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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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元気いっぱいって素敵やん

 結界を張った校庭でスニーとネージュが向かい合っている。


「あんた、引っ込みがつかなくなったのかもだけど、怪我しないうちに降参してよね。」


 ネージュがスニーに言う、ほらね、根は優しい子だと思ったんだよね。


「そっちこそ!。」


 スニーは短く言いながら鋭い踏み込みを見せ、ネージュの懐に入る。

 ネージュはスニーの放つショートアッパーを軽いダッキングでかわし、右の膝蹴りを返す。

 膝蹴りをよけきれず脇腹に食らい後ろずさるスニー。

 うっすら笑みを浮かべたスニーは、火魔法で小さな火球を3発ネージュに向かって発射。

 ネージュは横っ飛びに避けながら、土魔法の礫で応戦。

 ふたりは遮蔽物のない校庭で、互いの魔法弾を避けながら相手に撃ち込み続けている。

 ふたりとも凄い反射神経と身体能力だ。

 お互い相手に決定打を与えられずに焦れているのか、ジリジリと距離を詰めている。


「魔法の精度ではややスニーという娘が有利だが、体術はネージュに分がありそうだ。なかなか、面白い勝負だな。」


 俺には互角にしか見えないけど、シエンちゃんが言うならそうなのだろう。


 結構な至近距離になり、お互いの魔法弾が当たり始めている。

 お互いの身体が触れようかというくらい近づいたその時、両者が同タイミングで大技を繰り出した。

 お互い今までとは比べモノにならない強さの魔法弾を至近距離で放ち、それがぶつかり合い熱と粉塵が巻き起こり視界を妨げた。

 土煙が収まった校庭に見えたのは、飛ばされて横たわるネージュとスニーの姿。


「がんばれネージュ!。」

「立って!スニー!!。」


 いつの間にか見ていた生徒たちが声を上げている。

 これですよ、学園の醍醐味って。くぅー!もう、たまらん!近所にいかつい夫婦が経営してる中華料理屋ないかしらん?

 なんて、昭和のオッサン心を揺さぶられていると、ひとりがゆっくりと立ち上がった。


「あんた達・・みたいな・・、何不自由なく育った・・人達に・・負けてたまるもんですか。」


 立ち上がったスニーが絞り出すように言う。


「別に私だって、楽して生きてきたわけじゃないけどさ。もう、疲れたし身体中痛いし。降参よ。」


 寝転がったままネージュが言う。


「ふふ、そうなの?良ければあんたの事、聞かせてよ?。」


「いいわよ、けど、まずは立つのに手を貸して欲しい所よね。」


「はいよ。あいつつつ。私だってボロボロだわ、なんか、笑っちゃう。」


「あははは、女の子に負けたの始めてかも。」


「見たか!見たかトモちゃん!最高じゃないか!。」


 シエンちゃんが俺を見て興奮して言う。


「おう!これですよ!これ!。シエンちゃん、治癒ってできる?。」


「できるぞ。」


「よし、じゃあ、頼む。おーーい!ネージュにスニー!こっちゃ来い!治療してやるぞ。」


「えーー!先生、やらしい目で見るからやだー!。」


「そうね、確かに。」


「早速ふたりして力合わせて俺を攻撃するんじゃないよ!地味に効くから。治療はシエン先生がやるから、いいから早く来なさい。」


「「はーーい。」」


 まったく近頃の若い娘は。


「それじゃ、次は俺たちの番だな。」


「ああ。」


 飄々と言うエイヘッズに短く答えるフライリフ。

 先ほどまで、スニーとネージュが立っていた場所までふたりはゆっくりと歩く。


「先に仕掛けな。」


 フライリフが言う。


「じゃ、遠慮なく。」


 答えたエイヘッズは間合いを詰めながら複数の火球を放つ。

 フライリフも間合いを詰め、水魔法の氷玉で火球を正確に撃ち落としていく。


「ほう、なかなか、やりおるじゃないか。」


 シエンちゃんがネージュとスニーに治癒魔法をかけながら言う。


「ネージュさあ、エイヘッズとはどんな関係なのよ?彼氏?。」


「どうだろ?あいつも私も親がいないからさ、私ンちはエイヘッズ家と取り引きしてた商会だったんだけどさ、私が小さい時に商売がらみのトラブルでヤバイ連中から襲われて両親はあっけなく他界。私も殺されそうになったんだけど、そこを助けてくれたのがビンちゃんだったってわけ。あいつ、その頃から当主でさ、ひとりで生きてたからね。それ以来の付き合いなんだけどさ、なんだろね、腐れ縁?ってやつ?。そう言うスニーはどうなのよ?フライリフの事、好きなんでしょ?。」


