朝の学び舎って素敵やん
寮には大きな風呂もあるし、しかもいつ入ってもいいってんだから、すでに温泉旅館だよ。
事務所の寮は各部屋に内風呂がついていたが、学校の寮ならやっぱ大きな風呂よな!
そうして、快適に初日の夜は過ぎるのであった。
そして翌日。
俺は朝早めに起きてキットの様子を見に馬小屋に来た。
「どーだ、キット。寂しくなかったかー。キレイにしてもらってるみたいだなー。良かったなー。」
キレイにブラッシングされているようで、光沢のあるキットの首を俺は撫でてやる。
「ブルッフフルルルル。」
嬉しそうに鼻を鳴らすキット。
「ナーハンとパシュートも元気かー。」
ナーハンは相変わらず泰然自若としているし、パシュートも俺に撫でられて嬉しそうに首を振っている。
「先生オハヨーさん。先生も馬好きなのかい?。」
「おっ!フライリフか、おはようさん。早起きだなー。」
「俺っちの馬がいるからね、こいつ、ゼケーロってんだ。」
そう言ってフライリフが撫でているのはガッチリとした大柄な白い馬で、気の強そうな大きな目はフライリフに似た感じがする。
「へー、力強い目をした馬だなあ、なんかお前と似てるな。」
「そうかい?なんか、照れくせーなー。」
「おはようフラちゃん、あら、トモちゃん先生も、おはようございます。」
「おはようスニー。スニーも馬かい?。」
「うん、うちら基本はホースパレッタだから。」
「なんだい?ホースパレッタって?。」
「先生、聞いた事ないかい?馬でスピードを競い合う連中の事。俺たちは元々はそうだったんさ。けどよ、それを邪魔する連中、賭けの対象にして暴力でコントロールしようとする連中、そんなのと戦ってるうちに愚連隊みたいになっちまってさ、俺っちはただ自由に走りたいだけだったんだ。」
そう言って丁寧にゼケーロを撫でるフライリフ。
「フラちゃんは走りじゃ誰にも負けなかったんだ。」
「お前のカッティードも十分速いぜ。」
「ふふ、ありがと。フラちゃんに褒められたよカッティード。」
カッティードと呼ばれた馬は、引き締まった体躯にシルバーの体色で確かに速く走りそうな雰囲気が感じられる。
「先生の馬も速そうだなあ。キットって言ってたねえ。」
「ああ、賢いやつだよ。隣りの赤馬はキットの妹でナーハン、シエンちゃんの馬、その隣の栗毛がパシュート、キーケちゃんの馬だよ。みんな馬好きでさ。」
「キーケ先生って、ジマオウを黙らせた先生だろ?聞いてるよ。へー、ナーハンにパシュートか。いい顔してるじゃん。今度、機会があったら是非一緒に走りたいな。」
ナーハン達を見てそう言うフライリフ。
本当に馬が好きなんだな。
そんなフライリフを眩しそうに見ているスニー、頑張れ若者!青春を謳歌せよ!
そんな熱に感化されたか、俺も機会があったら走りに行こうぜ!と約束したのだった。
キットたちの様子も見れた。
さて、食堂にいって朝飯かと思ったがまだ少し早い。
校内をぶらぶら歩くことにする。
朝の人気のない学校ってのは、独特の雰囲気があるね。
日中、沢山の若者がここに集まって学び遊び人間関係を築き、とエネルギーに満ち溢れる場所なのが今は人気もなくシンと静まっている。
まあ、昨日、始まったばかりでそうした若者の営みは、まだまだこれからなのだが。
それでも、こうして歩いていると朝餉の支度をする匂いが漂ってくるし、どこかで箒を掃いている音も聞こえてくる。
今日という一日の活動はもう始まっているのだ。
校舎の中庭に足を踏み入れると、ピンと張りつめた気配を感じる。
俺は極力自分の気配を消してゆっくりと中庭に侵入する。
中庭の木の下で、エイヘッズがなにやらシャドウボクシング的な事をしている。
やや胸元に引いた構えに、蹴りも織り交ぜたシャドーはキックボクシングに似た感じだ。
リズミカルで美しい動きに、ずっと長い間やり続けているモノなのだろう事が感じられる。
素早いコンビネーションからのディフェンス、目まぐるしく変わる立ち位置。
俺は、目が離せなくなってしまった。
「よう、誰だい見てんのは?一緒にやらないか?。」
