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裏切られ続けた令嬢は、これが最後であることを願う  作者: Kouei


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最終話 三度目に出会えた幸せ 3


「……ん……っ」


 気が付くと、目の前に見慣れぬ天井が見えた。

 

 何…?

 ここ…どこ…?


「あ、気が付いた?」


 聞き覚えのある声。

 その姿を見て、私は驚いた。

 

「ディ、ディル!? あ、あなたなんでここに…っ! 痛っ!」


 そこには一人目の元婚約者であり、幼馴染だったディルが立っていた。


 起き上がろうとしたが両手が縛られている事に気づく。

 ヘッドボードの両サイドにある飾り部分に紐が固定され、動く事ができない。


「な!!」


 自分の状態に気付き絶句した。

 ドレスが脱がされている…!!


 な、なに…これ…!

 どうしてこんな状態に!?


 ここはどこなの!?

 なんで私は寝台の上にいるの?

 

 そもそもなんでディルがいるの?!


 分からない事だらけだ。


 私は…今夜、ラシオン様と一緒に夜会に出席して…彼が席を外した時に、見知らぬ令嬢が私のドレスにワインを零して…会場の外へと連れて出され…それで?


 誰かに…口を塞がれた。

 鼻に突く匂いを嗅いだ途端意識が遠のいたわ。

 

 そして気が付いたらここにいた。

 分かる事はただひとつ。


 私はディルに拉致された。


「あなた…いったいどういうつもりなの? こんなことして…!」


「さっき君といた令嬢に、君を会場の外へ連れ出すように頼んだんだよ。金さえ渡せば人は簡単に動く。そして、この会場にあらかじめ部屋を用意しておいたんだ」


「あなたが関わっていたの!?」


 私はさっき会った令嬢の顔を思い出していた。

 あの令嬢…意図して私に近づいたのね。


「こうでもしないと二人きりになれないからね」


「じゃあ、あの妙な手紙はあなたが?!」


「迎えに行くと書いただろ?」


「迎えに来られても、二度とあなたとやり直す気はないけど」


「僕は君とやり直したいんだ!」


「……は?」


「君と別れた事、どれだけ後悔した事か…。プラリアは隣国の人間だから、こことは違う文化や考えに興味を引かれた。容姿も…この国の人間にはないパールピンクの髪と瞳に惹かれた。それを恋だと思った気持ちは、ただの好奇心だったんだ」


「…だから好奇心を持った相手と口づけしました!? 関係を持ちました!? 妊娠させました!? どんな言い訳よ! そもそもあなたから婚約を破棄したいと言ってきたじゃない! 彼女を愛しているっ 彼女のお腹には自分の子供がいるからってね!!」


「あ、あれは…プラリアの方から…僕は誘惑されて…っ それに子供は僕の子供ではなかった! 飛んだアバズレだったんだよ! 両親からもどれだけ責められた事か! なのに君は別の男と婚約してしまって…っ だからこうするしかなかったんだっ 僕たちが()()()()()になるには!」



 “本当の夫婦”!?



 その言葉に、悪寒が走った。

 な…にを…何を言っているの、この人!



「さっきから何、寝ぼけた事ばかり言ってるのよ! 最初に私を裏切ったのは他でもない、あなただって事をいい加減自覚しなさいよ!! もうっ 話せば話すほど、あなたに対して嫌悪感が増すばかりなの! もう元には戻れないって、なぜわからないのよ!!」


「カ…カルミア…ッ」


 続けざまに放った彼への拒絶の言葉に、ディルは狼狽(うろた)えている。


「しかも、薬を使って私を拉致し、既成事実を作ってよりを戻そうなんて…どこまで(こじ)らせてらしてんのよ! 言っておくけど、これって立派な犯罪よ!」


「な、なんでっ そうなるんだよ!」


「当たり前でしょ!? 気を失わせて誘拐し、同意のない相手に無理矢理行為に及ぼうとするのは立派な犯罪でしょうが!!」


「ち、違うっ 違う違う違う―――――っつ!!! 僕たちは愛し合っていた、そうだろう?!」


 そう言いながら、ディルが私の上に(またが)って来た。


「ちょ、何す…っ! 触らないで!!」


 首筋にぬるりと舌の感触

 一瞬にして、肌が(あわ)立った。


「やめて!!」


 手を拘束されて逃げられない。

 けど……


 足は自由だ。


 

 ドコオオオオ!!!



「!!!!!!」



 私は思い切り、ディルの股の間を蹴り上げた。



「あ…がぁ…」



 ディルの身体は一瞬固まると、次の瞬間床の上に転がっていた。

 声にならない声が部屋中に響き、彼は股間を押さえながらもだえ苦しんでいる。


 けど、このあとどうすればいいの? 

 早くこの手を何とかしなくちゃっ!

