第四十九撃
ジムに帰ってくると、サンドラとキムがトレーニング機材の準備をはじめていたところだった。
友麻が帰り次第にすぐトレーニングをはじめられるように気遣っていてくれたのだろう。
サンドラがタオルの用意をしながら、
「ずいぶん早かったな。
行くのはやめたのか?」
「ん、まあ……」
こちらのあいまいな態度をどう察したのかはわからないが、サンドラはそれいじょう突っ込んでくることはなく、準備を続けていた。
あいまいになったのはスージーが遭っていたいじめのことについて言及しなければならない可能性があったからである。
スージー本人がいままでそのことについて触れなかったのは、言いかたは悪いが、「いじめられる側の人間」と見られることを恥じていたからではないか。友麻にもそういう見かたをされ、意味のある視線をむけられることをおそれあやぶんだのではないだろうか。
あのあとスージーから家の近くまで送りつつ事情をききだそうとしたが、泣いているというのもあり、なかなか本人が話したがらなかった。じれったかったが、どなりつけるわけにもいかず、根気よく話を促すしかなかった。
ようやく話した内容は、しばらく前からいじめられており、だんだんエスカレートしていったのだという。
今日は待ち合わせの場所にいたところ、三人に発見されて先ほどの場所に連れ込まれ、酷いことを命じられたらしい。具体的にどのような内容かについては言い淀んでおり、けっきょく話してくれなかったが、かなりの屈辱的な内容であることは想像がついた。
友麻も自分を否定されるような目に遭ったことがないわけではないが、自分と同じくらいの年齢であれほど苦しがるような経験をしている人がいるという事実は驚きに値した。
そういうものは、年齢が上がるにつれてなくなっていくものだとばかりに思っていた。もちろん大人の世界でもいじめがあるということを知らないではない。しかしそれはあくまで実感の伴わない情報でしかない。
(日本でもあるまいし……)
そうも思った。
サミュエラは閉鎖的なところがあるぶん、小さな差異を見つけては貶めてしまうような人間がいるのかもしれないと想像した。〈ZGA〉の世界でもそういう話は聞かないでもない。ただ、明確な話はあまり聞いたことはなかった。
それは、自身が〈ZGA〉の世界にのめり込まないようにあるていど情報をシャットダウンしていたからかもしれない。
「どうした、物思いにふけっているようだが」
サンドラが声をかけてきた。言われた通り、少しぼうっとしていたのだろう。
「ん、なんでもない……」
とりあえずカバンを下ろしつつやり過ごした。
サンドラは腕を組んでニヤリと笑い、
「そうか。
それより」
と言ってモバイルを取り出し、空中に女性の顔写真を投影した。
「次の対戦相手だ」
キムもこちらに近づきつつ、
「名前はクラーケン。
重量級に匹敵するパワーの持ち主だというデータがあります。
あなたよりも強い力を持っているようです。
まあ、パワーだけの比較なら、ですが」
「それになにより」
サンドラがうなずきつつ、
「こいつはローズ・チャンピオンへの挑戦権をぎりぎりの順位で持っている。
君がこいつを倒せば、順位が入れ替わり、その挑戦権を奪えるというわけだ」




