次はどいつだって素敵やん
「おう!オメーら良く聞け!テメーらの頭ジャージメは俺達の軍門に下った。ゲートゲンは解散だ!もう争う理由もねー!」
ベッカ兄がデカい声を出す。
「おい、マジかよ?」
「ジャージメさんがいねーぞ?」
「向こうで地面に這いつくばってんのがそうじゃねーか?」
「マジかよ」
「どーすんだよ?」
乱闘をしていた男達は手を止めざわつきだした。
「どーもこーもねーよ!ゲートゲンは解散!以上!」
ベッカ弟がデカイ声で言う。
「解散って言われてもよう」
「今更、元のチームに戻れって言われてもなあ」
「俺んとこも先輩に上等切ってこっちに加わっちまったからよう」
「うちも隣町のチームにケンカ売ってきちまってるぜ?」
「今更困るぜ」
「そうだそうだ!」
集まった男達が声を上げる。
「だったらどうすりゃいいんだよ?」
ベッカ弟が困った様に言う。
「おめーらが引き継いでくれよ」
「そうだそうだ。オメーらがゲートゲンやってくれよ」
男達が騒ぐ。
「いや、ちょっと待てよ」
「そんな事言われてもよう」
ベッカ兄弟が困惑する。
「いいじゃねーか、なあ?」
スベン君がベッカ兄弟の所に近付き言う。
「そうだぜ?もうお前らボトミンにいる意味ねーんだろ?」
ビゴロ君も近付いて行き言う。
「そりゃそうだけど」
ベッカ弟が困った顔で答える。
「そんじゃあ、よ。お前らはどのみちこの街に戻るんじゃねーか。だったら、お前らが仕切りでいいじゃねーか、なあ?」
「簡単に言うけどよう」
「簡単でいいじゃねーか。お前らもそれでいいんだろ?」
「「「「「「おおーー!!」」」」」」
集まった男達が雄たけびを上げる。
「……オメーらの気持ちはわかった。だが即答は出来ねーよ、さすがに色々あったからな。少しだけ考えさせてくれ、悪いよーにはしねーからよ」
ベッカ兄が言うと集まった男達は皆、喜んだような雄たけびを上げた。
「んじゃあよう、ひとまず流れ解散で。いいよな?」
ベッカ兄の言葉に集まった男共は指笛を鳴らしたり歓声を上げたりしながら三々五々にこの場を去って行った。
「時間とらせて済まなかった」
「ジャージメの拷問に戻って貰っていいぜ」
「ぎゃあっ!話すって言ったのに!なんでも話します!勘弁して下さい!」
ベッカ兄弟が改まって言うとジャージメは必死の形相でそう叫んだ。
「ったく、トンでもねーことに加担してたくせにからっきし根性ねーでやんの」
「まあ、そう言ってやんなよ。ジャージメだっけ?お前の雇い主ってのは何者なんだ?」
呆れた様子で言うビゴロ君に続きスベン君が優しい声を出す。
「レッドバラクーダって組織です」
「レッドバラクーダ?聞いた事あるか?」
ジャージメの話しを聞いてビゴロ君がスベン君を見る。
「いや、お前らは?」
スベン君はベッカ兄弟を見る。
「ノーレイならジ・アビスかウォーカウンシルが有名だが、レッドバラクーダってのは聞いた事ねーな、お前はどうだ?」
「ウォーカウンシルなら頭のシッピージョーがジ・アビスのヘッド、ガウボーイにやられて引退したって聞いてるけど」
ベッカ弟が兄の顔を見て言う。
「どーなんだ?ん?」
スベン君がジャージメに顔を近づけ凄む。
「ひっ、お話しします!ヘッドが引退したウォーカウンシルはジ・アビスに吸収されました。自分はウォーカウンシルのもんでして…」
ジャージメはびくびくしながら事情を話した。ウォーカウンシルの構成員だったジャージメはジ・アビスに吸収され肩身が狭い思いをしていた。それはジャージメだけじゃなく、元ウォーカウンシルの構成員全てがそうであった。どうしても敗残の兵、しかも自分のチームを捨てた不義理者として周りの評価が低かったからだ。周りと言うのはジ・アビスの構成員だけでなく、ノーレイのワル共の間でという意味だった。
つまり、ノーレイ最大の組織にいながらもっとも軽く見られる、そんな存在がジャージメ達だったという訳だ。
なめられまくりながらジ・アビスの使いっ走りのような仕事ばかりやらされるのでとにかくケンカ沙汰が絶えない。一番身体を張りながら美味しい所はみんなジ・アビスのものに持って行かれてしまう。
これでは不満がたまるばかりだ。しかし、ただでさえヘッドが引退してしまいチームを引っ張っていく人材不在でまとまりがない上、美味しい目が見られなくなり抜けてしまう者もいる有様でとてもではないがジ・アビスに離反するような力はない。
そんな鬱屈した状況に一筋の光明が差した。
「…ある時、ケツ持ちやってる飲み屋で質の悪い客が居るってんで俺と仲間で向かったのさ。そんな仕事ばかり任されててさ、いやゴメン、つい愚痴になっちまう…」
