第三十七撃
ほっとした。
自身の足が出す足音のリズムを楽しむ余裕さえあった。
祝いの場で友麻がスージーの口にした好意について触れることはなかったのである。もし触れられていたなら恥ずかしくてもう顔を合わせることはできなくなるだろう。そうなれば友情もおしまいである。もっとも友麻はせいせいしたとでも言うかもしれないが。
友麻の祝勝会も話題が尽きたところで終わりとなり、こうしてスージーは自宅に向かって歩いている。
もうすぐコロニーの定める夜時間となる。そうなれば街灯が間引かれて暗くなってしまう。いまのところ人通りは仕事を終えて帰る大人たちが増えていてそれなりに淋しくないはずだったが、年齢の違いのためかかえって疎外感を覚えた。
祝勝会は楽しかった。
友麻も普段は見せないような照れ笑いを見せたり、勝利からくる気持ちの高ぶりが楽しげな雰囲気を醸し出していたりと居心地が良く、このようにして終わってしまったのが悔しくさえ感じられた。
楽しいことばかりではあったのだが、それでもときどき出てくる〈ZGA〉についての話はよくわからなかった。パンチのタイミングだのキックの精度だの技術の使いどころだの、殴って当てれば良いだけと思っていた自分としてはずいぶん難しい一面があるのだと感心するのと同時に混乱を感じた。
相変わらずなのは、友麻がスージーを「お前」呼ばわりして決して名前を呼んでくれないことである。
友情を否定する友麻としては親し気に名前を口にするのはためらわれると思っていて、敢えて呼ぶまいと過剰に意識しているものと考えたいが、さすがにそれは自分に都合よく解釈しすぎか。
「大丈夫?」
正面から通り過ぎる大人の女性がこちらの顔を見てぎょっとしたようだった。いきなり声をかけられ、スージーは少なからず戸惑った。
「な、なんですか」
「なんでって、泣いてる……」
「……っ」
気づいていないわけではなかった。目元の熱、視界の歪みによりその事実を気づかされていた。
「なんでもないです。大丈夫」
足早にその場を立ち去る。
なぜ泣いているのかははっきりしていた。
友麻が自分の好意の言葉をとるにたらないこと、無視しても良いことと考えていたのではないかと思ったからである。
よりはっきり言えば、どうでも良いことだったとしたら。
孤独な自分と違って友麻の周りにはなんだかんだで人が集まる。こちらから敢えて触れ合いに行かなければならないスージーの立場とは大違いである。友麻にとってはどうでもいい大勢いるうちの一人なのかもしれない。
足が速まり、いつしか走り出していた。
恥ずかしくても良いからそのことに触れて欲しかった。
どうせ今日も両親の帰りは遅い。
一人で泣くにはおあつらえ向きの環境と言えた。
『VS.サンダークラップ』の章はここで終わりです。
次章は『VS.クラーケン』を予定していますが、しばらくお休みをもらうことにしました。
プロットの練り直しと精査をしたいのと、あと、積みゲーが……。
それではしばしの間お待ちくださいませ。




