街道競走って素敵やん
そうしてやってきた休日。
俺たちは学園の馬小屋に集合した。
「あれ?エイヘッズは寮住まいなのか?屋敷あるんだろ?。」
一番早くに来たエイヘッズに俺は聞いた。
「ああ、まあね。でも、どうせひとりで住んでるんだから、だったら近い方が楽っしょって事でさ。屋敷の方は定期的に掃除してもらってるし、たまに帰るつもりだからね。」
「そうか。ネージュも寮暮らしなのかい?。」
「ああ、あいつもそうだよ。商会のほうは叔父さん夫婦だかが切り盛りしてるんじゃなかったかな、確か。ああ、別にいじめられて家を出たとか、そんなんじゃないと思うぜ。あいつなりに気を使ってんだよ。商会はもう叔父夫婦のものだから自分の食い扶持は自分で稼ぐんだって常々言ってるからな。まあ、その稼ぎ方に多少問題はあるけどね。」
「またまたあ、大丈夫か?牢屋にぶち込まれるようなことはしてないよなあ?。」
「それは大丈夫だよ、相手の男たちは今でもあいつと付き合ってるつもりでいるからさ。その辺は上手いよ、ネージュは。」
「なにが上手いのよ。なにか悪口言ってたでしょビンちゃん!。」
「おはよー!。」
「はよっす。」
どうやらフライヒルとスニー、ネージュは3人で来たようだ。
「おはよう。別に悪口なんざ言っちゃいねーさ。逆だよ逆。」
「おはようみんな。さて、じゃあ、フライリフ部長、今日はよろしく頼むね。後、今日はクラブ活動兼職業体験という事で許可を取ってますので、皆さんにはお昼ご飯代の支給がありまーす。くれぐれも、お昼ご飯食べる時間を惜しんで空腹でひっくり返ったりしないように注意してくださいねー。」
俺はみんなに昼飯代として支給された150レインを皆に渡す。
「あざーっす。おっ、結構くれるんすねー。でも食い放題だからなー。軽くだな。」
「フラちゃん、さすがにそれは捕らぬラクーンの何とやらだぜ。それから、ネージュはトモちゃん先生の言った事をちゃんと守れよ。」
「ちょっとそれ、どーゆー事よ!お昼食べないでひっくり返らないように気を付けろっての?フーンだ!お生憎様!昼前には到着するっての!。」
「へー、ネージュもそのつもりなんだ?私も一等で到着して食べ放題ゲットして、お昼代と運搬代は貯金するって決めてんの。」
「へへ、まあ、皆さん夢を語るのは無料ってことでね。じゃあ、まずはマハに行くとしますか。」
てなわけで、賑やかな連中と一緒にフライリフの先導でまずはマーハイヨへ行く。
キットで流して走ると大抵の馬の速足よりは速いものだが、さすがに今日集まったみんなは同じペースを楽々流して走るもんねー、言うだけの事はあるよ。
ゴゼファード領の港町マーハイヨに到着すると、フライリフは異国情緒が感じられる街並みを通り、一軒の小さな店に入る。
「おやっさん、積み荷5つ、頼まぁ。みんな、順番に取りに来て頂戴な。」
「おう、じゃあこれ頼むね。お嬢ちゃんはこの荷物、高級ガラス細工ね。オガクズに包まれてるから少しくらいの衝撃は大丈夫だけど、出来るだけ丁寧に頼むね、お届け先は箱に書いてあるからね。もひとりのお嬢ちゃんは、これね、なんでも珍しい魔獣の標本だって、これもガラス瓶に入ってるからね気をつけてね。」
てな具合に皆、割れ物注意の小包を受け取っている。
「さて、じゃあ最後は先生ね。先生のは特別品だよ、大人向け商品ってやつね。魔法薬品、強い衝撃を与えると爆発するからね、気を付けてね。」
「おいおい、俺のだけ難易度高くねーか、フライリフ?。」
「へへへー、だって先生、現役の冒険者じゃん。このくらいのハンデは頂戴よ。」
「キットに何かあったらどーすんだよ、もう。」
「大丈夫でしょ、アルちゃん先生言ってたもん、トモちゃん先生は凄いって。何が凄いのかは一緒にいるとわかるからって教えてくれなかったけどね。」
「ネージュ、アルちゃん先生ってアルス先生のことか?まったくお前にかかったらみんな友達だな。大したもんだよ。」
「さすがにシエン先生はおっかないけどね。こないだ、トモちゃん先生をむやみに挑発するなって怒られたもんね。目がマジだったから素直に謝ったら食堂でパン驕ってくれたけどね。見る目はあるなって褒められたけどさ、シエン先生はヤバイわマジで怒らせちゃマズイよあの人。」
