人が動くって素敵やん
学園外の相談はスニーが窓口になっていた。
最初は同年齢の相手からの相談が主だったのだが、段々と年齢層が広がって行きすぐに大人までもが相談に来るようになった。
まあ、相談と言っても草刈りとかそんな作業をするのに安価で人手が借りたいとかそういった事が多く、学園の生徒でその値段でその作業をやってもいいよって人間を探して紹介する、人材派遣のような事が主だった。
ところが、学園の生徒から給金が発生しなくても良いからこんな職業を体験したいなんてリクエストがくるにあたって、今まで相談に来た商店主などの伝手から職業体験の場を開拓し提供することまでし始めた。
こうなってくると、学園外からの声も教職員のもとに届くようになり、そしてそれは概ね好意的で、時に感謝の言葉もある程で、誰しもが彼らのおかげで学園の評判が良くなっていると認めざるを得ない状況になってきた。
これだけでも馬術クラブメンバーに対する周囲の反応が変化するには十分だったのだが、生徒会長が介入してくることで更に評判が上がるようになる。
生徒会長のウィンスナイド君は誠実で真っすぐな人柄であり、まあ、絵に描いたような好人物なのでそんなことも言い出しそうだなあと、俺なんかは思ったのだが彼の提案とは、職業体験のように対価をもらわずに社会に参加する手段として、有志による困っている人に無償で労働力を提供する組織を作りたいので、馬術クラブにその窓口になってもらいたいと言うのだった。
まあ、ボランティアクラブですよね。
これが、大ヒットって言い方をしちゃ良くないけど、非常に評判になった。
それと言うのも、実際にやってみたいと思うものが増えるにつれて、活動を通して今まで気づかなかった事や考えもしなかった色々な事を見聞きする機会が若者たちの間に訪れたからだ。
彼らは学園外の仲間ともそうした事を語り合った。
それは、社会システム、格差やそれに伴う人々の意識についてや社会貢献について、自分が誰かの役に立つという充実感や対価や見返りがない事の意義について、またこの学園の理念である多様な価値観との共生について、実際に活動することで感じた事を若者たちは語り合った。
なかには自分の子供からその話を聞いて感動し、自分には金銭的な援助しかできないのだがと言ってしかるべき団体などに寄付をする貴族、商会の方も出て来た。
そこまで来ると、もう社会現象だった。
人助けブームとでも言うのだろうか、良い事すると気持ちがいいってのが合言葉のように使われ始めた。
見知らぬ人に親切にしてもらった、とかそんな話しをよく聞くようになった。
チルデイマの街はよそ者に寛容だなんて噂になり、観光で訪れる人が増えたりもした。
そんなこんなでスーちゃんが馬術クラブに取材に来たのだが、エイヘッズたちは自分たちはただの窓口で生徒会の方が具体的な活動をしてるから、と言った具合で前に出て目立つことは好まなかった。
それが逆に評判になっちゃうのだから世の中わからないよね。
チルデイマの街の統括をしている、サウスリバー街政長という人、まあ町長さんですよね要するに、が学園に来て挨拶がしたいという事になり屋内運動場にて軽く式典が開かれる事になった。
そこで、サウスリバー街政長歓迎の為に文芸部主催でちょっとした演劇をやることになった。
アルスちゃんが馬術クラブに人手や小道具調達を頼んだのだが、どういう訳か脚本演出にエイヘッズが協力することになったのだった。
原作はチルデイマ周辺に伝わる民話からなのだが、元の話しはこうだ。
王国統一前の遠い遠い昔。
この辺りはテンダと呼ばれる小さな村だった。
テンダ村には大きな松の木があって、村の守り木と言われていたのだがいつしかそこに小さな小屋を建てて住み着いたひとりの女がいたそうな。
