俺は前に進む。
「なんだ?どうした?何かあったのか?」
「いやね、目的地を聞いてなかったのに気づいてさ」
俺はベッカ弟に答えた。
「そういや俺も聞いてねーや。アニキっ!どこ行くか聞いたか?」
「いや、聞いてねー。ビゴロっ!どこに行くんだ?」
「あーん?俺も知らね。おい!スベンっ!どこ行くんだよ!」
「そういや、聞いてなかったな。おいジャージメ、目的地はどこだ?ノーレイでいいのか?」
「いや、違うっす。アニスタっす」
「アニスタだってよう!」
スベン君が大きな声で言う。
「アニスタか、だったらよう、この先ニドで山抜けてった方が早ぇーだろ」
「そうなのか?どうなんだ?」
ベッカ兄の言葉にスベン君がジャージメに尋ねる。
「そのつもりでした」
「ホントかよ!テメーんな事言って、時間稼ぎしてんじゃねーだろーな!」
「違うっす違うっす!今、言おうと思ってたんすよ!勘弁して下さいよ~もう~」
並走して恫喝するベッカ弟に涙目で言うジャージメを見ながらゆるゆると速度を落とす。
「目的地はアニスタだって」
「だったらニドで峠抜けってった方が早いんじゃないかな?」
「ああ、そうするって言ってたよ」
「あ、そう?ならいいけど」
「ニドから峠っすか?大丈夫っすかね?」
俺の言葉にハリアー君が薄いリアクションをした後、ファブロー君が気になる事を言う。
「なに?なんか気になる事でもあるのかい?」
「自分も一応、護衛なんで通る道の事を調べたんすよ。それで、ニドから抜ける峠道で最近事故が多発してるって話を聞いたっす」
「事故?原因は?」
「はっきりした事はわからないけど、速度の出し過ぎと荷の積み過ぎじゃないかって話っす」
「はっきりした事がわからない?なんで?」
ハリアー君が聞く。
「それが事故起こした人はみんな崖を落ちてるんだそうっす」
「マジか、一応、前にも伝えとくわ」
「そうして欲しいっす」
俺は再び速度を上げ前の連中に並ぶ。
「今度はなんだ?」
ベッカ弟が俺を見る。
「いや、それがさあ…」
俺はファブロー君から聞いた話を聞かせた。
「おう、それなら俺も聞いたけど荷の積み過ぎと速度の出し過ぎじゃねーかって話だったぞ?」
「ベッカ弟が言う。
「らしいけど、事故った連中はみんな崖から転落してるらしくてはっきりした事はわかってないらしいんだよ。気を付けるに越した事はないだろ?」
「う~ん、どう思うアニキ?」
「なんとも言えないが、何があってもこのメンツならなんとかなるじゃねーか?なあ?スベン?」
「そうだなあ、油断せずに行けばいいだろう」
「魔物だろうが山賊だろうがどんと来いってんだよ!返り討ちにしてくれるわい!」
皆の話を聞いて最後にビゴロ君が大笑いする。
「まあ、伝えるだけは伝えたからな」
「おう、ありがとよ」
俺はベッカ弟に手を上げて速度を落とし馬車に並ぶ。
「なんだって?」
「何が出ても返り討ちにしてやるってさ」
「彼ららしーねー」
俺の返事にハリアー君が笑う。
「荷を取り戻すどころか荷を失ったではマディー部長に合わせる顔がなくなるっす」
ファブロー君が俺を見る。
「そりゃそうだな。峠道ってな道幅どの位なんだ?」
「あそこは狭いっすよ。場所によっては馬車じゃすれ違えないくらいっす」
「そうか、んじゃあれだな、隊列考えなきゃいかんなあ。ちょっと行ってくる」
「また行くの?」
「忙しいっすねえ」
ハリアー君とファブロー君の声を後ろに聞きながら、再びべっか兄弟たちの元に行く俺。
「なんだよ?今度はなんだよ?また悪い知らせかよ?」
「いや、そうじゃなくてさ…」
口を尖らすベッカ弟に俺は説明する。原因不明の転落事故が多発している峠を通るのに、うちとしては万が一にも荷を失う訳にはいかない。なので、峠に入ったら隊列を変えて用心したい旨を伝える。