まったくシエンちゃんはもう、なー。帰ったら言っとこう、子供の冗談なんだからってさ、まあ、ネージュは子供にしちゃ随分な小悪魔っぷりだけどな、末恐ろしいよ。
各自荷を受け取り、サドルバックにしまい込んだら改めまして、第1回馬術クラブ活動マーハイヨからバンコウテまで慎重かつ最速で荷物を運ぼうレース開催となりました。
基本的に街中でスピード上げないのは馬乗りにとっては常識なようで、あれだけ血気逸っていた若者たちも周囲に気を付け流れを乱さない通行をしている。
うむうむ、結構結構。
マーハイヨの街を出ると、最初にネージュの操るケイピーが躍り出た。
後に続くはスニーのカッティード、エイヘッズのアーリマー、そしてフライリフのゼケーロ。
俺はゼケーロの後ろに着けて速度を合わせる。
フライリフは手綱を当てるでもなく、ただニーグリップで腰を浮かせ馬の動きに身体を合わせているように見える。
リズミカルに軽やかに、余計な力が入ってないのがよくわかる乗馬スタイルに俺は見惚れてしまう。
すげーな、大したもんだ、まるで馬と踊っているようだ。
人馬一体とはまさにこれか。
俺はゼケーロの後ろから、徐々に横へと並ぶ。
「なによ先生、後ろにいる方がキットも楽だろうに。」
フライリフもドラフティングの効果はわかってるようだな。
「ああ、フライリフの乗馬があんまり上手かったんでさ、横から見たくなったんだよ。」
「へへ、まったく変わった人だな、先生は。」
「そうか?そんな事ないと思うけどな。普通じゃない?俺って。」
「いやー、なんつーの、そーゆーとこさ、力抜けてるっての?もち、いい意味でね。普通さー、ジマオウ先生みたいにさ外面気にしてカッコつけるじゃん、体裁ってやつ?そんなのばかり気にするっしょ。それでいて、いざって時にはケツ捲るっしょ。責任は取りたくないんだよね。たいそうな事言う奴に限ってそうね。先生は違うじゃん。初っ端からそうだったよ、うちの担任がキーキー言ってたのをさ、責任取るって言い切ったじゃん。なかなかできねーと思うなー俺っちは。」
「そうか?あんまり意識してなかったなあ。」
「おまけにさ、教室入って来た時さ楽しそうな顔してたよ、先生。で、担任が俺っちらの方だけ向いて非難してたの見て嫌な顔したっしょ。」
「お前、よく覚えてるねえ。本人だって忘れちゃってんのに。」
「へっへ、そんでもってさ話を聞こうかときたもんだ。普通は問答無用よ。良くて両成敗。それを、話を聞こうかだもんなー、先生よー。どんだけ平和ボケした坊ちゃんかと思いきや、貴族じゃねーし、名うての冒険者だって言うじゃんさ。面白いにも程があるっしょ。」
「そんなもんかねー。」
「そんなもんっしょ。俺っちはよう、まあ、こう言っちゃなんだけど、この年にしちゃあ色々と見てきたよ。主に裏側だけどね。それでさ、大人のやり方ってのを嫌って程見てきた訳よ。荒くれだけじゃねーよ、表向きご立派な方々も随分見たよ。ま、見る場所が悪かったのかも知れねーけどね、嫌でも本質が見えちまうよーな場所だからさ。まー、一言で言えば、大概の大人はしょーもないよ。損得と保身ね。こればっかり。今の俺が見れる範囲内にはこんなのしかいねーのかってさ、もっと高い場所に行かなきゃ、ちゃんとした大人には会えないのかって思ってさ、そんなのもあってこの学園に来たのさ。」
フライリフ、お前は立派だよ。俺も、前世界で似たようなこと思ってたさ。
しかも、大人の時にさ。
それを、自分の歩いて来た道だから、仕方ないって、それが俺の身の丈なんだって、奥歯噛みしめて働いてたけど、お前は凄いよ。
「そっか。それでどうだったよ。」
「ああ、正解だったね。来てよかったよ。おっと、エイヘッズの奴、知ってやがんな。あんにゃろめ、食えねー奴だ。先生、脇にそれるぜ。」
前を走るエイヘッズが大きな街道から右の小道へと入って行ったのを、俺とフライリフも追いかける。
「どういうことだ、フライリフ?。」
「へへ、さっきの街道はよ、海沿いの王国道でよ、バンコウテに行くならちょいとばかり遠回りなんよ。どこかで東王道に出なきゃなんねーんだけど、この道が一番近いんだよ。知る人ぞ知る道ってやつなんだけど、エイヘッズのやろう良く知ってやがったなあ。」
「あいつも一筋縄じゃあ、いかない男だよな。」
