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生徒会って素敵やん

 朝飯食べて授業が始まれば、学び舎は一気に賑やかになる。

 沢山の若者が集まって、笑ったり怒ったり悩んだりしている姿はこちらもエネルギーがもらえるようだ。

 本日は、俺の初めての授業があった。

 俺が教えられることなんて幾らもないのだが、俺がこちらに来てから始めた商売について話して聞かせた。

 材料の値段と売値についてや露店の使用料についてなど、本当に最初に自分が手探りで始めた事を。

 そして、自分で実演しながら売ることで売り上げが良くなった事など。


「先生、質問!。」


「あいよ、ツナールどうぞ。」


 ツナールは主に衣料品を扱う商人の息子だ。


「ケイトモ事務所さんが急速に拡大したのは宣伝に力を入れたからだ、と良く父や友人の商会長さん達が言ってましたけど、先生の最初の商売での宣伝はどのようなものだったのですか?。」


「うん、まあ、ケイトモの急速な拡大は宣伝の効果のみではないと思うが、宣伝に力を入れたのは確かだし、その効果が大きかったのも確かだ。俺が実際に最初にやったのは、まあ宣伝なんてたいそうなものではなかったけど、まあ、口で説明するよりやって見せた方が早いだろ。たしか、うちの商品が寄贈してあったはずだな、それを使って実演販売をお見せしようか。ちょっと待っててな。」


 そう言って俺は、カホンと空中ゴマを置いてある部屋から2箱分、担いで持ち出して教室に戻った。


「お待ちどう、じゃあ、実際にやって見せるからみんなついて来なさい。室内じゃ狭いから校庭に出ますよー。」


 生徒たちはザワザワしながら俺について来た。

 校庭に出ると、シエンちゃんが生徒たちを走らせていた。


「シエン先生!ちょっと校庭の隅っこお借りしますよー!。」


「おう!構わんぞ!。」


「よしと、というわけでやって見せるからみんな近くに来て頂戴な。」


 俺はカホンに座り前に空中ゴマを置いた。

 なんか、あの時を思い出すね。

 初めてノダハで露店を出したあの時のことを。

 カホンを叩く。


「はいはい、皆さんお立合い!そこ行くオジサン、お兄さん!見ていくだけなら無料なのよ!だったら見なけりゃ損するよ!最近流行りの空中ゴマ!道行く皆さん、知ってるかい?そこの兄さん!モテそうね!こいつをちょいとやってみな!もっとモテる事間違いなしだ!。」


 俺は前にいた男子生徒をいじってみる。

 他の生徒が笑いだす。


「さあさあ、見ってって頂戴!これが空中ゴマだよ!。」


 俺はそう言って足元の空中ゴマをとり、コマ部分に回転を与える

 それから、ノダハでやったように幾つかのトリックを決め、今お買い上げ頂けたなら無料で教えると言って近くにいた女子生徒に空中ゴマを手渡してやらせて見せる。

 更に、その女子生徒を見ていた男子生徒にも声をかけ同じようにやらせてみる。

 男子生徒は、思い切りが良くてコマを高くあげる。

 それを見て、女子生徒が教えて欲しいとその男子生徒に言う。

 男子生徒が女子生徒に教え始める。

 俺は近くの他の生徒にも渡してやらせてみる。


「なるほど先生!わかりました!これが、宣伝ですね!。」


 ツナールが興奮気味に俺に言う。


「なにかわかったか?。」


「はい、他人がやってるのを見て興味がでる。それを楽しそうにやっているのを、しかも、それをきっかけに仲良くなってる人までいるのを見て自分もそうしたいと思っちゃいましたよ!商品だけじゃなくて、商品を手に入れる事でどんな良い事があるのかも提案するんですね!。」