女は世を捨て貧しい暮らしをしていたが、なにかの修行なのか常に黒いベールを被り素顔を見せずにいた。
女はカラスと意思の疎通が取れたらしく、常に小屋の周りにはカラスがいて女に良く懐いていたそうだ。
村人は当初その女を怪しがり、なにか良くない呪術をつかうのではないかと噂したが、カラスたちは行き倒れた旅人を発見すると女に必ず知らせたので、その度に女は手当をしたり不幸にも亡くなられていた時は懇ろに弔ってあげたりしたのだった。
それを見ていた村人たちも、彼女は悪い人物ではなく親切な魔法使いなのだろうと好意的になってきた。
だが、全員が好意的になったわけではなく、彼女に良い評判が立つのを腹立たしく感じる者もいた。
そうした者は彼女の事を、行き倒れた者の路銀目当ての偽善者だと吹聴して回った。
そうした噂は広がるもので、抜き取った路銀が貯めてあるはずだと盗賊や強盗が彼女の家に押し入る事もあった。
そうした不逞の輩は、小屋を囲む大量のカラスに突かれて血を流しズタボロになって逃げて行くのが常だった。
ある日、カラスは夜には巣に帰るに違いないという事で、懲りない盗人達が夜中に女の小屋を襲った。
盗人達が小屋に押し入ると女は灯していたランプを消した。
すると真っ暗になった小屋の中に、小さな目が幾つも鈍く光った。
押し入った盗人達は小屋の中にいた大量のカラスに闇の中で突きまわされ、昼間に押し入った連中以上にボロボロになって逃げて行った。
それ以来、彼女の事を悪しざまに言う村人は居なくなった、そんな話しなのだ。
これをアルスちゃんが気に入ったのは、背景にある史実によるものだった。
国取り合戦の続く戦国時代、この辺りを治めていた豪族が打ち倒された。
側近たちは命を懸けて豪族の一人娘を逃がしたのだが、その娘がなかなかのツワモノだった。
娘は自分を逃がしてくれた側近たちを束ねて、父の仇を打つためにゲリラ戦を展開し徹底抗戦を続けたというのだ。
そのゲリラ部隊は黒衣に身を包み夜戦を得意にしたそうで、首領の娘は人々から黒闇姫と呼ばれたそうだ。
アルスちゃんは、先のカラスを操る女の話しはこの史実がベースになっており、女性が好意的に描かれているのは、この土地の人々が黒闇姫の事を好意的に思っていた証拠ではないかと言うのだ。
まあ、そんな訳でアルスちゃんは歴史のロマンを感じてこの民話を演劇の原作として選んだのだが、エイヘッズは演出でやってくれた。
劇中で女性に対して行われる誹謗中傷や嫌がらせの描写が、ジマオウ先生が取り巻きを通じてやった事や、担任含めその取り巻き連中がとった嫌がらせをベースにしてあったのだ。
それも、当事者ならばわかるレベルの薄っすらとした演出だったから質が悪かった。
スニーやネージュは大いに溜飲を下げた。
加害者側の人間は歯噛みしたが、さすがに我々のやった嫌がらせを使っていると糾弾出来るわけもなかった。
劇は大成功に終わり、サウスリバー街政長が劇製作者に挨拶をしたいと言い出すほどだった。
アルスちゃんと文芸部員が呼ばれお褒めの言葉を貰ったのだが、街政長が劇中の演出を褒めるにあたって、アルスちゃんが演出において大いに力を発揮してくれたのが彼です、とエイヘッズを紹介した。
街政長は、エイヘッズの演出を褒め称え、チルデイマをアピールするための名物にしたいからこの作品を定期的に公演させて欲しいと言った。
エイヘッズは、アルス先生の企画立案ですので先生さえよければご自由にどうぞ、と答えた。
街政長は、それを聞いてご満悦で、よい生徒をお持ちだ、素晴らしい学園だと笑顔で言った。
そんな事があってから、馬術クラブを陥れようとするようなことや、嫌がらせ行為はめっきり鳴りを潜めた。
そりゃそうだ、自分たちの悪行を劇にされて定期公演なんてされたらたまらないからな。
本当にエイヘッズのやつは、恐ろしいやつだよ。




