第六十八撃
ぎしぎしという音がジム内に響き渡る。
「今日は一段と激しいな」
サンドバッグの揺れ具合を見てかサンドラが呆れた声を出した。
サンドバッグとキムの手にあるモバイルは連動しており、フィジカルデータが一撃ごとに転送されている。そのキムは無関心なふうでモバイルを操作しているが、その心のうちはわかったものではないと最近は思うようになった。
表示されている数値はおそらく高止まりしているだろう。そしてそれが必ずしも良いこととは言えないことはアスリートの一人として気づいてもいた。
(ちくしょう!)
スージーは何も知らない。
だからやさしいと言ってくれる。
知らないことは罪ではない。なにも言っていないほうが悪い。
それなのに拒んでしまった。
拳を突き出す。サンドバッグが大きく揺れる。
わかっている。これは八つ当たりである。
突発的に思い出して、このように自分でも馬鹿らしいと思うことをしてしまう。
自分のことを好きだと言って認めてくれる人間を拒む自分はいったい何なのだろう。
「ほどほどにしておけよ」
試合はまだ遠く過剰なトレーニングはかえって身体に悪い、と、サンドラはそう言いたいのだろう。
いや、案外こちらの心中を見透かしているのかもしれない。スージーと一緒に出かけてからこの調子なのだからそのように想像したとしてもおかしくないし、そのとおりであるという気持ちがどこかにあるぶん態度にあらわれているだろう。
そうであるならばなおさらのこと恥ずかしい。
その気持ちが一撃にあらわれて、
「おお、すげえな」
どこか馬鹿にしたような感じさえあるようなサンドラの声に対して苛立ちを我慢するのが精一杯だった。
蹴りを繰り出し、膝をつき、グローブに包まれた両手を地面に置いて肩を上下させる。
何が原因だかよくわからない汗がだらだらと流れ落ちる。
スージーを拒み、悲しませたことをいい加減に取り繕い、そのことを独りで恥ずかしがっている。それはそうなのだが、それを認めがたく、また、そのような短い話だけで終わるようなことだけではない。
「なにがあったのかは知りませんが」
キムがタオルを渡してくれながらに言った。
「正直に打ち明けるのも大人の態度です。
ユーマがまだ若いとはいえ、子供扱いして良い年齢ではないので言っておきます」
それは、知ってはいないが察しはついているということではないか。やはりわかりやすい態度をとっていたか。
大人の癖に勘が良いとは、何となく面白くない。
自分の両親のような大人ばかりではないことはわかりつつある。それを友麻はどうとらえていいのかわかりかねていた。




