ムードメーカーって素敵やん
俺たちがバンコウテの街に到着すると、スーちゃんとエイヘッズが出迎えてくれた。
「やーやー、おつかれちゃん!。」
「テメー、どんなからくりを使いやがった!。」
「まあまあ、ちょっくら失礼しますよ。」
エイヘッズはひょうきんな口調でそう言うと、フライリフの馬、ゼケーロのサドルバックを開けて荷物を取り出した。
「いやー、悪いね。運んでもらっちゃってさ。」
「・・・・・。」
さすがのフライリフも口をあんぐり開けて言葉も出ないようだ。
「お前、ノダハの手前で休憩した時だな?。」
「へへ、さすが先生、正解よん。」
「テメー、だからやけにゼケーロの事、撫でまわしてやがったんか。」
「そーゆー事!。」
「ちぇー、負けちゃったかー。」
「もう、着いてんの?やっぱ道間違えたんだー。」
スニーとネージュも到着したようだ。
「やれやれ、エイヘッズに一本取られちまったな。仕方ねー負けは負けだ。」
「ふふふ、それではこの勝負、勝者エイヘッズ君なのである!おめでとう!。」
スーちゃんが高らかに宣言する。
「いやー、どーもです。」
「では、勝利者として一言お願いします。」
「えー、こほん、まあ、運が良かったと申しましょうか。本当に紙一重の勝負でした。ありがとうございます。」
「何言ってやがんだ、ガチガチの作戦通りじゃねーかよ。」
「なにがあったのフラちゃん?。」
「実はよう。」
フライリフがスニーとネージュに事の次第を説明する。
「やだ、ビンちゃんらしいわーーっ!。」
「へー、フラちゃんの事を出し抜くなんて、大したものねー。」
「でも、これで食べ放題独占ってのはどうよスニー?。」
「うーん、ないわね。」
「やっぱり?さあ、ビンちゃん、どうしてくれようかしら?。」
「わーったわーった!みんなの分は俺が出すよ。ふたりがかりで来られちゃ敵わねーよ。」
「いや、スニーもネージュもエイヘッズをあまり責めるなよ。負けは負けだ。」
「えー、インチキじゃん!まったくフラちゃんたら、変なとこまで潔いんだから。」
「フラちゃんらしいけどね。」
「よし、じゃあ先生がみんなの分驕っちゃるわ。」
「マジっすか?。」
フライリフが食い気味に尋ねる。
「ああ、マジだ。スーちゃんも一緒にどうだい?。」
「おや、吾輩にも御馳走してくれるのであるか?。」
「勿論だよ。」
「それは嬉しいのである。では、皆さん、荷物を届けたら今一度こちらに集合して欲しいのである。」
という事で俺たちは各々荷物を届けてから、スーちゃんのもとに集合したのだった。
スーちゃんの案内で評判のお店プレ・ヒンメルにやってきた我々一行。
その日、我々は大いに食べて語らったのだった。
しかし、若いってのはいいやねー。
食べる事食べる事。見てて面白い程よく食べた。
スーちゃんと俺は顔を見合わせて、若者の旺盛な食欲にただ舌を巻いた。
スーちゃんはハティちゃんがうちの事務所で歌っているのを知っており、ちょくちょく会っているのだとか。
そんな話をしていると、ネージュがハティちゃんのファンだと言ってきた。
ハティちゃんがいつも首に巻いている、ケイトモのイエロースカーフはネージュも買っており、馬に乗るときなどに身に着けてるんだって、実物を見せてくれた。
小ぶりなスカーフはオジサン世代だとネッカチーフなんて言ったもんだったな。
みんな腹いっぱいになるまで食べて、チルデイマに帰ることになった。
スーちゃんも仕事でこれからオッドウェイに行くと言うので、一緒に帰ることになった。
久しぶりにスーちゃんの馬、リッキーに会ったが以前と変わらない理知的な目をしていた。
そう言えば、リッキーも俺やスーちゃんと一緒に死線を潜り抜けたんだよな。
帰りの道中、俺とスーちゃんは学園の事について話し合った。
貴族商会サイドの先生達について、その頑なさについて。
スーちゃんが言うには、それが普通の人の考え方だと言う。
ただ、ここ最近、民衆の暮らし向きも良くなり多くの人が生活必需品以外の物に関心を持ち始めている、そうした流れが上手く作用し、物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを人々が求める事になれば、自然とそうした見方も改まってくるのではないか、とスーちゃんは言う。
そうした土壌は出来上がりつつある、ケイトモやチルデイマ学園がまさにそれであると言うのだ。
ウーム、随分と大きな話だが多くの人の価値観を変えるなんてのはそう簡単な事ではないだろうからね、長い目で見た方が良さそうだな。
