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愛しくて仕方ない~公爵様は幼な妻から目を離せない~  作者: 茉莉花


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第3話

「はぁ」



小さなため息が漏れる。



アングラード邸に来た日に触れた彼の温もりは、あれから感じることが出来ずにいる。


彼はとても忙しいのか、食事も共にできない日が続いていた。


(お会いできるとしたら、お食事の時だと思うのだけれど……)


私にこんな欲があるとは思わなかった。



(会いたい……)



なぜ一緒に暮らし始めたのに会えないのか。


辺りを見回す。

視線はいつも彼を探していた。


でも、この広い屋敷では、簡単に彼を見かけることはなかった。




「ヴィヴィアンヌ様……」


侍女に呼ばれたことで顔を上げると、庭園を散歩しませんかと彼女が誘い出してくれた。




庭園の花壇には、黄色い花が規則正しくきれいに並んで咲いていた。


「この花は、ヴィヴィアンヌ様のために植えられたんですよ。旦那様が、ルペルリエ公爵様からヴィヴィアンヌ様のお好きな花をお聞きしたとお話しされていました」


「お父様から? レオポルド様が?」




私が好きなこの花は、秋植えのはずだった。


転居の準備はずいぶん前から、それも両家で話が進んでいたのだろう。


(私のために植えられた?)


視界には淡い黄色が広がっている。


こんなにも彼の愛が散りばめられているのに、なんでこんなにも寂しいのだろうか。


(大切にされている。それだけはわかるのに……)



自然と涙がこみ上げてくる。


「あっ、ヴィヴィアンヌ様……」


慌てた侍女がハンカチを出してくれた。

私は涙を押さえた。


「実は、この場所、旦那様のお部屋からよく見える場所なんですよ。だからきっと、こちらからも見えると思うんです」


侍女がその窓を指さすが、窓はしめられており、中の様子はわからなかった。


「教えてくれて、ありがとう……」


寄り添ってくれた彼女に感謝を伝えた。


しかし、私の心は晴れず、それを悟った侍女の眉は下がってしまった。


余計に困らせてしまったみたいだった。





◇◇◇



庭園に彼女を見つける。その表情は暗い。


(ああ、私はなぜ配慮してやらなかったんだ……)


私の都合で、早くこちらに来させておいて、放っておくなんて。




──ヴィヴィアンヌ様が寂しそうですよ……


アルマンの言葉がこだまする。





ザッザッ



芝生を踏みしめるわずかな音に気づいた彼女は、ふと顔を上げた。



「ヴィヴィアンヌ」


目が合い呼びかけると、ぱぁっと彼女の笑顔が華やいだ。


「レオポルド様!」


 彼女が駆け寄ってきた。



(ああ、どうしよう。愛おしい……)


抱きしめたいのを我慢したが、駆け寄ってきた彼女はそのまま私に抱きついた。


腰に回された手。

そして胸元には彼女が収まっている。


行き場を失った手が宙をさまよう。


「レオポルド様! 会いたかったです!」


顔を上げた彼女が真っ直ぐに私を見つめた。


「ヴィヴィアンヌ……」


(ああ、私もだ……)


そう言ってあげたいが、理性がまだ駄目だと言っている。


私の眉間に力が入る。



すると、ヴィヴィアンヌの腕の力が緩み、体が離れた。



「?」


「レオポルド様が、ずっと私を大切にしてくれているのも、守ってくださっているのもわかっているつもりです……」


彼女は今にも泣きそうだった。




「私のことは、娘のようだと思っていらっしゃるのでしょう?」




「……え?」




彼女は口を真一文字に結び、その大きな瞳から涙を溢した。


その涙に慌てた私は、否定した。



「娘のようだと思ったことは、一度もない。逆に私は、君に父親のようだと思われていると考えていた」




それには彼女は目を見開いていた。


「違います! 私はあなたを父のようだなんて思っていません!」


力強く否定された。


今まで穏やかで上品だった彼女の熱に、息を呑む。


「私は、あなたに守ってもらいたいんじゃない。愛されたいんです」



「ヴィヴィアンヌ……」



「あなたは、私の初恋なんです。ずっとあなたの隣にいたい……。あなたと出会ってから、毎日がキラキラに輝いています。──私が好きな色は、金色なの……」



「え?」


(金色?)



「私は、あなたに愛されたい……」





 彼女の心の叫びを聞いてはもう、抑えられなかった。


 私はぎゅっと彼女を抱きしめた。



「すまない、ヴィヴィアンヌ。寂しい思いをさせたな、すまなかった……。私は、君を汚してしまいそうで怖かったんだ。私の愛が、君にとって負担になるかもしれないと……」


「そんなこと……」


「ああ、そんなことはなかったな。でも、私は、君が愛しくて仕方ない。君が側にいて、君に触れてしまったら、もう私の欲が止められそうになかった」



彼女ははっと顔を上げた。



そして目をまん丸に見開いている。



私の顔は、自然と綻んでいた。




「ヴィヴィアンヌ、心から愛している。私に彩りを教えてくれたのは君なんだ。ずっとこの先の人生を一緒に歩んでくれないか?」



「──はい!」






穏やかな春の日差しが二人を包み込む。


青空の下、庭に咲き誇るフリージアが、まるで祝福するかのように風に吹かれて揺れていた。







ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

本編はこちらで完結となりますが、エピローグもございます。

そちらもどうぞお付き合いください。

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