子供達のケンカって素敵やん
「しっかし、クルースの乗ってるそれ、なんなんだよ?」
ベッカ兄弟の案内でゲートゲンのアジトへと向かう中、突然、ビゴロ君が俺を見て言った。
「なんだビゴロ、知らんのか?あれは魔導二輪って言うんだ。国防軍特殊部隊でも使ってるってシロモンよ。ケイトモで扱う予定だから、そのうちうちでも販売するぜ?そしたらよう、俺なんかすぐに買ってよ。ビッと決めて走るぜ~」
とスベン君。
「マジかよ?ご機嫌じゃねーか?俺も欲しいなあ」
「おう、買え買え!そしたらよう、俺とお前で魔導二輪のチーム作ろうぜ!」
「いいじゃんかよ~!んじゃチーム名は?どうする?」
「そうだな、スベンジャーズってのはどうだ?」
「ああ?なんだそりゃセンスねー。ダメだ却下」
「じゃあ、お前ならどうすんだよ?」
「俺か?俺ならそうだなあ、ビゴローズ。どうだ?ビッとしてんだろ?」
「かぁ~、オメーの方こそセンスねー。なあ、オメーらならどうつけるんだよ?」
スベン君が前を走るベッカ兄弟に声をかける。
「はぁ?さっきから聞いてりゃ、オメーらのはチーム名でもなんでもねーじゃねーか」
薄い墨毛の馬に乗ったベッカ兄が答える。
「そうだそうだ、オメーらのは自分の名前をつけただけ。まるきりセンスなし。ダメダメだな」
今度はブチ毛馬に乗ったベッカ弟が言う。
「だから聞いてんじゃねーか」
「いいから言ってみ?笑ってやるから」
ビゴロ君とスベン君が煽る。
「ちっ、仕方ねえなあ。魔導二輪のチームだろ?実はよう、俺、国防軍を見た事あんだよ」
「マジかよ?どこでだ?」
ベッカ兄の言葉にスベン君が食い気味に聞く。
「パイカル領でよ。あんときゃ興奮しちまったぜ、マジでビッとしててよう。俺も魔導二輪買ってよう、あんな風に気合入ったチーム作るんだって思ったもんさ」
ベッカ兄が遠い目をして言う。いや、国防軍はそういうチームじゃないんすけど?まあ、ちょいとばかり魔導二輪の弄り方には品が無かったが…
「おー!マジかよ?んでそのチーム名は?どうすんだよ?」
「おう、そりゃよう、もう決めてんだ。な?」
「ああ、アニキ」
ビゴロ君の質問にベッカ兄弟は頷き合った。
「で?なんてチームよ?」
ビゴロ君が更に尋ねる。
「ロードグリフォンよ。道を飛ぶように走り抜けるのさ」
「なんてったってグリフォンと言えば超強ぇ魔物の代名詞だからな」
「へえ」
「ふうん」
「な、なんだよ?バカにしてんのかよ」
スベン君とビゴロ君の反応が渋かったのを受けてベッカ弟が口を尖らせる。
「いや、いいよ。イカしてる」
「飛ぶように走る、か。いいじゃねーの。俺達で作ろうぜそのチーム、なあ?」
スベン君に続いてビゴロ君が言う。
「ああん?そりゃ俺達で考えたチーム名だぞ!なあアニキ!」
「いや、ちょっと待てよ?良く考えてみろよ?ここに集まったメンツでチームを作ったとする。それって…」
「!!」
ベッカ兄の言葉にハッとするベッカ弟。
「おうよ、今頃気付いたのかよ?俺らでチーム作ればよ、全国制覇も夢じゃあねーぜ?」
「バッカ!作るからには走りで名を上げるんだよ!」
ビゴロ君とスベン君はそう言ってケラケラと笑った。
「んだよ、勝手に決めやがってよ」
「そうだぜ、俺達が考えたチーム名なのによ」
ベッカ兄弟は憎まれ口を叩いているが表情は明るい。
いいじゃんいいじゃん、若者ってのはこうでなくっちゃよう。
おじさん眩しくってサングラス欲しいわ。
「でもよう、なんか違うんだよなあ。クルースの乗ってるやつ」
「そうそう、俺もケイトモさんから見せて貰ったけどこんなんじゃあなかったなあ」
ベッカ兄とスベン君が頷き合って言う。
「なんでなんだよクルース?それはなんなんだ?」
「そうだ、なんでお前、そんなのに乗れんだよ?お前、ひょっとして大金持ちだったりするのか?」
「ファルブリングだもんな、どっかの領主の息子だったりすんのか?」
「さすがにそりゃねーだろ。だったらもっと金持ちっぽい顔してらあ」
スベン君達はそう言ってゲラゲラ笑った。