シャドーをしながらエイヘッズは声をかけてきた。
「すまんな、邪魔しちまったな。」
「ああ、トモちゃん先生か。おはようさんです。」
シャドーを止めこちらを向いてしっかりと挨拶をするエイヘッズ、なによ、礼儀正しいじゃん。
「ああ、おはよう。大したもんだな、思わず見惚れてしまったよ。」
「またまた、勘弁してくださいよ。毎日やらないと気持ち悪くってね。まあ、習慣ってやつですよ。それより、トモちゃん先生もこっちの方はやるんだろ?ちょっと、稽古つけてよ。」
「いやいや、俺じゃ無理だよ。エイヘッズの腕は大したもんだ、キーケ先生に頼んでやるよ。俺もキーケ先生から稽古つけてもらってるからさ。」
「マジで?あのお婆ちゃんそんなに強いの?。」
「ああ、俺の仲間じゃ一番強いよ。」
「シエン先生より?。」
「ああ、シエン先生はよくキーケ先生に憎まれ口聞いて頭ひっぱたかれてるよ。」
「マジっすか?あははは、そりゃ見てみたいなー。」
「そのうち見れるよ。」
「アルス先生も強いの?。」
「ああ、強いよ。魔法じゃ一番なんじゃない?。」
「へー、俺、魔法に関しては、ほとんど自己流でさあ、アルス先生に教わろうかな。」
「いいんじゃない?教えるの上手だしね、そうだ!エイヘッズさあ、お前、委員長だから生徒会活動もこれからやることになるじゃん。」
「はい?なにそれ?。」
「言ってなかったっけ?学級委員と風紀委員は生徒会と連動なのよ。生徒会ってのはわかるか?。」
「それはわかるよ。」
「じゃあ、話しが早いな、生徒会の活動として、クラブ活動の提案と管理を行ってもらいたいんだよ。」
「クラブ活動?あのお金持ちがやる趣味の集まりかい?。」
「まあ、似たようなものだけどさ、生徒のみんなには色々なことを体験して興味を持ってもらいたいと思ってね。それに伴って外部に協力を頼むのも良いしな。例えば、アウロ先生の伝手で鍛冶を体験するもよし、俺の伝手だと、そうだな小売りかね。そんなのをさ、ある程度組織立ててやりたいのよ。制服組の中には小遣いを稼ぎたい奴もいるだろう、そうした奴にはクラブ活動と同様の伝手で色々と斡旋しても良いかと思ってるんだ。そうすることで、学園生活に支障が出ないように融通してもらったり、生徒が事件や事故に巻き込まれないように注意することも出来るしさ。その辺をね、エイヘッズ達には段取りお願いしたいんだよね。」
「うわー、めんどくせーなー。俺も結構、忙しいのよ。」
「いや、なにもエイヘッズひとりでやれってんじゃあないからさ。他のクラスの学級委員と風紀委員もいるし、その中から生徒会会長と副会長を選出するから、そのふたりが実質的なリーダーだからさ。」
「そうなの?なら、俺の出る幕じゃあないんじゃない?。」
「まあ、表立たなくてもいいからさ。おかしなことにならないように、上手くコントロールしてもらえればと思ってさ。」
「もっと、面倒くさくねー?。」
「いや、お前らならできるよ。先生も協力するし。」
「うーん、まあ、気を付けてはみるよ。なんか、トモちゃん先生たちと伝手持っとくとスゲー得しそうな匂いがするんだよね。今度、お仲間の皆さんを紹介してよ。」
「おう、いいよ。」
「よし、と。では商談成立と。」
「ふふふ、現金な奴だなあ。」
「ああ、そうさ、でもはした金じゃあ動かないけどね。」
「なるほどな、そいつはある意味、信用できるな。」
「トモちゃん先生、わかってるじゃん。」
「まあな。よし、ぼちぼち食堂開く時間だぞ、朝飯食いに行かないのか?。」
「ああ、部屋戻って汗流してから行くわ。」
「そうか、じゃ、また教室でな。」
「あいよー。」
面白いやつだよ、エイヘッズは。
世慣れてるし、金の価値を知ってそうだよ。
金かね言ってるけど、あくまでも金は道具だってわかって言ってる感じがする。
それに、金で動くけどはした金じゃ動かないってのも良いね、気にいったよ。
面白い生徒会に、そして面白い学園にしてもらいたいねえ。
朝の空気を目一杯吸い込んで、俺はそう思うのだった。