「おっ!素晴らしい!いい所に気づいたな。それは結構大事な事なんだよね。ツナールも服飾品を販売しているなら見たことあると思うが、実際に人型の人形にセットで着せて飾って見せるのも、そうした事なんだよね。これを購入することであなたの生活はこのように良く変化しますよって、わかってもらう事ね。商人のなかには、物を売るんじゃなくて生活様式を売るのだ、なんて言う人もいるぐらいでね。」


「なるほど、なるほど。それでは先生、私の家は家具の小売りをしているのですが、どんな宣伝ができるのでしょうか?。」


 木工細工を扱う大手商会の娘、ロゼリアが俺に質問をする。


「なるほど、確かに家具では場所をとるから人形にセットで着させたり、実演して見せたりってのは難しいね。でも、まったく手段が無いわけじゃない。例えば小さな見本品の模型を作って同じように作った模型の部屋に自分で並べて見られるようにする、とか、または本物の家を作って実際に家具を配置して、見本として見られるようにする、とか、もしくはそうした家を格安で人に貸して、その代わりに決まった日にはお客さんに見学してもらうようにするとか。」


「ちょ、ちょっと待って下さい、今、メモを取りますから。なるほど、なるほど。先生!今度、両親と会って下さいな!。」


「ちょっと、ロゼリア。その言い方は誤解を招くからね。こうした、考え方や具体的なやり方などは、この学園で君自身が学んで、お家の人に伝えてあげなさいね。人が見ていいなあと思うものを提供してあげるのは、商売では大事な事なんだよ。ほら、見てごらん。」


 俺が指さしたのは、キャッキャウフフと空中ゴマを楽しくやっている男女達だ。


「上手じゃないか、さっきより高く飛んだよ。」

「教え方が上手だからよ、うふふ。」

「ほら、こう持ってこう。」

「あっ。」

「ゴメン、手が触れちゃった。」

「ううん、謝らなくていいの。ちょっとビックリしただけだから。」


「ね?どう?。」


 俺は近くで商売論を交わす生徒たちに聞いた。


「確かに!。」

「わかりやすいんだけど、なんだろう、この胸のモヤモヤは。」

「なんだか、悔しいのですけど。」


「お前らもやって来い。実際になんでも体験してみるのも大事だぞ。」


 俺がそう言うと、彼ら彼女らもおずおずと空中ゴマを手に取り始める。

 それを見ていたキャッキャウフフ組が、やり方を教えすぐにみんなして楽しみ始めた。

 中にはカホンを叩く者やその周辺で歌いだす者まで現れ、その生徒たちは商売より演芸方面のがいいかもな、と俺は思うのだった。


 初回の授業も、まずまず上手くいって俺は案外いけるもんだなと妙に自信をつけた。

 そして、その日の放課後、理事長に呼び出されたのだが生徒会の面倒を見て欲しいと言うのだ。

 ありゃ、生徒会は顧問の先生がいたはず、どうかしたのかと聞くと、顧問のジマオウ先生が生徒会の委員達の中に制服組が多数いるので自分ひとりでは対応できかねる、と言ってきたのだと。

 ジマオウ先生と言えば、キーケちゃんにピシャリとやられた人だな。

 俺は了承し屋内運動場へ向かった。

 生徒会初日は全クラスの正副委員が集まる顔合わせなので、総勢48人にもなるのだ。

 今回はこの中から生徒会長と副会長、学年風紀委員長と同副委員長を決め、さらに各クラスから生徒会メンバーとして3人を選出し基本的にはその8人で生徒会を運営することになるのだが、正副会長、正副風紀委員、以外の生徒会メンバー3人は月替わりの当番制となるとの事。

 そして、その他に2か月通しの生徒会メンバーを6人、半年間通しの生徒会メンバーふたりを決めることで、48人全ての人に何らかの役割が与えられることになる。

 負担が偏らないようにサポートし合うのも、生徒会の運営内容の一部になる。

 そして、生徒会活動は今後は生徒会室で行われ、基本的な運営人数は生徒会正副長、風紀正副長、月間メンバー3人、2か月メンバーひとり、半年メンバーひとりの計9人となる。

