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無重力格闘少女伝説オメガスクリームⅡ世  作者: 川場託
VS.クラーケン
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第三十九撃

 フードキューブの味がしない。


 同じテーブルの正面で並んで会話をしながら同じくフードキューブを口にする両親は特に違和感を覚えているようすはなかった。


「最近の歌手はなにを言いたいのかわからないのが増えたなあ」


「わたしもそう感じる。言っていることははっきりと意味がわかるけど、通じてこないっていうか……」


 なにかよくわからないことを言っている父に母が同意を見せた。


 食事を楽しむ文化が少ない〈サミュエラ〉では味わうということをあまりしないので見た目からはわかりにくくはあるが、二人がこの夕食中にフードキューブから味を感じていないということはなさそうである。


(あれか……)


〈サミュエラ〉の人間としては珍しく食事を楽しむタイプではあるのにもかかわらずこうなっているのは、食事どころではないからだろう。


(ああ、やだやだ……)


 真剣な話をしなければならない。苦手なことである。


 だが、自分の将来、それも近い未来にかかわる大事な話であり、しないわけにはいかなかった。


 今日は食事の前に自分の部屋でどうやって話を持っていくかのシミュレーションを繰り返した。


 突然すぎる言いかたはいけないだろうか。


 もっと自然に話を持っていけないだろうか。


 相手に反発させずに納得させるかたちでできるだろうか。


 いまもこうして食事中にそのことばかり考えている。


 そう考えていると、身内に対してさえこうなのだから近い将来に社会人になったらどうなることかと不安になりもする。


 ふと気がつくと両親が食事の手をとめてこちらを凝視していた。


 おそらく何かを感づかれている。こちらのようすになにかしらおかしなところがあったのだろう。


「あのさ……」


 こうなっては自然なかたちで話を持っていくことはできない。少なくともこちらが何らかの話をしたがっていることは気づかれているとみていいだろう。


 ここでごまかすのもかえって不自然なので話を切り出さざるをえない。


(そもそも自然なかたちにこだわる必要はあるのか……)


 そう疑問を抱きもするが、不自然な状況で話をもっていくにはある種の強引さや技術が必要な気がして、それはできないことだと気づいた。


 であれば、可能な限り変わったところがないように、あっても最小限におさえるようにふるまうべきだろう。


「ごはん終わったら、話が、あるんだ……」


 あれだけ滑らかさにこだわっていたのに、いざとなればかすれ声になってしまっていた。そのことに顔が熱くなるのを感じてしまう。


 両親はゆっくりとうなずいた。もしこのときベスが落ち着いていたなら両親も緊張していたようすだったのがわかっただろうが、このときはとてもそのような余裕はなかった。


 あとは沈黙の食事になった。


 最初に食べ終えた父の後を追い、モバイルを携えてリビングに来て、いちばん食事が遅い母を待ち、三人が揃うとテーブルを挟んでソファに腰かけて向かい合うかたちになった。ぎこちない感じがするのはやはり緊張しているからだろう。


「あれから……」


 と言いかけて、のどがカラカラでうまく発音できなかった。母がコップの半分くらいの水を用意してくれたのでそれを飲み、再び、


「あれから一か月たったよね」


 と切り出した。切り出してからすぐには次の言葉が出てこなかった。


「……見つかったのか」


 父が間を補うように言葉を発した。


 うなずき、モバイルを操作して資料を両親側に向くように空中投影させた。軽く両手をひろげたほどの幅に情報が展開される。


「この会社に入りたいんだ」


 資料にはその会社のことについて自分がまとめた内容が書かれている。


 父と母は腕をあごに手をやったり腕を組んだりしながらその資料を熟読しはじめた。


 四つの目が資料を舐めつくすように這った。ときどき気になるところがあるのか一点を見つめたり前の箇所に戻ったりしている。


 そうしているあいだ両親はときどき軽く聞こえるていどに息を漏らしはするものの明瞭な言葉を発しない。


 間が持たないのを感じて、


「この会社は食料の生産会社なんだ。

 ほら、食べるのが好きだからさ、だから。

 それに、この会社は今後どんどん伸びていくと思う。

 これからの〈サミュエラ〉は、食事を楽しむ文化が成長すると思うんだ。ピンと来ないかもしれないけど、大昔の地球時代の人間みたいに味だったり固さややわらかさを感じたり、においだったり、熱さや冷たさを感じたり、そういったことを楽しむようになると思うんだ。

 げんに、味覚をかつての地球の時代のように楽しもう、という運動があるくらいで。コロニー開拓時代の余裕のない生活から脱却し、これからは楽しんで生活する余裕のある時間を過ごそうって。

 だから、その、食べることが好きだから、この会社、ぴったりだと思う」


 自分でも慌てていると感じる口調で一気にまくしたてる。両親は聞いているのかいないのかわからない。真剣に資料に目を向けたままである。


 それ以上こちらとしても言葉を続けられなくなり、黙ると、両親は困ったような顔をこちらに向けていた。


 予定と違う。


 自分の将来設計と情熱に両親が感動して許可を出す流れになるはずだったのである。ひるみを覚えそうになったが、こらえて、


「二人とも気づいていないかもしれないけど、いまの〈サミュエラ〉の食事って、すっごく味気ないものなんだよ。

 いや、味だけならかつての地球時代に負けてはいないかもしれないけど、形がキューブやペーストやパウダーばっかりで、色んな食感を楽しむ習慣やゆとりがないっていうか。

 今回のこの会社は、食感をテーマにした食料づくりを目指しているんだ。これからの時代はこうした食事が流行ると思うから、これに賭けてみたいんだ」


「けど」


 困ったような微笑みを母が浮かべた。


「この会社、ローズ・コロニーにあるじゃない」


 資料の一点を指さしている。そこにはこちらからは会社のローズ・コロニーの住所が裏返って見えていた。


「ふむ……」


 父が腕を組んで背もたれに深々と沈む。


 ここで負けては駄目だろうと思いながら、


「それがどうしたの」


「お前が一人で暮らすのが心配だ」


 父が思いのほかやさしげな瞳を向けた。一所懸命考えたことは認めるが、とでも言いたいのだろうか。


 確かに〈サミュエラ〉では親元で暮らして、やがて家を継ぐ、という流れになるものが多い。結婚するなどの事由がない限りは家から出ないのが一般的だった。


 目元が熱くなるのを感じた。


(うそ……)


 泣いている。ここにきて習慣がいまだに壁になって立ちはだかることになるとは。


 だからといって負けるわけにはいかない。


「独立したいんだ!」


 叫んでいた。


「自分一人の力でどこまで行けるのか試してみたい!」


 その言葉に両親は最初は渋い顔をしていたが、言葉をつないでいくうちに、やがて、


「真剣に考えたようだしな……」


 と認めてくれた。なにかあったときに帰ってこれない距離ではないというのも決め手の一つではあったのだろうが。




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