第四十八撃
「できないよそんなの……」
壁に背をつけ、震える声でスージーが口にした。
裏路地にはスージーと、その正面に立つスージーと同じくらいの年頃の男、さらにその背後にやはりスージーと同じくらいの年齢の太めの女と痩せた女がにやにやしながら立っている。
「『できないよそんなの』だって!」
声真似をしつつ痩せた女が笑い声をあげた。
待ち合わせの銅像とはしばらく離れた場所にあるここは、照明も少なく、陰になっている。少々さわぎたてたところで駆けつけてくる者も少なさそうな位置だった。
「おいスージー!」
痩せた女が声をかけた。
「あのときの写真はまだ残ってんだからよ、早くしたほうが良いんじゃねえの?」
言われ、スージーは息をのんだ。
「ひどい……」
スージーが口にすると、男が足を振り上げ、腰のすぐそばの壁を蹴りつけた。
スージーの身体が小刻みに震え始め、涙をひとしずく流した。
「こいつ泣いてるー!」
痩せた女が言うと、三人は同時に笑い声を上げた。そのようすをスージーがじっと見つめると、
「なに睨みつけてんだよ!」
男が声を荒げた。
その声にスージーはがたがたと大きく震え、
「わ、わかった……」
その場にひざまずいた。
それまでの様子を遠巻きに見ていた友麻は録画していたモバイルをしまい、
「おい、お前ら!」
駆け寄って声をかけた。
あのあと、互いの位置情報を知るモバイルのアプリを使って調べてしまった。そうしてこの場に出くわしてしまったのである。
男とスージーの間に割って入り、男を睨みつけて、
「こいつに何をさせようとした、お前ら!」
怒鳴りつける。
太った女が妙に余裕な感じで口笛を鳴らし、
「オメガスクリームⅡ世じゃん!
ほんとうにスージーと仲が良かったんだ!」
「サインくれよ、サインサイン!」
痩せた女もねだりはじめる。
まるで悪びれたかんじもいっさいないこの三人に猛烈に頭にきて、
「うっせえ!
お前ら、あたしの友達になにしようとした?
いままでのこと、録画していたからな。
なにかあったらヤバいのはお前らのほうだからな!」
足を踏み鳴らした。
男としばらくのあいだ睨み合いを続ける。
やがて男は舌打ちをし、
「行こうぜ」
後ろの二人の女に退場を促した。
「けど……」
二人の女はスージーになにがしかの未練があるらしく、渋っていた。
「もう今日は何もできねえだろ。
行くしかねえよ」
再度うながされ、三人はその場から去った。
「さっさと消えろバーカ!」
三人の後ろに悪罵を投げつけ、スージーのほうに向きなおる。
うずくまったままのスージーはしばらくのあいだこごえたかのように震えていたが、いきなり立ち上がって友麻に抱きついた。
「ユーマぁぁぁ!」
大声で泣き始める。
スージーのほうが身体が大きいのでバランスを崩しそうになりながらも何とかこらえた。
「な、なんなんだあいつら」
スージーは泣きながらに、
「ジョンとドリーとルーって言うの」
名前を訊いたわけではないのにそう教えてくれた。
ジョンのほうは知らなかったが、
「ドリーとルーって、お前のクラスメイトじゃなかったっけ?」
ときどきジムでのスージーからの一方的な会話でその名前が出ていたのを思い出した。
その人物たちがスージーにこのような目に遭わせているとは信じがたい。
「だってだって……!」
スージーはそういうばかりで理由らしきものは口にしない。
ほんとうのところ、スージーはドリーとルーが仲良くしているところに混ざりたかったのかもしれない。その願望を友麻に口にしたのかもしれない。
あるいは時系列が違って、ドリーとルーに酷い目に遭わされていたところに、そういう自分を認めたくなく、友麻の前ではありもしない話を捏造したのかもしれない。
あるいは……、といろいろ考えさせられるが、それらを本人の前で確認するのは残酷なようでためらわれた。
「まあ良いよ。
さっきの現場は録画してあるから、また何かあったらあたしに言えよ。
弁護士に相談できるようにしてやる」
「うん、うん……!」
スージーは何度もうなずき、泣き叫微続けた。
この状態となってはもう美術館どころではないと友麻は思いつつ、スージーの背中を撫でた。




