登校って素敵やん
馬車でノダハに帰り事務所の皆に事の次第を説明する。
「すげーじゃん!みんな先生になるの?。」
「カッコイイー!。」
とちょっとした騒ぎになってしまった。
「実は私たちも製造、演奏、踊りの講師として時間があるときでよいから来てもらえないかと理事長さんから言われているんですよ。」
とケインが言う。
「へー、それじゃあ俺たちと同じじゃないの。」
「いや、私たちは本業がありますから、本当にその合間にって事になりますけどね。その際は是非寮を使って下さいと言われました。」
「うそ!俺たちも?。」
「なにそれ!聞いてないよ!。」
「ジョンもマギーも理事長さんが話してくれていた時に一緒にいましたよ。人の話を聞く時は落ち着いてちゃんと聞きなさいね。」
「「はーい。」」
シシリーにたしなめられて、バツが悪そうに返事をするふたり。
「そんな訳ですから、私たちとしては皆さんが講師になるってお話しは大賛成です。寮に住まわれることになるのは少し寂しいですが、私たちも学園に顔を出すこともありますからね。」
「たまには帰ってくるさ。ここが我が家なんだから。」
俺はシシリー達にそう言った。
シエンちゃん達もうんうんと頷いている。
そうして事務所のみんなへの報告も終わり、明日は初登校という事で緊張しながら眠ることになった。
翌朝、朝食を食べて着替えをいつものサイドバックに入れていざ出発!と言う所で、馬小屋に行ったのだが事務所の庭にこじんまりと作ってあったはずの馬小屋はお風呂があったスペースまで使った立派なものへと様変わりしていたのだった。
「あっ!おはようございます!私はお隣の集合住宅の管理を任されております、シャイゴと申します。クルースさんですね。馬の用意も出来ておりますよ。どうぞどうぞ。」
頭の禿げあがった初老の男性がニコニコしながら言う。
「ああ、初めましてですね。クルースです。よろしくお願いいたします。」
「我はシエンなり!ナーハンは元気か?。」
「ええ、もう元気すぎるぐらいですよ。」
「よし!結構結構!。」
「ご苦労さんだの。あたしのパシュートはどうだい?。」
「はい、大変に利口な馬でして他の馬とも仲良くやっていますよ。」
「そうかそうか、久しぶりにかわいがってやろうよ。」
「そう言えばキーケちゃんの馬、見るの初めてかも。」
「まあ、忙しかったからのう。きひひ、さあ、元気な顔を見せておくれ。」
そう言ってキーケちゃんは馬小屋に入ると一頭のキレイな栗毛の馬を連れてきた。
「よーしよーし、いい子にしていたようだのパシュート。」
そう言ってキーケちゃんが撫でている馬は、キットやナーハンより少し体高は低いが筋肉の発達した身体に小ぶりな頭、大きくつぶらな目、小さい耳、つややかなな体色と美しい馬だった。
鼻筋と脚先が白いのがまた愛嬌があって可愛らしい。
「あら、美人さんです事。キーケちゃんにピッタリですわ。」
そう言ってアルスちゃんが撫でると、パシュートはまるで言葉が通じているかのように喜んで鼻を鳴らした。
「きひひ、褒められて喜んでおる。」
俺とシエンちゃんもキットとナーハンを小屋から出して久しぶりの再会を喜び合う。
「さて、出発進行!行って来ますね。」
シャイゴさんに挨拶をする。
「いってらっしゃいませ。」
アルスちゃんはいつものようにシエンちゃんの後ろに乗り、我々はノダハを出発、一路チルデイマ学園へ向かうのだった。
ノダハからチルデイマ学園まで昨日は馬車でおおよそ2時間弱位だったから、馬ならもっと早く着くだろう。
またいつものようにシエンちゃんがナーハンで飛ばしてるよ。
「まったくシエンの奴は。」
「馬に乗るといつもこうだよ。」
「きっひっひ、鼻を明かしてやるとするかの。」
そう言うとキーケちゃんはパシュートの手綱を引き、矢のように飛んで行ってしまった。
「まったくキーケちゃんも好きなんじゃん!。」
俺は軽く手綱を入れて2頭の後を追う。