「そりゃそうだ、ファルブリングの心配もわかるぜ。だったらよう、こうしようぜ。馬車の近くにはクルースがつく。んでもって前にふたり、しんがりにふたりで馬車を挟む形で守るなら安心だろ?」
スベン君が大きな声で言う。
「いいけど、ふたりづつってやっぱ俺達兄弟一緒なのか?」
「いや、別にそうじゃなくてもいいけどもよ、なんだよ?アニキと一緒じゃ嫌なのかよ?」
スベン君がベッカ弟に聞く。
「嫌って訳じゃねーけど、アニキと居なきゃ何もできないって思われるのもシャクだからよ」
「ははっ、んじゃ俺と一緒にしんがり務めるか?もし山賊なら一番危険だがな」
ビゴロ君が言う。
「おう!やらいでか!山賊なんぞ蹴散らしてくれるわ!」
ベッカ弟は鼻息荒く言い、ベッカ兄、スベン君は微笑まし気な笑みを浮かべた。
「そんじゃあ、いっそここからその隊列で行こーぜ!はいやっ!」
ベッカ弟は勇ましく言い速度を落とし最後尾へ向かった。
「ったくお前の弟は気が早いな」
「すぐ熱くなるなといつも言ってるんだけどな」
「はっは!まあ、良いじゃねーか!若いうちは元気が一番よ!」
顔を見合わせるスベン君とベッカ兄に豪快に笑いかけベッカ弟を追いかけるビゴロ君。
こうして新しい隊列のまま俺達は峠道に突入する事になった。
「クネクネして見通し悪いし、左側は崖だしこりゃ何もなくても危ない道だよ」
「だから止めといた方がいいって言ったっす」
峠道を慎重に運転する俺にファブロー君が言う。
「ははっ、でも、何も無いじゃない。天気もいいしゆっくり行けば何も問題なさそうだよ」
ハリアー君が言う。
「ちょい待ち、なんか焦げ臭くねーか?」
後ろを走るベッカ弟が言う。
「ん?別に何も感じねーけどクルース達はどうだ?」
「いや、別に何も感じないけど?」
「俺もっす」
ビゴロ君に言われて鼻をヒクつかせるハリアー君とファブロー君。
「いや、こげくせーって。なんか嫌な予感がする。クルース!アニキに伝えてくれ!」
「お、おう」
ベッカ弟の剣幕に押されて俺はアクセルをひねる。
と、その時、右側の岩肌から黒い影が雪崩のように道を横切った。
「うひゃあーー!!!」
ジャージメの悲鳴が響く。
「うおっ!!止まれ止まれ!」
俺は急ブレーキをし後ろの馬車に声をかける。
黒い雪崩は気持ちの悪い光沢を放ち道を流れていく。
「おーーい!!無事か!!」
俺は前を走るスベン君とベッカ兄に声をかける。
「どうどうどうどう!!なんとか無事だーー!!」
「ヤバかったが、ベッカの奴がいち早く気付いてくれてよう!なんとか間一髪って奴だぜ」
荒れる馬をなだめながらベッカ兄とスベン君が答える。
「なんだよこりゃあ?」
ベッカ弟が馬を降りて俺の近くにやって来て黒い雪崩をまじまじと見る。
「こいつは、ヤスデだな」
俺は答えてやる。
「ヤスデ?虫のヤスデかよ?こんに大量に?」
やって来たビゴロ君が俺に聞く。
「ああ、恐らく、謎の転落事故の原因もこいつだろう。突然現れたヤスデの群れに驚いた馬が暴れ、踏みつぶした大量のヤスデで馬車の車輪が滑り崖を落ちたってのが真相だろうな」
「だが、なんで人が通りかかったタイミングできやがんだ?おかしくねーか?」
俺の説明にベッカ弟が首をひねる。
「確かにその通りだぜ。今回はこいつの鼻に助けられたがそうじゃなきゃやられてた。そんなタイミングよく発生するもんか?」
「おい!崖の上に誰かいるぞ!!」
首をひねるビゴロ君の声に被せるようにベッカ兄が大きな声を出す。
右手崖の上を見ると人の頭らしきものが見えすぐにヒョコっと隠れた。
「のやろ!テメーか!」
言うが早いかベッカ弟が走り出し崖をよじ登って行った。
「ったく、後先考えないやつだぜ」
ビゴロ君が言う。
「その野生の嗅覚に今回は助けられたんだから良しとしようぜ」
俺は言ってやる。
「っのやろ!ふてぇー野郎だ!こっちに来やがれ!じゃねーと突き落とすぞ!」
「か、勘弁して下さい!勘弁して!」