「うっせ!余計なお世話じゃい」
俺は彼らに言ってやる。
「なあなあ、クルースってどんな奴なのよ?」
スベン君が速度を落として馬車に並びファブロー君とハリアー君に声をかける。
「彼はねえ、ケイトモの創設者だよ」
ハリアー君が笑いながら答えた。
「ゲッ!マジ?あちゃー、やっちまったー!失礼な口聞いちまったー!取引、打ち切られちまうー!」
「おいおいおい!打ち切らねーし!それに俺は経営にはほとんど関わってねーから!立ち上げ手伝ったくらいよ、ホント」
頭を抱えるスベン君に俺は慌てて言う。
馬に乗りながらそんなに落ち込んじゃあぶねーって。
「いや、それでもあんだけデケートコだもんよ、やっぱエライ人なんだろ?」
「んな事はねーから!今までどーりでいいから!つーか、立派に働いてる君のがエライっちゅーの!もう!」
「えー、マジでかよ?」
「マジマジ!あんたはエライ!!」
俺は大きな声で叫ぶ。
「なんかバカにされてるような気がするなあ」
「かっかっか!気のせいだろ!」
「ったく、つきあってらんねーぜ。なっ?アニキ?」
「ふっ、愉快な連中じゃねーかよ」
ベッカ兄の言葉に皆が笑う。
それにしても皆、馬の操縦が見事の一言に尽きる。
それなりの速度で走らせているのに普通に会話してんだもの。
こいつらで魔導二輪のチームを作ったらそりゃ面白いだろうなあ。
でも、あんま反社会的な事をしたりその手の団体と関わったりするのは止めて欲しいなあ。まあ、勤め人もいるし彼らを見てればそんな心配はなさそうだけどな。
そうこうしているとオーデンドの街に到着する。
「さて街に入ったがここからどうするんだ?」
ビゴロ君が聞く。
「どうもしねーよ。ただデカい顔して市街地をぶらついてりゃ向こうから声をかけてくる」
「ほう、そりゃあありがたいね。わざわざ向こうさんからぶっ殺されに来てくれるなんざよ」
ベッカ兄に続いてスベン君が鼻歌交じりで言う。
「バッカ!油断してんとソッコー囲まれてタコ殴りだぞ?」
「上等上等!かかって来んかい!がっはっはっは!」
「ホントにこんなのと一緒で大丈夫なのかなアニキ?」
「ここまで来たらやるっきゃねーだろ」
大笑いするスベン君とビゴロ君を見てベッカ兄弟はため息をつく。
はてさてどうなる事やら。
俺達はベッカ兄弟に続いて街中をゆっくりと移動した。
「ホントにこんなことしてて来るのかよ?」
「お前らみたいなのがブラブラしてりゃあぜってー絡んでくるから心配すんな」
「そりゃどーゆー意味よ?」
スベン君が凄む。
「そのまんまの意味よ」
ベッカ兄が笑う。
「おい、どうやら来なすったみたいだぜ?」
俺はにらみ合うふたりに声をかける。
目つきの悪い男達が複数人何処からともなく出て来て俺達の前に立ちふさがったからだ。
「おいでなすったな」
「舌なめずりすんなよ?品がねーぞ?」
嬉しそうな笑みを浮かべて馬を降りるスベン君にベッカ弟が言う。
「そう言ってやるなよ、久しぶりの現役復帰でテンション上がってるんだからよ」
ビゴロ君が笑いながら言い馬から降りる。
「そうそう、そうなのよん。んで、お兄さん達、ゲートゲンの人?」
「ああん?テメーよく見りゃベッカ兄弟じゃねーか?なんでこんなトコのたくってんだ?ああん?」
にこにこ顔で問いかけるスベン君を無視して現れた男のひとりがベッカ兄弟に言う。
「出迎えご苦労さん。幹部まで案内してくれよ?」
ベッカ兄が馬から降りて笑いながら言う。
「なんだぁ?負け犬兄弟が随分デカい口叩くじゃねーの?また、地面に這いつくばらせてやろうか?ああん?」
「誰がテメーの前で這いつくばったよっ!!」
ベッカ弟は言うが早いか馬から飛び降り男に掴みかかった。
「グラァ!」
「んじゃこらぁ!」
「ぶッ殺せ!」
「タコにしてくれんぞ!」
道を塞いでいた男達が一斉に躍りかかって来る。
「んだよったく、気がみじけーにもほどがあるだろ。勘弁してくれよ」
「にしちゃ、嬉しそうな顔してんぞお前」
