治水計画
数日後、リュカが方針を決定した。「本流を、それも上流から手を付けよう。そうすれば、万事うまくいくはずだ。」
リュカは、本流の上流側から工事を開始し、人員・資材を集中投入した。
リュカの方針はある種、理にかなっている。
「水は高きより低きに流れる。順序良く整備すれば、きっとうまくいく。」
しかし、議会では反リュカ派が反発する。中でもデッシュさんは、「支流の中にも、様々な貴族層が管轄する地域がある。」として譲らない。要は、「自分のお気に入りの貴族が治める土地から整備を進めるべき」だということだろう。しかし、優先度は、あくまで中央の観点から公平に定める必要があると考えたリュカは、これを退けた。(優先順については、議会ではなく宰相の裁量だからだ。)
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かくして、本流の治水工事が始まった。工事は苛烈である。折からの長雨により、なかなかうまく工事が進まない。ぬかるむ土に足を取られ、人夫は何度も転倒する。また、土砂は水を多量に含み、積めども積めどもなかなか固まる様子がない。おまけに、昨日まで道があった場所は、濁流にのまれ、消えていた。
「これでは、終わりが見えねえぞ…」誰かが、吐き捨てるように言う。それでも工事は続行した。止めるという選択肢は、誰の口からも出なかった。
議会では、反リュカ派が反発する。中でもデッシュは、反対の論陣を張った。「支流に中にも、様々な貴族層が管轄する地域がある。それを無視して本流から手を付けるなど、地方の協力を軽んじていると言わざるを得ない。」彼の主張は、単なる利権の話ではなかった。地方の有力者を無視すれば、労働力も資材も集まらない。結果として、事業全体がとん挫する可能性もあるからだ。さらに彼は続けた。「地方の協力を失えば、どれほど正しい計画でも成り立たぬ。」
だが、リュカは首を振る。「優先度は中央の観点から、公平に定めるべきです。」
(ここで譲れば、判断は歪む―)そう考えたリュカは、デッシュの主張を退けた。
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しかし、本流の治水工事は、折からの長雨で、進行が妨げられた。最初は小さな遅れだった。だが、雨は止まなかった。水位は日ごとにわずかずつ上昇し、誰もが気づかぬうちに限界へと近づいていた。そうしたおり、リュカは治水工事に立ち会うための巡視を行うことにした。
「このように、傾斜が急な川を一度別のルートへと分流させて、本体の工事を行っています。」仮説の水路が掘られ、水の流れが強引に変更されている。
「リュカ、しかし気になることが…」とホンテさん。「どうかしましたか。」
「山の遠くの方で、山肌があらわになっている箇所が見える。」そういって、ホンテさんは、遠くの方を指さした。確かに不自然に山肌が裸になっている土地がある。
「もしかすると、折からの長雨のために、水流が激しくて削れたのかもしれない。一応、注意が必要だ。」
「わかりました。御忠告ありがとうございます。」
しかし、僕らが思ったよりも早く事件は起きた。自然の変化は、時に人の想定を超えるのだ。
「支流の水が増えている……」現場の一人が呟いたが、その声は雨音にかき消された。
「これでは、終わりが見えねえぞ…」誰かが、吐き捨てるように言う。
それでも工事は続行した。止めるという選択肢は、誰の口からも出なかった。
やがて、小さな氾濫が起きた。だが、それはすぐに収まり、誰もが胸をなでおろした。
「持ちこたえたな」誰かが言う。だが、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。




