第六十一撃
(なんだこれ!)
いきなりクラーケンからの攻撃を喰らい、友麻=オメガスクリームⅡ世は防御を崩してしまった。
追撃が来た。まともに喰らえば早々に試合が決着していたかもしれないその蹴りに対してこちらも蹴りで応じる。
互いに弾かれ、距離を取るかたちとなった。
計量の際に顔を合わせたクラーケンも目つきは鋭さを帯びていて、集中力が高まっていることを感じさせられた。いざ試合になってからはそう感じた通りにクラーケンはやみくもにパワーを振りかざすだけではなく、少し動いたところを見た限りで言えば的確な試合運びを心がけているように思われた。
こちらはといえばスージーからの連絡が来てとりあえず懸案が片づいており、メンタルの問題については悪くない、しかし特別に良いわけでもなかった。
(力が強いとは聞いていたけど……!)
ここまで強力だとは思ってもみなかった。
いままでオメガスクリームⅡ世は自分のほうがパワーの面で優勢に立つという試合展開が多かった。もっと言えば、力負けした経験がなかった。
だから、
(怖がっている?
このあたしが?
馬鹿にすんな!)
そうは思いつつもクラーケンに対して距離をはかって跳ねまわるばかりでこちらから積極的に闘いを動かしていくようにはできないでいる。
考えてばかりいては手数が減り不利なジャッジを下される。
思い切ってパンチを繰り出す。
しかしそれはクラーケンの蹴りによって迎撃され、打たれた箇所が痺れてしまう。
痛い。
(やりやがったなこいつ!)
怒りが沸き立つ。
打たれたすぐそばから蹴りを返してやる。
不自然な体勢から放たれたそれは威力をともなっておらず、スピードもパワーも満足にダメージを与えられる内容ではなかった。クラーケンはよけるどころかガードする気さえ起きなかったのか、敢えて受けたようだった。
しかもそのためにクラーケンの接近を許してしまう。
充分に力ののったパンチが浴びせられる。
キックを再び放ってオメガスクリームⅡ世はクラーケンの攻撃を弾き、かろうじてダメージから逃れた。
バルーンの壁を押し、跳ねてまたやや近づく。
この瞬間においてクラーケンにこちらを見ていない感じが見えた。それは隙だと考えられた。体勢的にバルーンの壁を気にする位置にあったとはいえ、試合中に見ていい方向かどうかは疑問だった。
誘われている可能性はある。
こちらに疑問を抱かせて隙を作らせるか、チャンスと見せかけてカウンターを狙っているのか。
何しろローズ・チャンピオンへの挑戦権を持っているくらいの実力者の一人であり、それなりの技量を持っていたり駆け引きをしてきたりするかもしれなかった。
警戒ばかりしていても活路は開けない。かりに誘いであっても、
(あたしの実力なら乗り越えられる!)
そう信じて突っ込んだ。
すれ違いざまに一撃を叩き込もうとして身体をひねる。
そこへ素早い拳がこちらを狙って繰り出される。
ガードは間に合った。
だが、そのガードを弾いて攻撃がねじ込まれてしまう。
同じパワータイプとは言っても自分にはここまでの威力は出せない。
恐怖心を抱きつつある。
その自覚をしてしまったならば振り払わねばならないところだったが、そこからは次から次へとクラーケンからの攻撃ばかりが続いていく。
地獄のような時間だった。反撃しようにも妙にこちらの攻撃が見抜かれ、一方的な試合展開になりつつあった。
結局このラウンドはろくにダメージを与えることができず、こちらは攻撃をもらってばかりになってしまった。
このような展開が続けばノックアウトさせられるに至らなくとも判定負けの確率は高そうである。
ゴングが鳴って自分のコーナーに戻った。
「やはり予想通りの展開になりましたね」
と声をかけられた。
「であれば、油断さえしなければ勝つのはこちらです」
そのようなことを笑顔の一つさえ見せずに言われてしまった。