「まったく、おもしれーよ。」
俺とフライリフはエイヘッズを追う。
結構速度が出ている。
エイヘッズとアーリマーは力強い走りを見せている。
「ちょいと距離を詰めますよ。」
「おう。」
フライリフに言われてペースアップする。
そうこうしているうちに細い道から大きな街道に出る。
「東王道に出ました。」
「どの辺なんだ?。」
「ビエイナは過ぎてますよ。」
なるほど、確かに速い。
お?エイヘッズの速度が落ちてきたぞ。
「さすがにおふたりさん、引き離せないねー。ここはひとつ、協力して行きませんかい?。」
また、エイヘッズは怪しいことを言い出したぞ。
「協力って何するんだい?。」
「へへへ、ここからノダハ手前の小川まで、先頭を交代でやるのさ。小川に着いたら馬に水飲ませて休憩してさ。そっからは、レース再会って事でどう?おふたりさん。」
「先生、どう思う?。」
「どう思うって、俺は別にレースで勝つことが目的じゃあないからな。エイヘッズになにか策があったとして、それにハマったとしても構わないからなあ。」
「それを言っちゃあなあ。うーん、まあ、良いか。わかった、ここはお前に乗るよ。」
「そうこなくっちゃ。それじゃあ、言い出しっぺの俺から先頭やらせてもらうぜ。」
エイヘッズの馬アーリマーを先頭に、フライリフのゼケーロ、俺のキットが続く。
さて、あのエイヘッズの事だ何かしらの策があるんだろうけど、疑われても問題がないほど自信のある策なのか?
すでに俺たちは術中にはまっているのか?
それとも考えすぎで、本当にただ消耗を押さえ平均速度を上げるためのローテーションなのか?
考えても埒が明かないわな。
俺たちは、エイヘッズの案に乗り交代で先頭を走りハイペースでノダハ手前の小川にたどり着いた。
「よーし、じゃあここで休憩しましょうや。」
エイヘッズに言われ俺とフライリフも馬を休め、水を飲ませる事にする。
「いやー、フラちゃんの馬、ゼケーロって言ったっけっか。いい馬だなー。脚の筋肉のつきかたがいいねー。」
そう言ってゼケーロの後ろ足付近を撫でまわすエイヘッズ。
「あんまむやみに触ると蹴られるぞ、気を付けろよ。」
「大丈夫さ、賢そうな目をしてるぜ。このへん撫でられるの好きだよなーゼケーロ?。」
まったくエイヘッズは物怖じしないやっちゃで。
ゼケーロもエイヘッズに撫でられるのは嫌じゃないらしく、特に機嫌を悪くする風でもなく平気で水を飲んでいる。
そうして休憩も終わり、協力もここまで、ここからはレース再会だという事で出発するのだが、どういう作戦なのかスタート直後エイヘッズは速度を押さえて俺たちを前に行かせた。
「なんか企んでますね、ありゃ。」
「そうかも知れんが、ひとまず俺たちはこのまま進もう。」
「了解!。」
俺とフライリフはふたりで先頭を交代しながら先を急いだ。
ノダハを通り過ぎ、マキタヤをすぎれば領境の山道だ。
この山道が曲者なんだよな。
曲がりくねった峠道は地面に石ころなんかも転がっており、荷物の事を考えるとどうしても速度が落ちてしまう。
「ま、先生、焦らず行きましょ。みんな条件は一緒何ですから。」
「そうだな。」
俺たちは焦る気を静めて慎重に峠道を進む。
この狭い峠道じゃ抜かすにもそう簡単に抜かせないしな。
ガードレールなんてもんはないから、強引なことをすれば崖の下に一直線だもんな。
俺たちは、慎重に峠道を進むとやがて山間の道は終わり開けた風景になる。
ここまでくれば、バンコウテの街はすぐに見えてくる。
「先生!あれ!まさか!。」
遠くにバンコウテの街が見える、見通しの良い街道の随分先に土煙を立てて走る一頭の馬の姿が見える。
「えー?まさか、エイヘッズか?。」
「間違いないっすよ。あのヤロウまさか山中の獣道を突っ切ってきやがったのか?」
「そんな道があるのか?。」
「ええ、でもとてもじゃないがデリケートな積み荷を持って通れる道じゃあないっすよ。あいつ、積み荷壊す気で行きやがったのか?。」
「うーん、いくらエイヘッズでも、そこまでするかね?。」
「わからないっす。でも、この距離じゃもう追いつけないっすね。畜生!もし荷を壊してたらとっちめてやる。」
てな具合で俺たちはバンコウテの街に向かったのだった。