そうしてチルデイマに到着し解散となったのだが、俺としては帰りにスーちゃんと話していた事が気にかかるので、シエンちゃん達を見つけて意見を伺うことにした。
夕方の校舎、みんなはどこにいるのかなっと。
中庭を見に行くと、木の下で語らうキーケちゃんとアルスちゃんを発見。
スーちゃんと話した事について聞いてみた。
「ふむ、まあその通りだろう。彼らの考え方が一般的ではあるな。やはり、どこの国でも一部の統治者が多くの人民を治めるのが一般的だ。それに伴って格差階級が出来上がるのも、また、自然な事よ。」
「そうですね、わたしが知っている限りでも、人里離れたところで外部を遮断し共同生活をしている少数の集団を除けば、やはり呼び名は違えど同じような構造の制度で国を構築していますね。ただ、ルホイ記者のおっしゃることも非常に面白いと思います。過去、そうした思想を掘り下げる学者も多くおりました。全ての物を共有して一切の格差を無くした世を理想として説いた学者や、自由と平等を掲げて統治者は人民が選ぶべきだと説いた学者もいました。しかし、いずれも国として機能させるためには、いろいろと問題があり実現はしていません。」
「まあ、一番の問題は国民がいなければ国は作れない、ということだな。A級冒険者の中には自分の国を作ることを目的にしてるやつもいる。だが、金や力や土地があれど民がおらねば国ではない。そして、他国が認めなければ、やはり国とは呼べぬ。話しはそれたがそう考えれば、国として成立するためには統治者がおり、階級があり、格差が生まれる、そう言うものだと多くの人が考えるのも当然だろう。そして、それを否定すると自分の存在を否定するように感じる者もいよう。自分を成立させるためにそうしたものが必要な者は、少なくない。貴族商会側から選ばれた教師たちなどはまさにそれであろうよ。」
「多くの人が当然と思っている物を変えると言うのは、簡単な事ではありません。でも、ちょっとした事がきっかけで大局が変わることはあります。」
「ルホイが言っとるのもそうした事だろうよ。事務所のお子達の活動やこの学園が、そのちょっとしたきっかけになるのは良い事だと思うぞ。」
「そうですね、学者さんの理屈よりも、多くの人の心を動かすのは同じく市井の人だったりしますからね。」
「そうだの、わかりやすい直線的な力が有効だったりするものぞ。ほれ、そうした者のひとりがやってきたぞ。」
「なんだ、みんな!我を待っていてくれたのか!お疲れだった!さあ!食堂に行こう!夕飯の時間だ!。」
「あら、シエンさんたらクラブの帰りではないんですか?もう、だいぶ召し上がられたのでは?。」
「ああ、今日は卵と肉を使った料理を作ったぞ。みんな中々良く出来てたな。我も作ったし、皆で食べもしたがあくまで味見よ。腹を膨らます程の事でもない。さあ、食堂に行こう!。」
「きひひ、な?わかりやすかろう?。」
「ええ、直線的な強い力を感じますよ。」
俺はキーケちゃんに答えて言った。
「そー言えばトモちゃん、バンコウテに行ったんだって?プレ・ヒンメルで食べ放題驕ってもらったって、さっきフライリフたちが言っておったぞ!どういう事だ!我を差し置いて!。」
「あら、プレ・ヒンメルですか?随分と評判のお店ですけど、いかがでした?。」
「ああ、美味しかったよ。しかし、若いもんはよく食べるよ。シエンちゃんにも負けない食べっぷりだったな、あいつら。動けなくなる一歩手前まで食べてたもんな。」
「ふふーん!我など動けなくなるまで食べるわ!。」
「きひひ、シエンよ、お前それでは、子供達よりアホではないか。」
「失敬な!。」
「うふふふ、今度は一緒に行きましょうね、トモトモ。」
「あっ、ズルい!我と行くのだ!。」
「みんなで行こうよ、みんなで。」
「きひひ、プレ・ヒンメルならば、オッドウェイに支店を出すと聞いたな。」
「オッドウェイならここからすぐだな。」
「よし、じゃあ支店ができたらみんなで行こうか?。」
「わーい!いきましょう!。」
「とりあえず、今は食堂だ!早く行こう!腹が減ったぞ!。」
「きひひ、そうしようかの。」
元気いっぱいシエンちゃんは、我がパーティーの大切なムードメーカーなのであった。
ありがたいですねー。
そして、たまに見せるアルスちゃんの無邪気な姿も心安らぎますな。
色々と懸案事項は尽きませんが、身体を動かして食事をしてゆっくり寝れば俺は大丈夫だ。
今までだってそうだった。
今じゃ頼れる仲間もいる!。
地道に行きましょうってなもんだよ。