パワフルなナーハンの走りと流麗なと言っても良いパシュートの走り、後ろから見ていると、どうもナーハンの方にやや疲れが見える。
「クソー!こうなったら最後の手段だ!アルス!トモちゃんの方に乗っても良し!。」
「あら、うふふ。了解ですわ。」
前を走るナーハンからスっと浮き上がったアルスちゃんは、そのままスイーっとこっちにやってきて俺の後ろにストンと降りて俺の体をつかんだ。
「お邪魔しますねえ。」
「ほいよ、いらっしゃい。こりゃ、シエンちゃんも本気だねえ。」
「そうみたいですよ。わたしがトモトモの所に来るのを最後の手段と言ってましたからねえ。うふふ。こんな最後の手段は大歓迎ですよ。うふふ。」
そう言ってアルスちゃんはぎゅっと俺にしがみついた。たまにはこういうのも良いか。
はるか先を走るふたり。
俺たちはパカパカとリズムよく速足で道を進む。
流している速度だけど、それでもキットのペースだと他の馬より随分速いもんで途中幾らかの馬を抜いて進むがシエンちゃんたちの姿は見えない。
「随分と先まで行ったようだねえ。」
「そのようですねえ。」
「しかし、あれだねえ、まさか先生をやることになるとはねえ。」
「うふふ、トモトモは先生をやったことはないのですか?。」
「ないねえ。せいぜい仕事を新人に教えるとかその程度だね。アルスちゃんはあるの?。」
「はい、何度か。」
「うわ!凄いじゃん!。」
「別に凄くはないですよ。小さな村の子供たちが通う小屋のような学校や、王都の魔法大学でも教えていたことがありますが、いずれも同じでしたよ。」
「いや、同じって事もないでしょうよ。」
「うふふふ。大丈夫。トモトモならきっと良い先生になりますよ。」
「そうかねえ。」
「そうですとも。」
「実は、ちょっとワクワクもしてるんだよね、学園生活ってやつにさ。」
「わたしも、トモトモ達と一緒の学園生活にワクワクしてますよ。」
「よし、それじゃあ、いっちょ張り切って行きましょかい!。」
結局キーケちゃんとシエンちゃんのふたりに追いついたのはビエイナでだった。
街道沿いの出店でお茶飲んでやんの、しかもシエンちゃんたら肉飯食べたってんだから、もう、どれだけの速度で進んでたんだよ。
トモちゃんもどうだ?なんて聞かれるが喉も乾いてないし、アルスちゃんも同じくだってんで、じゃあお先に行くよって、ウサギと亀かいな。
そうしてチルデイマ学園には俺たちの方が先に着いたのだった。
学園内を掃除している中年の女性、学園用務員のフレーナさんに挨拶をして馬小屋かなにかがあるか尋ねると、教職員用の寮のすぐ近くにありますよと丁寧に教えてくれたので、その通りに進みキットを繋ぐ。
「それじゃキット、行ってくるね。」
「うふふ、お疲れ様でした。」
俺とアルスちゃんとで声をかけると、いってらっしゃいとばかりにキットは軽くいなないた。
俺たちはまず、職員室に向かった。
「おはようございます。」
声をかけて中に入るとエドマンク理事長が出迎えてくれる。
「おはようございます。早かったですね、一番乗りですよ。」
「おはようございます。フレーナさんがすでにお掃除をされておりましたよ。」
「ああ、アルス先生おはようございます。ああ、フレーナさんですか。彼女も住み込みですからねえ。まだ仕事の時間ではないのですが、真面目で責任感の強い方ですからね。さて、今日はまずこちらで他の職員の皆さんと顔合わせをしてもらってから、屋内運動場で始業式となります。よろしくお願いしますね。」
「おはよう!!早かったな!。」
「おはよう、きひひ、シエンはあれからまた肉麺食いおったからなあ。」
「あんなものすぐだ!お茶飲むのと変わらん!。」
「キーケ先生、シエン先生、おはようございます。今日からよろしくお願いしますね。」
「きひひ、シエン先生だとよ。」
「きゃははは、先生か。悪くないな!。」
「先にお話ししておきますが、こちらの机なのですが。」
