第三十三撃
薄暗く数人入れば満員なほどに狭い控室の中でゲルグローブとゲルブーツを外していると、サンドラが、
「今回のような試合内容を繰り返してたんじゃ今後上を目指すのは難しいぞ」
と腕を組んで友麻を見つめている。
ゲルグローブとゲルブーツは皮膚との間に融解剤を流し込むことによって脱げやすくすることができる。軽くとかして外れやすくするのである。
ドロッとした青色の液体にまみれた手足が空気に触れた。一応ゲルグローブとゲルブーツは周囲の酸素を取り込んで皮膚に供給する仕組みになっているので皮膚呼吸が妨げられることはないが、それでも脱いだときのさっぱりした感じはまた格別だった。ついに終わった、という実感が得られるからである。
その気持ちに反してサンドラがネチネチと説教を続けている。ここもやはり無重力状態なのでこちらから見ると斜めになって見える。
「何回も言うけど、今回の敵は実力的には格下なんだからな。
指示に従ってくれればさっきのように苦戦することはなかったはずなんだ」
その一方で手すりにぶら下がったキムがモバイルを手に今回の試合の反省点を音声入力している。
「試合を早く決めようと焦るところがあった。
すれ違いざまに出すキックの精度が甘かった。
パンチの出しかたが見え透いていた。
……」
一つ一つが思い当たるところがあったので心に刺さってくる気分だった。
タオルでとけたグローブとブーツの液体をぬぐいながらサンドラに向けて、
「勝ったんだから良いじゃないかよ。
そんなネチネチ言うことか?」
「『ネチネチ』……!
お前、ほんとうに反省してないな?」
驚いた様子のサンドラは組んでいた腕をほどいて義手ではないほうの手を友麻の肩に触れた。眉間にしわが寄り、くちびるの端が引きつるのが見えた。
「良いか、しなくても良い苦戦をするということは、試合内容の判定に関わってくるんだ。
今後の試合を組むのにどういう試合内容をおこなったかというのがスコアリングされて影響を受けるんだ。
良い試合をすれば当然にランキングが上の相手と闘えるようになる。
けど、勝ったとしても内容が悪ければ同じていどの相手との試合が続くことになる。
ずるずる今のランキングあたりをうろついていたいっていうなら別だが、そうじゃないんだろ!
それとも大したことのないやつばかり相手にしてこのランキングあたりのお山の大将を気取りたいって言うのなら話は別だがなっ」
もちろん友麻のほうとしても反省する気持ちがないわけではなかった。
ただ、サンドラのような態度で言われると自然と反発する気持ちが生まれてきてしまうのである。
今日もまたいつかのように不機嫌な帰り道を繰り返すことになった。