 変わったやり方だが俺に異論もあるはずない。

 それに、元々生徒会と言うのは生徒の自治が目的なんだから、それに関わる人間は多くても良かろう。

 みんなでこの学園を作ってもらいたいものだ。

 なんて考えて歩いていると俺に声をかけてくる人がいる。


「クルース先生、ちょっとよろしいですか?。」


 ガタイの良い脂分の多めなオジサンはジマオウ先生だな。


「ええ、何でしょうか?。」


 俺は歩みを止めて話を聞く態勢をとった。


「先生に聞いてもらいたいのは他でもない、生徒会の事なのです。単刀直入に言いますが生徒会長は7クラスのウィンスナイド君にやらせる事になってます。それを先に伝えておきたかったのです。」


「はい?やらせる事になっているとは、誰が決定した事ですか?理事長ですか?。」


「いいえ、私が決めた事です。」


「あなたは、生徒会の顧問をするのに自分ひとりでは対応できないと、理事長に言われたそうですね。」


「ええ、ですからこうして頼んでいるのですよ。制服組を黙らせて欲しいと。」


 なにをどうすれば頼んでいる事になるのか、さっぱりわからないが、これじゃキーケちゃんに怒られても仕方ないよ。


「ジマオウ先生、あなたはこの学園の理念をわかってないのですか?制服組だとか貴族商会組だとかそんな小さな事にこだわらない、多様な価値観と共生できる、世界に通用する人材を育成するのがこの学園の目的なんですよ。それを、教師たるあなた自身がそんなでどうするのですか。」


「ふぅー、あなたもミキイケ先生と同じで現実が見えていない夢想家でしたか。もう結構です。くれぐれも、私の邪魔だけはしないでもらいたい。」


 吐き捨てるように言ってジマオウ先生は去って行った。

 アホか、そんな考えをベースにして起こす行動を邪魔しないわけがないだろうが。

 俺は去って行く脂ぎった男の後姿を見ていた。

 屋内運動場へ着くとすでに中には生徒たちが揃っている。

 俺は施設前方、式典などで使用されるステージの前に腕組みして立ち、しばし待つ。

 しばらくするとステージ上にジマオウ先生が上がった。


「私は生徒会顧問のジマオウです。今日集まってもらったのは他でもない、生徒会役員を決めるためである。」


 ここに集まる皆に何かしらの役割がある事も含めて、各役職の説明をするまでは良かったのだが。


「生徒会会長、7クラス、ウィンスナイド君、副会長、5クラス、ゼッケナルさん、風紀委員長、10クラス、ミッドフース君、風紀副委員長、2クラス、サイホームさん、以上、呼ばれた生徒は速やかに壇上に来なさい。」


 あちゃー、全部自分で決めよったよ。

 呼ばれた生徒も混乱している所を見ると、まったくの独断、もしくは生徒の親関係のみで本人に意思確認とってねーな、こりゃ。

 集まった生徒はざわついているし、誰も壇上に上がろうとしないし、まあ、ダメだよなこんなやり方じゃ。


「おう!ジマオウ先生よう。ちょっと、いいかな?。」


 あら、そういう君はフライリフ。


「なんだ!お前は!。」


「俺っちは4クラスの副委員長やらせてもらってる、フライリフってもんだ。ジマオウ先生のやり方にみんな混乱しちまってんのよ、おわかり?生徒会ってな、生徒による自治、生徒の自発的、自主的な活動だと聞いてたんだが、それは間違いかい?初っ端からこれじゃあ、生徒会の意味、無くないか?それなら先生達がやれば済む話じゃないか?違うかい?。」


「な、なんだと!貴様!先生に向かってその態度は!。」


「いや、口の利き方がなってないのは勘弁してくれよ、この学園でその辺は学んでいきたいと思ってんのさ。俺たちゃみんな、この学園の考え方が気に入って入学したのさ。この学園の理念ってのは何だったっけな。さっき廊下で先生も説明されてたよなあ。ついさっきの事だから忘れちゃいないだろ?俺っちは見てたぜ。いや、俺っちだけじゃねーな。他にも見てたやつはいたはずだ。どうだ!みんな!。」