「うん、好きだけど、フラちゃん硬派だからなあ。ホント、そう言うの鈍感でさあ。」


「わかるわかる!男ってホント、そういう所あるよねえ。でも、なんかほっとけないっての?。」


「そう!まさに、それよ!ネージュも苦労してんのねえ。フラちゃんと私はさ、マーハイヨで育ったんだ。まあ、ガラの悪い港町でさ、そこでフラちゃんホーク団って愚連隊のリーダーやっててさ。」


「やだ、知ってる知ってる!初代リーダーがゲヘナバウンサーって呼ばれてて、マーハの暴力組織を幾つか潰したとか。」


「すいません、それ、フラちゃんです。」


「なによ!じゃ、もしかして、初代ホーク団リーダーの右腕、最強のミソッカスって。」


「ゴメン、それは私。」


「勘弁してよねー!わかってたらやらなかったっつーの!もう!。」


「うふふ、ネージュのほうが軽傷だった癖に。」


「それでも立ったのはスニーでしょ。」


 なんて女同士の友情を確かめあっている時、校庭では凄い戦いが繰り広げられていた。

 接近戦での体術、そして魔法弾の放ちあい。

 相手の魔法発生の挙動を互いに読み合い、避け、逸らしながら、打撃を与えあっている。

 避けられ逸らされたふたりの魔法弾が、四方八方に被弾している。


「おーい、みんな、とばっちりを食わないように先生の近くに来い。」


 俺が声をかけると、離れたところにいたクラスの連中もすぐ近くに寄ってきた。

 フライリフとエイヘッズは一旦距離を取り、呼吸を整えている。


「うそ!フラちゃんがあんな手こずるの見たの初めて!。」


「私だって、ビンちゃんのあんな姿見るの初めてよ。大人相手だって楽にやっつけちゃうのに。」


 フライリフとエイヘッズは、一瞬笑みを浮かべると今度は右手に魔法で剣を発生させた。

 やるじゃんよー。

 フライリフは氷の剣をエイヘッズは炎の剣をお互いの右手に持ち、また接近戦に挑む。

 今度は、魔法弾と体術に剣も加わり接近戦は更に速度を増した。

 お互いに攻撃の手数が増え、目まぐるしい動きと放出される魔法に見ているこちら側は手に汗握ってしまう。

 それでもお互い決め手に欠けた膠着状態で、このままスタミナ勝負になるかと思われたが、フライリフが魔法弾の放出をやめ氷の剣に全力を注ぎだした。

 近距離で全ての魔法弾を切り裂かれ、おまけに炎の剣まで打ち消されたエイヘッズ。


「面白いなあ、フライリフよう。」


「ああ、面白いな。」


 フライリフは全力の氷剣で切りかかる。

 エイヘッズは両手を前に出し、全力の火炎弾でそれを迎え撃つ。


「こなくそっ!。」


「いけえっー!。」


 巨大な火炎弾に氷剣がぶつかり、一瞬で周囲が水蒸気に包まれる。

 結構な勢いで周りに飛散された水煙、水蒸気爆発を起こしたか。

 地面から土も巻き上げられたのか、もうもうと立ち込める噴煙はちょっとした火山のようだ。

 しばらくすると、ふたりが居た場所の煙が収束し肩を貸し合うふたりの男の姿が見えた。


「先生よ、この勝負、エイヘッズの勝ちだ。」


「いや、お前の氷剣の威力の方が上だったよ。」


「これを見な、俺の負けさ。」


 そう言ってフライリフが手のひらを見せると、真っ赤に火ぶくれができ膨れ上がっていた。


「お前。」


「これじゃあ、文句のつけようもねーよ。それから、先生よ頼みがあるんだ。」


「なんだい?言って見な。」


「勝った方が副長だって言ったけどよ、副長は俺っちで頼むわ。代表はエイヘッズのが良いと思う。」


「なんでだい?。」


「エイヘッズの方が向いてるよ。なんせ、よ。」


「口が達者だからでしょ。私も委員長はスニーがいいと思う。この子、意志が強いから。」


 ネージュがそう言うとフライリフとエイヘッズが顔を見合わせて笑った。


「よーし!良く戦った!ふたりともこっちに来てシエン先生の治療を受けろ!それでは、改めてこのクラスの委員長はエイヘッズ、副委員長にフライリフ。そして、風紀委員長にスニー、副風紀委員長にネージュと決定しました。皆さん、拍手を!。」


 俺はそう言って、大きく拍手をする。

 シエンちゃんもそれに続いて拍手をする。

 パラパラと拍手する者が現れ、それはやがてクラスの生徒中に広がった。


「いいクラスだな、トモちゃん。」


「ああ、いいクラスだ。」


 俺とシエンちゃんは笑い合うのだった。

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