荒ぶる東国の河川
リュカは、パンチの案内で東国の巡視に赴いた。
ジャングルに覆われ、山々で囲まれたその地は豊かな緑で覆われている。しかし、同時に削れた山肌、崩れた斜面が散見され、濁流唸る川の音が絶え間なく耳を打つのだ。湿った空気は重く肌にまとわりつき、足元の土は一歩踏み出すごとに沈み込む。靴底に絡みつく泥は、まるでこの地そのものが人の侵入を拒んでいるかのようであった。
「このように、東国の河川は、細かな分流が多く、傾斜が急なため暴れ川が多いのです。」とパンチは、地図を示して説明する。だが、東国の河川は無数に枝分かれをして細かく、地図の線では表せきれない程であった。
リュカはその地図を見つめながら、ふと顔を上げる。現実の地形は、紙の上の線よりも遥かに複雑で、そして荒々しかった。
「雨が続くと、昨日まで道であった場所が、今朝には川になります。」と現地の案内役を務めた酋長のティヤマカンさんが言う。
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その言葉の直後、遠くで低く唸るような水音が響いた。誰もが無言でそちらを見やる。自然は常に動いているのだと、否応なく思い知らされる。
「じゃあ、治水が早急に必要だね。」その声には、緊張がわずかに混じる。
リュカ達は、修復必要な堤防のある箇所を、地図に印を落としている。ひとつ、またひとつと印が増えていくたびに、作業の重みが現実味を帯びていく。それは、膨大な数になりそうだった。
印が増えるたびに、リュカの中で一つの疑問が膨らむ――「すべてを同時に救うことはできない」。その現実が、静かに胸に沈んでいく。
「どこから、先に手を付けるかが課題となりそうですね。」とリル。
「本流から先に手を付けるか、支流から手を付けるか。下流が先か、上流が先か。」とリュカ。
「資源配分の効率から、優先順位を立てないとですね。」とヘレナ。
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パンチは、腕を組み低い声で言う。「現場の感覚で言えば、どこも“今すぐ”手当が必要です。ですが、資材も人員も足りません。」沈黙が会議室に響く。どこかを選べば、どこかが後回しになるのだ。その現実が、会議参加者の誰の胸にも重くのしかかった。
その沈黙を破ったのは、現地の若い技術者だった。
「……一部だけでも、試験的に整備してはどうでしょうか。」
小さな支流での仮設工事案が提示される。リュカは頷き、小規模な試行を許可した。
試験工事は一定の成果を見せていた。仮設堤防は水を受け止め、流れは一時的に安定した。
「うまくいっています、閣下。」という報告に、リュカはわずかに安堵する。
(やはり、順序立てれば制御できる――)