スベン君とビゴロ君は楽しそうにそう言って男達に向かって行く。
「クソっ!」
短く声を上げベッカ兄もケンカに参戦する。
「僕たちも行こう!」
「うっす!」
ハリアー君とファブロー君も馬車を降りて飛び出していく。
俺も降りて参戦するかな、と思ったが連中の暴れっぷりを見てると助太刀するまでもなさそうだ。
スベン君とビゴロ君が通った後は嵐の後みたいに人が飛び、ベッカ兄弟は上手く連携して危なげなく敵の戦力を削る。ハリアー君はすっ飛ばされてまだ向かってくる奴らを投げ飛ばして気絶させ、ファブロー君はハリアー君を守る形で立ち回りほとんどの相手を掌底打で決めていく。
「なんだかなあ、こりゃ出番なしか」
俺は停車した魔導二輪のシートに腰かけたまま彼らの戦いっぷりを眺めていた。
「テメー!」
「どこのもんじゃこらっ!」
「っでんじゃねっぞ!」
「なめてんじゃねーぞ!」
おっと、どうやら観戦だけじゃおさまらなそうだぞ。
路地裏からワラワラと涌いて来たガラの悪い連中に俺は向かって行く。
「ホイホイホイっと」
俺はガラの悪い連中の攻撃を避け背中に電撃タッチをし、鉄の棒で頭を狙って来たり刃物を使うなど過剰な攻撃をしてきたヤカラにはお仕置きの意味を込め威力を弱めた空雷弾を連射してやる。
「オゴゴゴゴゴゴゴ」
「イギギギギギギギギギ」
「ガガガガガガガ」
意識を失わない程度に威力調整された電気を纏った空気弾を複数喰らった男達は、身体を硬直させ歯を食いしばり奇妙な声を上げて地面に横たわった。
「これはケンカ。殺し合いじゃあないだろ?」
俺は刃物や鉄棒を持った男達に言ってやる。
地面に転がりよだれを流して硬直している仲間を見て怖気づいた男達が走り去って行く。
「おいおい、随分とえげつない事してるじゃねーの?」
「そっちは済んだんかい?」
声をかけて来たスベン君に俺は尋ねる。
「ああ、済んだけどもこいつら大丈夫なのか?」
「刃物使ったり平気で鉄棒で頭引っ叩きに来る奴には身体で教えてやんないとさ。人って結構すぐ死んじゃうんだからさ、そうでなくとも障害が残る事だってあるんだから。な?良くわかったか?」
俺は転がってる男に言う。
「いや、返事できる状態じゃなくね?」
「なんよ?お前、術式武具もってんのかよ?さすが金持ちだなあ」
「ありゃちげーだろ?術式使ったんだろ?オメー使えんだ?」
ビゴロ君とベッカ兄弟も人仕事終わったようで俺に声をかけてくる。
「皆さん、先に幹部の居所を聞きましょう」
ハリアー君が俺達に声をかける。
「ああ、そうだな」
「んじゃあ適当な奴見繕って拷問でもするか」
スベン君に続いてビゴロ君が物騒な事を言う。
「いや、それには及ばないぜ」
ベッカ兄が異を唱えた。
「なんでだよ?」
スベン君が聞く。
「さっき逃げてったヤツがいたろ?」
「あっ?まずかった?」
俺はベッカ兄に聞く。逃がしたの俺だもんなあ。
「いや、マズくはない。かえって手間が省けたってもんだ」
「つーと?」
俺は更に聞く。
「あいつら幹部に報告に行ったのさ。報告を受けた幹部は俺達を放っておくような事はしないだろう」
「んじゃ、ここで奴らが来るのを待つか?」
スベン君が尋ねる。
「バカ、そんな事したら奴らの前に衛兵に捕まっちまうっての。適当に人気のないとこうろついてれば向こうから接触して来るさ」
ベッカ弟が答える。
「それでは早々にこんな所は立ち去りましょう」
「そっすね」
ハリアー君とファブロー君はそう言ってさっさと馬車に乗り込んだ。
俺も魔導二輪に跨りスタンドを上げる。
「そんじゃあ、適当に流すぞ」
ベッカ兄の言葉に従って俺達は路地を進む。
しばらく進むと建物の屋上から俺達を見はる男達の姿が目に付き始める。
「監視されてるのか?」
ビゴロ君が言う。
「ああ、奴らはもうすぐ現れる。さっきの連中とはレベルが違う相手だぜ?覚悟はいいか?」
ベッカ兄が言う。
「覚悟ならとっくに出来てるさ」
「そうだぜアニキ」
スベン君とベッカ弟が答える。
くぅ~、テンション上がるぜ!