エドマンク理事長が話しづらそうに言ったのは貴族商会サイドの教員机と初期の構想の下に選ばれた教員と我々の机、これがこの部屋の中でふたつの群れに分かれていることだった。
よく見れば貴族商会推薦側の机とイスは華美なものだった。
「なるほどの、まあ、構わんよ。」
「すいません、こうした介入はこれからも度々あると思います、何かあれば報告して下さい。みんなで力を合わせて解決しましょう。」
「うふふ、なんにしてもシンプルなのが一番ですわ。」
「ま、そうだな。あんな立派なイスと机で子供に何を教えるってんだ?金が大事ってか?豪華なのがエライってか?笑わせるな。」
アルスちゃんとシエンちゃんも向こうさんのやり方には失笑しているようだ。
「おはようございます。」
「よろしくお願いします。」
次々と人が入ってくる、みんなこの学園の教員の方々のようだ、フレーナさんもいる。
「皆さん、おはようございます。改めまして私がチルデイマ学園理事長のエドマンクです。これから、よろしくお願いします。」
エドマンド理事長が学園の理念やこれからの心構えなどを軽く説明し、初日の挨拶を済ませると次に挨拶したのは理事長席の隣り、副理事長と書かれたプレートのある席にいた小柄な女性、サナウリー副理事長だった。
「おはようございます。私はこちらで副理事長を任せていただくことになりました、サナウリーと申します。チルデイマのみならず、近隣貴族家様、大商会様方の多大なるご尽力にてこうして立派な学園を建てる事ができました、この場を借りて関係者各位にまず感謝の言葉を述べさせてください。」
おやおや、これは早速そっち側の介入ですねえ。
エドマンク理事長を見ると眉毛が下がっている、まさに眉をしかめるってやつだ。
まあ、よくしゃべるよサナウリー副理事長は。
格式がどうとか、学園たるものかくあるべき、だとか、チルデイマの名前に泥を塗らないようにだとか、もう体面、世間体、体裁、外聞、なんだかそんな事ばかり言ってるように聞こえる。
シエンちゃんがベロを出して白目向いてるのを、アルスちゃんがおよしなさいと嗜めている。
サウナリー副理事長はシエンちゃんをちらりと見て、騒がしいですよ、初日から弛んでますよ、と叱責した。
シエンちゃんは大きな声で、はい!弛んでおりました!気を引き締めます!お詫びに逆立ち腕立てを千回やります!と威勢よく言って机の上で逆立ちしたものだから皆思わず笑ってしまった。
副理事長がやめなさいと金切り声をあげたが、シエンちゃんは、いや、学園たるものこれくらいしなければチルデイマの名に泥を塗ることになりますから押忍!と言って片手で逆立ち腕立てをやる始末。
サウナリー副理事長が、格式が格式がと言いながら小刻みに震えだしたのをみて、エドマンク理事長がシエン先生には生徒たちの身体の発達、成長についての技術、知識を習得する教科を担当して頂きます、よろしくお願いいたします、それでは、次に、と各先生の紹介に入ったため、何とかその場は丸く?収まったのだった。
シエンちゃん曰く、ああした小理屈こねる奴には勢いで押す、これに限る!との事。
どんな理屈よ?
教員の紹介も終わり屋内運動場へ。
始業式はまず理事長の話で始まる。
生徒のみなを歓迎する事、学園生活を楽しんで欲しい事、積極的に多くの事を学び取って欲しい事などを簡潔に述べて理事長は下がり、次に副理事長が出て学園内の決まり事などを述べる。
続いて生徒代表として身なりの良い女の子が出てきて、チルデイマ学園の生徒として恥ずかしくない生活をし、うんぬんと無難な事を述べ、最後に理事長から皆のクラス分けについて、掲示してあるので確認してからそれぞれの教室に向かうよう指示され解散となった。
職員室にて常駐の教員はそれぞれ担当のクラスを告げられそこへ向かい、俺達のような特別講師は副担任という事で割り当てられた教室へ向かう事になった。
いよいよ、教室へ。
ドキドキするなあ。