岩肌を降りてくるベッカ弟はひょろっとした男の首根っこをつかんで吠えていた。
「こいつ、こんなもん持ってやがった」
ひょろっとした男を俺達の前に突き飛ばしたベッカ弟はズタ袋を地面に放り投げた。
「なんだこりゃ?」
ビゴロ君はその袋を拾って中身を外に出す。
「火つけの術式具とこいつはなんだ?」
ビゴロ君は筒状の物体を出して男に尋ねる。
「それは風を送る術式具だな」
いつの間にかこちらにやって来たスベン君が言う。
「仕事で使った事がある。こんなもんを使って何をしてたんだ?」
「隠しだてなく全て話さなきゃ崖から突き落とすぞ!」
スベン君に続いてベッカ弟が凄んだ。
「話します!全部話します!」
男は半泣きで話し出した。男の名前はユキリト・トーリ、なんとラザインの告知者の元信者だと言う。親がラザインの告知者の信者だったトーリはその教育を受け成長する。数多くある規則を守れず幼少期から一日何回も折檻を受けたトーリは大人になりラザインの告知者を脱会するが、心の中では数多くの規則を守れぬ自分は近く来る世界の終わりの日には神によって殺されるのだという思いを捨て切れずにいた。そのため、どうせ近々死ぬのならと何も積み上げず死んだように生きて来た。だが、この歳になっても世界は終らない。ただ何もできず何もしてこなかった自分だけが残った。
「…そんなのはおかしい、間違っている。なんで自分ばかりが不幸になってんのか理解ができない。だったら、この不幸を誰かに分けてやろう、そうじゃないと俺が生まれて来た意味がないから。仕事もないし時間はあるから山を歩いて作戦を考えた。そんな時に俺は見つけたんだよヤスデの大群が寝ている場所を。俺は送風と発火の術式具を盗んで、山に隠れて金持ちそうな馬車が通るのを待った」
「そんで、火を着けて風で煽ってヤスデの群れを道に誘導したのか」
「そうだ。馬車が落ちるのを見てやっと自分が生きているって実感したんだよ。とんでもない事をしちまったって怖くなったけど、あの時感じた生きてるって感じが忘れられなくって、どうしても辞める事ができなかったんだよ」
トーリは地面に両手をついて項垂れそう言った。
「どーするよ?こいつ?」
ビゴロ君が言う。
「そんなやつほっといて先に進みましょうよ、気味が悪くていけねーっすよ」
ジャージメが青い顔をして言う。
「このままにしとく訳にもいかないだろ。ここを抜けた先にシッチャの衛兵詰め所があるから、事情を話して渡すのが良いんじゃないか?」
「まあ、それが順当な所だろうな」
スベン君に続いてベッカ兄が言う。
「いいのかよそれで?一、二発ぶん殴っといた方が良くないか?」
ベッカ弟が俺を見る。
「う~ん、そうだなあ。まあ、こいつの環境には同情の余地もなくはないんだよな。親がラザインみたいな団体の信者だと子供は酷い目にあうからな」
「何甘ぇ―事、言ってんだよ。うちの親なんて親父はアル中で家にいりゃ暴力の嵐でよ、お袋なんざ、俺らがチビの頃に逃げちまって今じゃ顔も覚えてねーっつんだよ。それに俺らだけじゃねーよ、そんな奴らは掃いて捨てるほどあるってんだよ。俺らを見てみろ!それでも逞しく生きてるっつーんだよ!」
「おいおい、俺らは見本にしろなんて立派な生き方しちゃいねーだろ?」
俺の言葉に怒りを堪えられないベッカ弟にベッカ兄が諭すように言う。
「そりゃそうだ、一歩間違えれば俺らがこいつだったのかも知んねーよ」
「少なくとも、俺らは近々神さんに殺されるなんて信じ込まされちゃあいなかったしな」
ビゴロ君に続いてスベン君が言った。
「そっか、まあ、俺には良くわかんねーけどみんながそう言うんなら殴るのは止めにしとくぜ。命拾いしたなっ」
ベッカ弟は渋々といった風に自分の馬のいる方に戻って行った。
難しい問題だけど、条件反射で全否定しないでくれたのは俺としては嬉しいよ。
俺は地面に手をついて肩を震わすトーリを見るのだった。




