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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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先を見るって素敵やん

 第一回馬術クラブ小口輸送レース以来、エイヘッズの抜け目のなさにスニーとフライリフが一目置き始めた。

 生徒会がらみでの大人を巻き込む活動や、貴族サイド教師とのトラブルの解決などフライリフとスニーの伝手で多くの生徒がエイヘッズに相談しに来るようになった。

 またそうした事の解決法や落としどころが、微妙に良く出来ていて貴族サイドの生徒たちからも相談を持ち込まれることが増え、馬術クラブはよろず相談所の側面を持つようになっていった。

 適材適所とは言ったもので、情報収集はネージュが、人を集めるようなことはスニーが、学園外の顔利きはフライリフがそれぞれの力を発揮した。

 そして、腕っぷしが必要な局面には部員全員が活躍した。

 ある時、他所の学校の不良グループがやってきて、この学園の頭を出せと騒ぎ立てた事があった。

 シエンちゃんが面白いのが来たと喜び勇んだが、エイヘッズとフライリフが職員室に来て平和的解決をするから任せて欲しいと言う。

 俺は少し離れたところからサウンドコレクションで話を聞かせてもらい、何かあったら出ていくからねと念を押してから任せる事にした。

 エイヘッズは、待ち構えている20人程のガラの悪い学生達に、やーやーどーもどーも、と軽口をたたきながら接近し、先頭で武器を持っていきり立つ男たちの得物、トゲ付き棍棒や鉄の棒などをフライリフとふたりで一瞬のうちにすべて破壊してしまった。

 そうした後にエイヘッズは、本日は頭不在なので後日いらっしゃってね、とふざけた口調で言ってのけたものだから、集まった不良集団はほうほうの体で逃げ出したきり二度と来なくなったのだった。

 そんな訳で馬術クラブは益々各方面から頼りにされる事となった。

 それを面白く思わない者も当然いますわな。

 例えばジマオウ先生。

 彼は、そもそも俺やキーケちゃん達の事を面白く思っていない、それどころか自分が思い描く理想の学園のためには邪魔になる存在と認識しているふしがある。

 まあ、彼が思い描く理想ってやつは、どうも、そっち派閥の人から見ても異常なもののようで、貴族商会側の先生の中にもジマオウ先生のやり方や考え方は間違っていると言う人が出始めているのだが。

 当の本人はそうした評価に益々意固地になり、余計に周囲から眉を顰められるような行動をとってしまうのだった。

 そんな迷走気味のジマオウ先生だが、それでも一応は理事長職を打診された人物。

 この業界でのキャリアは長いので、それなりに従う者もいる。

 ジマオウ先生が馬術クラブに対して最初に起こしたのは、そうした取り巻きを使ってのネガティブキャンペーンだった。

 その内容は、フライリフが札付きの悪党集団のボスだった事、そして今も相談に乗っているのは相談者の弱みを見つけて金銭を強請るためだと言うのだ。

 それを耳にしたスニーとネージュは激怒したが、当人のフライリフは悪党だったのは本当の事だから言い訳はしない、金銭を強請るなんてのは根も葉もない嘘だから広めてる奴らが信用を失うだけだ、なんて漢気溢れる事を言って取り合わない。

 エイヘッズも、フラちゃんの言う通り、俺たちゃ真っ当な事をやってんだから多くの人はこっちを信用するさ、気にすることはないよ、なんて言って余裕の態度を崩さなかった。

 面倒だったのは、ジマオウ先生の取り巻きのひとりがうちのクラスの担任だということだった。

 俺がいないスキを見計らって掃除などの完璧を目指せばキリのない仕事を割り当てて、重箱の隅をつつくようにネチネチと責め立てるようなマネをする事が多々あったようだ。

 そんな時もエイヘッズは変わらずに指示に従ったのだそうだ。

 憤るスニーやネージュを時に諫め、時に慰め、暴発しないように良く押さえていたようだった。

 ようだったってのは、後になってフライリフから聞いた事だからだ。

 実際にそれを知ったのは、クラスの生徒からちょっと酷いと思うと報告されたからだった。

 俺はまず、エイヘッズに話を聞いた。

 エイヘッズは、先に述べたように余裕の態度を崩さないので、担任にある程度の釘を刺しておくぞと告げると、それはよしてくれと言う。


「トモちゃん先生の気持ちは嬉しいんだけどよ、現状、あの人らの制服組への当たりが薄くなってるからさ、フラちゃんとも話したんだけど、俺たちに集中してるうちは甘んじて受けとこうかって。それにさ、俺もフラちゃんもこんなんは大した事ねーって思ってるからさ。」


「お前なあ、お前らだけで背負わなくてもいいんだぞ。みんなで背負えば軽くなるんだから。」


「マジで、ありがとね。やっぱ、トモちゃん先生って先生らしくねーなー。」


「そーかねー。まあ、元々、教師って柄じゃないからなー。しかし、エイヘッズ。あの人らって言ったな?。」


「ああ、うちの担任、ジマオウ先生の派閥でしょ?その辺の情報は入って来るからさ。でも、貴族商会側の先生達の間でも浮き始めてるって情報も入ってるからね。露骨なやり方はそう長く続かないよ、きっと。」


「お前、そこまでわかってんのか。」


「まあね、貴族商会側の先生達がトモちゃん先生達の仕事っぷりを見たり、ケイトモ事務所の素性を知ったりしてで、制服組に好意的になってきてるってのもね。段々とジマオウ先生達が少数派になりつつあるからね。そのうち、みんなが言ってるから、みんながやってるからって理由で制服組を責めてた人たちは変ってくんじゃないっすかね。」


「お前、大したもんだな。人の上に立つような仕事に就いた方がいいよ。」


「いやいや、なかなかどうして、これは今の仕事に必要な能力だったりするのよ。発掘する遺跡の土地はどこの貴族の所有なのか、その貴族の派閥は性格は、どうやって事を運べば横槍入れられたり、美味しい所をかっさらわれたりせずに済むか、なんてね。情報の収集と分析が命綱ってわけ。いかがでしょう?俺の遺跡発掘の腕が一流だっての信じてもらえましたでしょうか?。」


 そんな事を、またエイヘッズ得意のおどけた口調で言うのだが、いや、マジでこれは、一流なんだろうな。


「おう、確かに。これは認めざるを得ないな。」


「へへへ、そんな訳なんで俺たちは大丈夫っすから。」


「ああ、そのようだな。まあ、あんまり見かねるような時は口出しさせて貰うけどな。」


「そん時は頼んます。」


 笑顔で返すエイヘッズ。

 ホントに、いつまでも余裕ある態度を崩さない奴だよ。

 俺はエイヘッズに伝えた様に彼らの動向を見守っていたのだが、恐るべきことに奴の言った通りジマオウ先生派閥は数を減らし、同調圧力から動いていた人たちは無益な迫害を止めていった。

 さらに、これもエイヘッズの策なのか、馬術クラブのよろず相談は学園の外へも門戸を開き始めたもんだから、ちょいとおかしな具合になってきた。

 まったくエイヘッズの奴はどこまで計算してやってるんだ?

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