だんだん言葉が砕けてくるが皆はジャージメの話しを聞いて同情したようでその事には誰もツッコまない。勿論、俺もツッコまない。
「…んで、その飲み屋に行くと質の悪そうな奴らが下品な飲み方しててなあ。店の姉ちゃんの服ビリビリにして抱き着いて酒かけて、そりゃもう好き放題って奴さ。俺達はいつも通り、オイコラって強気に出てさ、アビスの名前を出して恫喝したんだが、そいつらはヘラヘラ笑ってビビリもしねーでこう言うのよ。あんたらホントにアビスのもんかい?って。なんとも君の悪い連中だったよ…」
ジャージメ達は、そうだって言ってんだろ!とそいつらの胸ぐらつかんで店の外にほっぽり出そうとした。そいつらはヘラヘラした態度を崩さないままジャージメ達と一緒に店の外に出る。ジャージメ達は軽く焼きを入れてから有り金全部ふんだくってやろうと路地裏に連れて行った。
「…したらよ、路地裏に大勢の男がいてよ。みんな物騒なドーグ持って黙って立ってんのよ。外に連れ出した野郎どもは俺らを見て初めてニヤツキを止めて、俺達に話をしようとそう言ったんだ。俺らは、もうバカバカしくなっちまって好きにしてくれって言ったよ。どーせ、痛い目見たってチーム内での地位は上がらねー、あがりも回って来ねー、よそのチームにはなめられっぱなしでいい事なしだ。開き直っちまったよ。そしたらよう、その連中は
レッドバラクーダの者で、俺らに力になって欲しいって言うんだ。話を聞いてみると奴らはロベタリーの街のギャングでこっちにシマを広げたいんだと言うんだ。それで、ジ・アビス潰しを手伝えばこの街に作る支部を任せても良いって。俺達は一も二も無くその話に乗っかったよ。元ウォーカウンシルの奴らをまとめて、レッドバラクーダからの指示通りに動いた。ジ・アビスの幹部の動きをつかみレッドバラクーダと一緒に闇討ちしていったんだ。ガウボーイの奴は最後まで抵抗したけど、レッドバラクーダの奴らは容赦しなかった。ガウボーイの家までつきとめて殴りこんでメタメタにしちまった。それにはガウボーイもさすがにビビったみたいで、残った幹部集めてレッドバラクーダに手打ち願いを打診してきたよ。レッドバラクーダはガウボーイ含め幹部全員の引退を要求し、それに従わない場合、徹底的に追い込みをかけると言って一歩も引かなかった。翌日、ガウボーイと幹部達は引退状に血判を押してレッドバラクーダの所に持って来たよ」
ジャージメはそう言って深くため息をついた。
「そこで俺達は気付いたんだ、とんでもねー連中と組んじまったってね。だが、時すでに遅し。俺達は抜き差しならない所まで来てしまっていた。俺達はレッドバラクーダノーレイ支部を任される事になった。だが、以前にもまして状況は厳しいものになったのさ」
「なんでだよ?そのレッドバラクーダとやらはあてにならない腰抜け組織だったのかよ?」
ベッカ弟が聞く。
「いや、その逆だよ。奴らイケイケドンドンでよ、とにかく攻めの姿勢を崩さねー。今までノーレイじゃあそれでもある程度のバランスは保ってたんだ。それをバラクーダの連中は、他の組織をすべて傘下に収めろできなければ潰せ、ときた。もうめちゃくちゃだよ。他の組織にゃよう、知り合いなんかもいるんだよ。それでも、逆らえば今度は俺達がやられちまう。やるっきゃねーじゃねーか…」
ジャージメは下を向く。
「それで、ゲートゲンってのはどっから出てくんだよ?」
「そうだ!お前ら、ゲートゲンって名乗ってたじゃねーかよ!いい加減な事ばっかり言ってんじゃねーぞ!」
スベン君が尋ねるとベッカ弟がハッとした顔をしジャージメに詰め寄った。
そういや、そうだ。ジャージメは元々は
「ちょっ、勘弁してくれよ!ちゃんと説明すっからさ!」
「のやろっ!また適当な事言って煙に巻こうってんか!やっぱもう少しぶん殴った方がいいなこいつは、なあ、アニキ?いいだろ?喋れるぐらいには手加減するしよう」
「うひっ!ちょいあんた、この人無茶苦茶だよ!話すっつってんのに!」
息巻くベッカ弟の勢いにジャージメが這いずって逃げながらスベン君に助けを求めた。
「そのぐらいにしてやれよ。で?続きは?」
スベン君はベッカ弟を制止ながらジャージメに促す。
「あ、ああ。ゲートゲンって言うのは奴らがつけた名前なんだ。レッドバラクーダってのはそうやって吸収した組織に元の名前は名乗らせねーしきたりなんだよ。チーム名は違ってもレッドバラクーダ系列のチームって結構あると思うよ」
「思うよってお前、それじゃあ、知らんうちに仲間と戦う事になるかも知んないじゃねーかよ」
ビゴロ君がいぶかしむ。
