第五十二撃
いつも寝る前に思うことがある。
確かにエマを信じていると言いはした。
そこに格好つけや自分に言いきかせる気持ちがありはしなかったか。ありていに言えば、あれはその場かぎりの嘘ではなかったか、と問われたとしたなら、ひょっとしたら目を泳がせたかもしれない。
もちろん信じていないわけではない。
今までやってこれたのはエマのおかげなのは疑いようのないことであり、相手選手をノックアウトしてきたパンチやキックのひとつひとつがエマの指導により繰り出されているものであることに間違いはなかった。
以前エマはベスに才能は少しだけあるようなことを言っていたこともあったのだが、ベス自身の評価ではそんなものがあるとは思えず、エマの力でここまでこれたのであり、仮に才能があったにせよ、それはエマによって引き出されたものに過ぎない。
傾倒や心酔というほどではないにせよ、エマの発言は実行すべきものとして強い価値を感じていた。
一方で、今回のオメガスクリームⅡ世戦における作戦についても同様なことが言えるのか、という気持ちがないでもなかったのである。
それは先日の先輩の発言があったからではない。そうではなくて、それ以前から、エマがこの作戦を提案してきたときから気にかかっていたことだった。
順位こそ下だがオメガスクリームⅡ世は強いと断言できる。ベス=クラーケンと同格かそれ以上の実力を持っていることがデータから感じられた。
確かにパワーだけならこちらが上回っていることはエマの言う通りなのだろう。
しかしながら総合的な実力をはかったなら、こちらが上などと断言できるものだろうか。
今まで何度か負けてきたがその気持ちに慣れることはないだろう。
あのときああしていたならばと振り返る気持ちが延々と続き、結局そうできなかったのは自分の力不足だという結論に達しては身もだえし、そうはあっても八つ当たりできない自分の性格にほっとして、同時に、気を晴らす方法を次に勝つことくらいしか見いだせないわが身を嘆くばかりだった。
エマの作戦が外れたら負けてしまう。
それを想像して恐ろしくなる。
ようやくローズ・チャンピオンへの挑戦権を手にしたのである。
それをうしなうことを想像しただけでおそろしくなる。
あのような敗北の苦しみを繰り返したくないし、今に限っては特に負けるわけにはいかない。
心の内をさらして言うならば、エマの作戦を疑うところがある。
パワーが強まっていくにつれてその気持ちが強くなる。
その破壊力がオメガスクリームⅡ世のガードを打ち砕く瞬間を想像することはできたが、しかしながら最終的に審判が勝利を告げるのはオメガスクリームⅡ世のほうにだという考えが浮かんでしまって離れない。
疑いを抱いてしまうのは自分の心の弱さゆえだという自覚はある。
そんな自分が嫌いだった。
自分はメンタル的に弱いのではないか。
また、自分がこんなに泣き虫だったと気づいたのは、大人になったからなのではないか。
夜ごとに恐怖を覚え、ひとしきり泣いてから眠りにつくことが試合に近づきつつあるこの頃の日課となりつつある。
そんなとき、オメガスクリームⅡ世が挨拶にジムにやって来るという。
定例の挨拶ではあるのだが、
「あいたくない……!」
毛布をかぶって、その布地で涙を拭いた。
明日など来なければ良いのにと願った。




