第五十撃
エマが投げつけてきたボールをジムの天井から吊るされた状態のベスはかろうじて回避した。
続けていくつもボールが右から、左から、下から、上から放られる。
そのいくつかをかわすことができず、
「ほらまた防御が甘くなってる! 気をつけてな!」
ボールとともに叱声も飛んできた。
(そんなこと言われても……!)
思わないでもないが、やらねばならないことではある。
「何回も防御のこと注意してきてるよ!」
ベスのプレッシャーにならないていどの叱責が来た。
(わかってはいるけど……、ね!)
腕を振り回して飛んできたボールを跳ね返した。
一通りの防御の訓練を終え、宙からゆっくりと降ろされる。
床に足を着けながらベスは自分が所属するコリンスンジムがかつて信じられないほど大きなものだと感じていたことをなんとなく思い出してしまう。
いまとなってはこの大きさが当たり前に思ってしまっている。
人に話せば傲慢に取られかねないので口にはしないが、自分のジムより小さいものを見るたびにそんなに小さくてよくやっていけるものだという感想を抱くまでになっている。経営の仕組みなどわかりはしないから、小さいジムも大きいジムもどうやって生存しているのか見当がつかなかった。
コリンスンジムに入って良かったと思うことと言えば、ほかのジムに比べて圧倒的に設備が豊富だということだった。常に最新の理論に基づいた機材でトレーニングできるのは、その効果を実感しているだけに、非常にありがたい。
トレーナーにエマがついてくれたのも特にありがたかった。トレーニングの機材やコンピューターによる管理もそうだが、エマの指導が何より血となり肉となってベスの力を高めていた。
何事につけ成長している実感というのは感動を伴うものだが、エマのもとでトレーニングを積んでいると、自分がどんどん強くなるのが感じられ、快い。
それはランキングにもあらわれている。
げんに、ローズ・チャンピオンへの挑戦権を手にしている。
宙から降ろされるなり、エマから、
「今度のオメガスクリームⅡ世戦だけどな」
どうやら作戦の話らしく、より真剣に聞き入った。
「オメガスクリームⅡ世も君と同じくパワー重視のタイプだが、わたしの見たところでは君のほうがパワーはかなり上回っている。
まあ、パワーだけで見た場合の話だが。
技術面で見れば向こうのほうが上回っているところも少なくない」
言いつつエマがドリンクを渡してくれた。
受け取り、汗を拭きつつ、
「それで、どうするんです?」
エマは一つうなずいて、
「今回は、付け焼刃のテクニックや駆け引きを身に着けるよりも、オメガスクリームⅡ世の防御を打ち砕くほどのパワーを身に着けることにする」
そう言って右手の拳を左の掌にぶつける。勢いで左手は弾かれていった。防御を打ち砕くというジェスチャーだろう。
「あの、こちらの防御は……」
おそるおそるたずねる。
ベスはいつもそのことを指摘されてきた。
自分でも気づいていたが、防御が苦手なのである。そのトレーニングはできればやりたくないという気持ちもないではない。しかしながら同時に、苦手でもやるべきだというようにも考えていたのである。
エマは、
「もちろん最低限必要な防御テクは身に着けてもらう。
が」
拳を握りしめ、
「それよりもパワーだ。
君にはバランスの悪い選手になってもらう。
その自覚をもってこれからのトレーニングをおこなってもらいたい」
その真剣さに、ベスは、
(本気……?)
と思わざるをえなかった。