「それは大丈夫。攻め込む街や相手なんかは全部上から指示が出るから」
「んじゃお前、指示がなきゃケンカもできないのかよ?」
「まあ、そうなるね」
「なーんじゃそら?わけわかんねー」
ビゴロ君が呆れたといった様子で声を出す。
「いや、俺も最初はそんなんでやってけんのか不安だったよ。ところがどっこい、いざ奴らの下に入って見るときっちりしてんのよ。毎日奴らんとこに報告に行って指示を受けて帰る。この繰り返し。まるで商会勤め気分よ。だから言ったろ?俺らは雇われだって」
ジャージメは胸を反らせて言う。
「調子にのんじゃねー」
スベン君がジャージメの頭をはたく。
「すんません」
ジャージメはシュンとなる。
「まあ、いい。とにかく、毎日そいつのトコに行くんだな?」
「そうっす」
ジャージメが答えてそれを聞いたスベン君が俺達を見た。
「ほんじゃ、行くぞ」
スベン君がジャージメの背中を叩く。
「はい?どこへ?」
「どこって奴らのトコに決まってんだろ?」
「いやいやいやいや!マズいですって!殺されっちまいますよ!マジで!マジで!」
「でーじょぶだって。お前も見たろ?このメンツなら問題ねーって。なあ?」
スベン君が言い皆が頷く。
「いや、マズいですって。ホントにマズイっすよ、あいつら、マジパねえっすから」
ジャージメの顔色が悪くなる。
「何をそんなにビビってんだよ?」
ベッカ兄が聞く。
「だって、だって奴らんとこいつも妙な連中がたむろしてて、ホント、ヤバいんですって。やめましょう、荷物ならなんとかしますから、奴らと正面切ってケンカするなんてバカな事はやめましょう?ね?」
「なんだよ?お前、マジでビビってんのかよ?え?」
スベン君がジャージメの顔を覗き込む。
「ああ、ビビってるよ。あの連中を見りゃあわかるぜ。死人みたいに青白い顔してなんの感情も無いみたいに無表情で、ガラス玉みてーな目―して。ありゃ、ぜってー普通じゃねーって」
ジャージメはそう言って両腕をさすりガタガタと震え出した。
スベン君はそんなジャージメの様子を見てゆっくりと俺達を見て問いかけるような目をする。
「こいつの言ってる事、どう思う?」
「ビビり過ぎて冷静さを失ってるんじゃねーか?」
ベッカ兄弟が言う。
「いや、そうとも言えないぞ。お前ら楽園城の暴動騒ぎを聞いた事はないか?」
ビゴロ君が声をひそめて言う。
「それなら聞いた事があるけど、あれは暴動じゃなくてアエシュマジャンキーの集団錯乱騒動だって聞いてるぞ?」
ベッカ兄弟が言う。
「あの時、楽園城にいた奴に聞いたんだけどよ。楽園城に襲撃して来た奴らってのが、普通の人間ぽくねー奴らだったって言うんだよ」
「どう普通じゃねーんだよ?」
ベッカ弟が聞く。
「頭ぶっ叩いても関節が逆に曲がってもお構いなしに暴れまくるんだとよ。それで、そいつが言ってたのがさ、その襲撃者ってのが青白い顔をしてうつろな目をした死人みたいな連中だったってのよ」
ビゴロ君が言い、皆がそれを聞いて押し黙った。
「それなら、クルース君が詳しいんじゃない?その時、クランケル君と一緒に騒動に巻き込まれてたんでしょ?確か」
ハリアー君が言い皆が一斉に俺の顔を見た。
「マジかよクルース?」
「どうだったんだよ?」
「見たのか?そのおかしなヤツ?どんなだったんだよ?」
「マジで、そんなだったのかよ?」
皆が俺に質問する。
「ああ、まあ、確かにそんな感じだったよ」
「どんだけぶっ叩いても倒れねーってのはホントかよ?」
ベッカ弟が聞く。
「確かに馬鹿みたいに固いし感情や痛覚がないような奴らだったけど、耳の下をぶっ叩いたらストップしてたよ」
「なんだよ、実際に戦ったのかよ?」
「ああ」
俺はベッカ弟に答える。
「だったら大丈夫だ、もし連中がそうだったとしても耳の下をぶっ叩きゃあいいんだろ?軽い軽い」
「決めつけるのは良くねえ、そん時の奴とまったく同じ奴らとは限らないんだ、なあ?クルース?」
ベッカ弟に続いてスベン君が言い俺を見る。
「ああ、あん時の連中はどこかの国の実験体だったって噂だから、そんなのがそうそううろついてるとは思えないよ」
俺は言ってやる。あれはジャーグル王国によるアエシュマを用いた強化人間計画であり、それを進めていた学者であるユメロンは一応バッグゼッド帝国に協力して貰っている。
だから、あの時の強化人間ではないと思うのだがだからと言って絶対そうではないと言いきる事も出来ない。ここの所、何かといかがわしい連中が活発に活動してるからなあ。
ううむ、こりゃあ、ちょっと油断できない事になってきたかも知れんぞ。




