第四十撃
「君はずいぶん学校の成績が良いみたいだけど、うちじゃそういうの関係ないからね」
社内で地位が高いらしい面接官と小さな会議室にて一対一でそう言われた。
果たしてそれがどこまでほんとうのことなのか知るすべはいまのところないが、だからと言ってそこで折れるわけにはいかないので、熱っぽくいかに自分がこの会社に入りたいのかを口にする。
以前に両親の前でここに入りたいと発表した例の会社での話である。
自分はどうしてもこの会社に入らなければならない。筆記試験はうまくいったはずなので、あとはこの面接さえ突破すれば良いというわけである。心理学にもとづいたらしい適性試験というものも受けたが、そちらは攻略法がまったく思いつかないので結果の予想はし難い。珍妙な答えはしなかったと思うが……。
ほかにもベスはさまざまな会社を受けている。いずれも自分の住むリリー・コロニー以外の会社だった。
しかし、いずれの会社も落ちている。どこか気持ちで負けているところがあるのではという分析だが、実のところどうなのかはその会社自身の立場にならないとわからないだろう。
会社によっては、恋人はいるのか、などプライベートに突っ込んだ話を訊いてきたところもあった。さすがに失礼だと思うが、そういう気持ちを察せられたのかもしれない。もっとも、そのような会社などこちらから断りたい気分ではあったが。どうせ恋人などいたことなどない。だからというわけではないが、面接官という立場にいる人間に偏見を持ちそうになった。失礼な人間が面接官にふさわしいのか、それともその立場が失礼な発言をさせるのか。
ハイスクールの友達はもう何人も就職が決まったという話を聞いている。もちろんそれを祝う気持ちもあったが、同時に焦りや嫉妬をおさえるのに精いっぱいというのも偽らざる実情ではあった。
「これからの世の中は、趣味の世界が拡大していくと思うんです。
たとえば、〈ZGA〉の人気が高まっているのと同じように、食事も趣味の一つとして人気になる社会が訪れるはずです。
自分も食べるのが好きで、そういう人が世の中に増えつつあるのを感じていまして、自分のような人を支える仕事をしたいと思っています。だから、熱意は誰にも負けません」
月並みなことを言いつつ、誰にも負けない、ということは宇宙でいちばんだということになるから、さすがにそれは無理があるのではという理性が働いた。理性にはすこし黙っていて欲しい。
「誰にも負けない、ね。
そういう子は結構いるんだよね」
案の定というべきか、意地悪な笑みを浮かべて面接官はそう言ってペンをもてあそんでいる。
「ははは……」
愛想笑いを浮かべてしまったが、同時にうまい返しをできなかったことを悔やんだ。あとになってから、ああいえば良かった、こう返せば良かった、など思いついたが、それを遅くになってから言うわけにもいかず、つらい気持ちを抱えたまま面接を終えた。
それからしばらくたっても会社から連絡がこない。
受かったとも受からなかったとも言ってこないのである。
それはこちらから連絡がきちんとできるかどうかを試しているのだろうかと疑ったが、逆に催促を不愉快に感じて落とされる可能性もないではないのではないかとも想像してしまう。
学校から帰って来るなりモバイルを手にベッドの上で伏せて足をばたつかせて悶える日々が続いた。
(さすがに遅すぎる。
別な就職先を教えてもらったほうが良いのかな……)
学校に連絡をしてあっせんしてもらおうと考えたとき、モバイルに連絡が入った。
それを見てすぐにベッドから跳ね起きてリビングに走った。
「お母さん、お父さん!」
叫んだが、まだ仕事中の時間で、帰ってきてはいない。
合格通知が来たということを一刻も早く誰かにしらせなければという気持ちに支配される。
とりあえず友達と両親にはモバイルで知らせた。
「やったー!」
両手をひろげて家の中で一人ジャンプした。はずみでモバイルを落としてしまう。
「やっべ、やっべ!」
慌てて拾う。荒い息をつきながら調べた限りでは特に壊れたようすはなかった。
「よっし!」
拳を握りしめる。
これで一人暮らしができると思うと一人きりの家の中なのに黙っていられなかった。
帰ってきた両親は泣きながら喜んでくれた。
「あのボーっとしていたベスがねえ……」
母がうっとりとしているとさえとれるような声でつぶやいた。赤子の頃を思い出しているのだろうか。
胸が、チクリ、と痛んだ。




