第四十二撃
さすがにローズ・コロニー最大手というだけあって、コリンスンジムは敷地面積が広く、圧倒されてしまう。
とはいえ初めて見るわけでもない。
ローズ・コロニーに移住してからは、憧れのジムということで見ておきたく、通勤路とも生活物資を購入するために通る道ともまったく違うこの場所を、その目に焼き付けるのが目的であるかのようにこの近くを何度も訪れていた。じっさいのところそれが目的なのは間違いなかった。
しかしながら改めてここに入るとなると別の緊張感を覚えてしまう。
それにこれからこのジムに所属する有名なトレーナーであるキム・ベイカーの姿をじかに見ることができるとなると、緊張しもする。
まだかなり若いのに何人ものローズ・チャンピオンを育ててきた名トレーナーであるキムの手腕はまるで魔法のようだという評判だった。
できうることなら故郷のリリー・コロニーで〈ZGA〉の選手になりたかったが、両親の目が近すぎる。さほど〈ZGA〉に興味のあるわけではない両親であれば地元でもない選手の動向など気にしないだろうからということでこの手段をとらざるをえなかった。
学校を卒業したとなれば今や自分は大人の仲間入りを果たしたも同然であり、となれば自分の幸せのために行動するのは当然といえ、しかしながらそれについて姑息な方法をとらざるをえなかったこと、そのために会社の人たちに迷惑をかけてしまったことはつらいことではあった。
何度も大きく深呼吸した。先ほどまで泣いていたのもあり、一回だけでは冷静さを保てるかは不安だったのである。
通りがかった人がぎょっとしてこちらを向いた。
こんなところで深呼吸などしたからだろう。人通りが少ない時間帯というわけでもなく、このようなことをすれば悪目立ちもする。
恥じ、ジムに逃げ込むように入った。実際、逃げたようなものだった。
「あら、どうしたんですか。
見学希望?」
ものすごい美人が受付をしてくれた。ただの挨拶をしてくれただけでうっとりと見とれてしまいそうになる。
初対面ではあるが、
(エマ・クーンだ!)
ベスはその名を知っており、興奮を覚えた。
キムほどではないがローズ・コロニーでも屈指のトレーナーとして有名である。ローズ・チャンピオンも二人ほどは育てていたはずである。
しかし、そのこと以上に、
(ほんものは、こんなに綺麗だったんだ……!)
見とれてしまう。作り物めいた綺麗さではなく、生気のある健康的な美しさがあり、男女問わずとりこにしてしまいそうな魅力があった。
「どうしたんです?」
こちらの気持ちを知ってか知らずか、エマは微笑みつつもこちらをじっと見つめて、
「その……、言いにくいんですが、化粧崩れてますよ」
「え、あ、ひゃっ!」
足をばたつかせつつ慌てて両手で顔を覆った。
泣いたときに崩れてしまったのだろう。そのことに気づかなかったのはこれからのことばかり考えていて自分の状態に気づかなかったからである。ジムの前でこちらを見てぎょっとした人がいたのはこの顔に驚いてのことだったに違いない。
この場で直すこともできず、
「あの、わたし、〈ZGA〉の選手になりたくって来ました!」
頭を下げた。
そして顔を上げて、
「なので、こちらに入会したいです!」
「そ、そう」
エマはじゃっかんこちらの勢いにうろたえたようだったが、すぐに冷静な顔になってモバイルを取り出し、入会届のフォーマットを空中に投影した。
「入会するにあたっては……」
エマは入会金と月謝の話をはじめた。
そういう話をするということは門前払いということはなさそうだと感じ、気持ちが浮き立つ。
「けども、まずは見学してからにしてはどう?
〈ZGA〉の選手になりたいという子はたくさんいるけども、実際になれるのは一握り、続けていけるのは数えるほどだけだから」
わずかに心配そうな顔をしながらエマはそう言ったが、
「頑張ります!」
とのみこたえた。
「そう。
ところで」
化粧室を貸すから、顔を直してきたらいいとエマは言った。