「わざわざ人気のない所を行くなんて自殺願望でもあるのかベッカ兄弟よ」
テンション上がる俺の気持ちに答えるかのように男達が道を塞いだ。
お!待ってました!
「やっと来たか。随分と遅いお着きだな」
「大方、ビビりぬいてたんじゃねーのか?」
スベン君とビゴロ君はそう言って豪快に笑う。
「ベッカよう、最後にもう一度だけ機会をやろう。こっちに来い。そうすれば今までの事は水に流してやる。どうだ?」
道を塞ぐ男達の中心にいる男が言う。
「こっちこそお前らに機会をやろう。ファルブリングのもんから盗んだ荷を返してこの街から出て行くんなら見逃してやるぞ?」
「いやっ!それじゃあ気が済まねえだろっ!とりあえず殴らせろ!」
ベッカ兄が冷静な口調で言い弟が叫んだ。
「残念だよ。やれ」
中央に立っていた男はそう言って首を振った。
「まどろっこしいんだよ!」
「大物ぶってんじゃねーぞ!」
スベン君とビゴロ君はそう言って男達に突っ込んで行く。
ベッカ兄弟もそれに続く。
「僕たちも行こう!」
ハリアー君の言葉に続いて俺達も走って行く。
う~ん、青い春やねえ~。
「うおらっ!」
「ごらっ!」
「んっだらねーぞ!」
「どけこらっ!」
「当たるといてぇーぞ!」
ビゴロ君達は先ほど話していた男の左右に並ぶ男達とタイマンで殴りあっている。
俺達ファルブリング組はそれ以外の雑魚を蹴散らす。
後ろで先ほど代表して話していた男が腕を組んで俺達のケンカを見ている。どうやらこいつが向こうの頭らしいな。
ビゴロ君達と戦っている相手は向こうの幹部なんだろう、他の雑魚連中はそのケンカに混ざらないように気を配っているようだった。
うんうん、一応ケンカのルールは守ってんのね。だったらこっちもルールを守んなきゃね。
俺達はビゴロ君達のタイマン勝負には加わらず、雑魚たちとのケンカに集中する。
ファブロー君はなかなかの手練れみたいだし、ハリアー君もかなり運動神経が良いようで危なげなく雑魚の数を削っていた。
俺も武器を持たない奴には一発失神で、加減を知らない悪い子には弱電連撃泡吹かせで対応し数を削って行く。
「ちっ!構うこたぁねー!ブッコんでグジャグジャにしちまえ!」
劣勢になっている事に気づいたのか腕組みしていた男が叫んだ。
「やっちまえ!」
「つぶしちめー!」
「皆殺しじゃ!」
物騒な声を上げながら雑魚連中がビゴロ君達へ躍りかかって行く。
「んじゃこら!」
「バカ野郎!イテーじゃねーか!」
「ぐおっ!」
「んだこら!」
「前から気にいんなかったんだよっ!!」
「上等だってんだよ!!」
「なにデケー顔してんだよ!弱小チームが!」
「ボコにしてやれボコに!」
「ありゃりゃ、同士討ち始めちゃったよ?」
ハリアー君が俺の近くに来て言う。
「元々寄せ集めの連中だからな」
ベッカ兄が戻って来て言う。
「つーか、お前らやけにキレイじゃねーかよ。ちゃんとやってたのかよ?」
ベッカ弟が戻って来る。
「おう、連れて来たぞ」
「この野郎、てんで根性ねーでやんの」
ビゴロ君とスベン君が男を引きずってこちらにやって来る。
「ほい、どうするよ?こいつ?」
スベン君がそう言って地面に転がしたのは先ほど後ろで腕組みしてたリーダーっぽい男だった。
「よう、世話になったな?」
ベッカ弟が転がった男に顔を近づけてニヤリと笑った。
「スンマセンスンマセン!自分も好きでこんな事やってたんじゃないんす!自分も雇われなんすよ、勘弁して下さいよ~」
「てめえ、名前は?」
卑屈な笑みを浮かべる男にスベン君が尋ねる。
「ジャージメっす」
「ジャージメな。ほんじゃあよ、オメーは誰に雇われたんだ?ん?」
スベン君がジャージメの襟首をつかんで言う。
「話すっす!全部話すっす!」
ジャージメは必死の形相でそう言った。
「その前に、このバカ騒ぎを収めさせてもらっていいか?」
ベッカ兄が言い俺達は頷いた。
「悪いな、少し待ってくれや」
ベッカ兄弟はそう言って乱闘している男達の元にゆっくり歩いて行ったのだった。