「聞いてた!聞いてました!私もクルース先生の言ってる事が正しいと思う!。」

「ああ、聞いた!確かに聞いた!俺たちは将来、世界を相手にするつもりでここに来たんだ!。」

「そうだ、そうだ!。」


 うーむ、こりゃ、どうしたもんかね。彼らだけで収拾つけられるかな?と思っていると、いい身なりをした金髪碧眼長身の美少年が壇上に上がった。


「みんな、静かにしてくれ。私は7クラスのウィンスナイドだ。皆を混乱させてしまった原因は自分にもある、ここで謝罪をしたい。申し訳なかった、みんな。」


「お、おい、ウィンスナイド君、何を。」


「いや、ジマオウ先生は黙っていて下さい。恐らく、父から含められたのでしょう。先ほどジマオウ先生の口から出た委員の名前、私を含めて父の関連貴族、関連商会の方々です。知っておられる方もいるでしょうが、私はゴゼファード領3貴族のウィンスナイド家の次男、ヨーク・ウィンスナイドです。自分がもっとしっかり父上に言っておればこうした事にはならなかったと思う。ここにいる皆さんに、改めて謝罪したいと思う。申し訳なかった。」


 深く頭を下げるウィンスナイド君、立派な男じゃないの。


「頭を上げなよ。ウィンスナイドさん。俺たちゃみんな、言ってもガキさ。金や権力を持った大人と対等に渡り合うのはそう簡単じゃあない。それは、よーくわかってる。だから、あんたがそこまでするこたぁないのさ。でも、みんな、あんたの男気は見せてもらった。ここは、ひとつ、この学園の理念を一番良くわかってる人にこの場を収めてもらおうじゃないの。ね?クルース先生?。」


 いきなりフライリフが俺に振ってきた。


「俺が出なくても、収まりそうじゃないか。」


「改めて、この学園の理念をさ、そこにいる大人も含めて聞かせてもらいたいのさ。頼むよクルース先生。」


 いたずらっ子みたいな笑みしてフライリフは言う。いい表情だよ、そんな顔して言われちゃな。よし、いっちょ話したろかいな。

 俺は壇上に上がる。


「えー、俺は生徒会の副顧問って事になるのかな?4クラスの副担任やってるクルースだ。よろしくな。」


 自己紹介の後、俺はこの学園の理念を聞かせる。そして俺が見てきた神聖エルミランド帝国、デイアルアル公国の事、そこで出会って共に仕事をした魔族の彼らの事、ムグリやサマ爺、ゴドーさんたちの事などを話して聞かせた。


「そんな感じでね。、これからはレインザー国内のみならず国外でも働ける人材がドンドン求められてくると思うんだよね。例えばチルデイマの中だけで商売するより、オッドウェイやビエイナなども視野に入れて商売した方が色々と良いのはわかるかな?お得意さんが商売替えしたり街の景気に左右されたり、そうした事は広く受けていると薄まるからね。勿論、ご近所さん相手の地道な商売も大切だし、そうしたものの強みもあるんだけどね。君たちには選択肢を沢山持ってもらいたい。世界にはまだまだ楽しい事や美しいもの、ワクワクするものがいっぱいある。それを忘れないでもらいたい。さてと、では、君たちはどうする?。」


「はい、先生、自分たちで決めたいと、そう思います。」


 そう俺に言うのはウィンスナイド君だ。あの局面から大したもんだよ、勇気もあるし誠実そうだし。元から彼で大丈夫だったんだろうけど、あんな決め方じゃ彼自身も納得いかなかった訳だしね。

 苦虫を噛み潰したような顔をして腕を組むジマオウ先生と一緒に、俺はイスに座り生徒会の始まり、彼ら自身の自主的自発的な始まりを見守るのだった。

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