第三十一撃
ゴングが鳴った。
二ラウンド目開始の合図にサンダークラップはリング内に身を躍らせた。
反対側のコーナーからは瞳をぎらつかせたオメガスクリームⅡ世が突進してくる。宣言通りこちらを血みどろにせんと襲いかかってきている。
定石にのっとりサンダークラップは一ラウンド目は様子見に徹していた。それはつまり二ラウンド目から本格的に仕掛けていくということである。
攻撃をすれ違いざまにいきなりぶつけてやる。回転気味に放った蹴りはしかしながら避けられる。
オメガスクリームⅡ世は跳ねまわり、こちらに反撃する機会をうかがっている。
互いに様子見がはじまる。相手から決して視線をそらさないようにしながら必殺の一撃を叩き込む瞬間を逃すまいという意思を示し続けている。
幾度か跳ねまわる過程ですれ違う。
そのたびに、いまではない、もっと良い機会を、という意識が交錯する。
絶好のチャンスが来たという判断をしたのか、ついにオメガスクリームⅡ世が右腕を狙って蹴りを放ってきた。必殺の気持ちが込められた、当たれば根こそぎ意識を刈り取ってくるだろう一撃である。
(当たれば死ぬかもね!)
次の瞬間にはサンダークラップの足がオメガスクリームⅡ世の腹に突き刺さっていた。
相手の攻撃の勢いを利用して反撃するカウンターの攻撃だった。
(当たれば、の話だけどね!)
サンダークラップはこの機会を狙っていたのである。
オメガスクリームⅡ世は勝負を急ぐと雑な蹴りを繰り出す傾向があることを事前にリサーチしていて、その作戦が見事に当たったということになる。
オメガスクリームⅡ世を完全に撃沈するには至らなかったが、続けて放ってきたパンチは威力をうしなった空振り必至の攻撃でしかなかった。
(おばさんは経験豊富だから!)
舌を出して挑発する。内心でおばさん呼ばわりされたことは根に持っていたのである。
それに乗せられて雑な拳を突き出してくるオメガスクリームⅡ世の顔面にストレートパンチを叩き込んでやった。
笑いだしたい気分だった。
サンダークラップは跳ねまわりながら攻撃を加えるごとにオメガスクリームⅡ世の体力をごっそりと削ってゆく。
反対にオメガスクリームⅡ世のほうは反撃の手立てを見いだせないでいる。
威力ばかり重視するオメガスクリームⅡ世にくらべてこちらはその点においては確かに劣るが、それでも技術と駆け引きにおいてははるかに長じているという自覚があったのである。
もはや試合展開は一方的なものになっていた。
申し訳程度の反撃が来はするが決定的な一撃にはなりえない。
油断はできないが、勝ったという自覚がじわじわと湧き上がってくる。
やはり自分はまだまだやれるはずである。
未だに確かに大した成績を残せないでいるものの、良い試合がこのように展開できる。
まだまだ引退の必要はない。
胸を占める実感を覚えながらオメガスクリームⅡ世のガードをかいくぐって胸元に蹴りを叩き込んだ。
防御さえおぼつかないようすでいるところを見ると、
(あと一撃!)
バルーンの壁を蹴り、最後の攻撃を加える機会をうかがった。
ゴングが鳴った。
二ラウンド終了の合図である。
試合を決めきれなかったということは悔やまれるが、向こうが受けたダメージはわずかな休憩では抜けきらないだろう。
フウウゥゥ――サンダークラップは息を吐いて自コーナーに戻った。