 

 その時……



 バン!!



「カルミア!」


「ラシオン様!」


 開け放たれた扉の向こうから、ラシオン様が現れた。

 私の下着姿を見て一瞬動きが止まったが、すぐに拘束されていた紐を解いて下さり、私はやっと自由になれた。


「大丈夫か!?」


「は、はいっ ありがとうございますっ でもよくここが…っ」


「君をひとりにする事があった場合に備えて、事前に一人の給仕係(フットマン)に頼んどいたんだ。君が会場を出る事があったら行き先を確認し、必ず(しら)せるようにってね」


 ラシオン様は、ご自分の上着を私にかけながら説明してくれた。


「それと調べたら、マクトルは次男が家督を継ぎ、彼自身は隣国の女男爵のところへ婿養子として出されていた。相手はかなり年上らしい」

 

「そうだったんですね」


「だからずっとお前を警戒していたんだよ、ディル・ラグア!」


 ラシオン様は、鋭く言い放った。


「カ、カルミアからはなれ…ろっ 彼女…は、僕の女…だ!」


 股間を押さえ、床で(もだ)えていたディルが涙目でラシオン様を睨みつけている。


 私からそっと離れるとラシオン様はディルの元へ行き…


「ぎゃああああああ!」


 全体重をかけて彼の股間をグリグリ————ッッと、踏みつけた。


「どの口が言っている! 彼女を裏切り、傷つけた人間が! 今また彼女をどれだけ傷つけているのか分からないのか!!」


「や、やめっ やめっ あ、足をっ 足をどけ…っ」


 ディルが息も絶え絶えに懇願するが、ラシオン様は聞いていない。


「お前の視界にカルミアが映ることは二度とない!」


 ふとディルをみると、白目を()いて気を失っていた。

 きっとラシオン様の言葉は届いていないだろう…


「連れていけ」


「はっ」


 指示を受けた衛兵はディルを引きずるように連れて行った。


 部屋に静寂が戻る。

 ラシオン様は私の元へ戻ると、ふわりと包むように抱き締めてくれた。


「無事で良かった…」


 彼のあたたかさに安堵すると同時に、涙が溢れた。


「…い…いつの間にあんな人間になったの? プラリアと付き合って変わってしまったの? もともとの性格だったの? 9年も一緒にいたのに…ディルの事、何も…何も分かっていなかった…っっ!」


 とめどなく涙が頬を伝う。


 ディル…あなたは私を裏切っただけじゃない。

 私との約束を踏みにじり、想い出も(けが)したのよ!

 

 そんな事…全然わかっていないんでしょうね…



 『ぼくはカルミアをおよめさんにしたいです』

 『じゃあ、やくそくね』

 『『大好き』』



 小さい小指を絡ませて交わした約束。

 純粋な想い。

 二人で紡いだ時間。


 その全てが粉々に壊れた…


「カルミア…」


 彼は私の頬に触れ、そっと涙を拭った。


「彼は…君を失った事で自分の行動の間違いに気づいた。その事を後悔し、考えを改めれば良かったのに、彼はさらに間違った行動を起こした。君とやり直す事ができればまた、すべてが元に戻ると思い込んだのだろう」


「……そんなこと…もう無理に決まっているのに…」


「現実に向き合えなかった彼の弱さが、自滅へと追い込んだんだ。君が彼の事でもう心を痛める必要はない…」


「ラシオン様…」


 ラシオン様は私を胸へ引き寄せた。

 私は彼の背中へ静かに腕を回した。



 その後ディルは逮捕され、現在は裁判中だ。

 ディルはラグア家の継承権を剥奪となり、そして廃嫡となった。

 コートン家との事は未だに揉めているようだけど…




「きれいだよ、カルミア」


「今度こそ、幸せになるのよ」


「ありがとうございます、お父様、お母様」


 今日はラシオン様と私の結婚式。

 控室で両親と最後の時間を過ごしていた。


「新婦様、お時間です」


「はい」


 私は案内人の指示で、挙式会場へと向かった。

 開け放たれた扉の向こうに、マリア様の祭壇まで導くように赤い絨毯が伸びていた。

 その先にはラシオン様が微笑みをたたえ、待っている。

 


 きっとこれが最後――――――…




 先日、また新しい『ことわざ』を見つけたわ。


 “三度目の正直”


 一回目や二回目が失敗に終わっても、三回目にはうまくいく…という意味らしい。


 まさにその通りだわ。




 【終】

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― 新着の感想 ―
貴族の令嬢が拉致されてドレス脱がされてベッドに縛られて、となったら風評被害で詰むと思うんですが、うまく事後処理できたんですね。 よかったよかった。
カルミア拉致誘拐を手助けした銭ゲバ令嬢は捕まったのでしょうか? とりあえず、今度こそ幸せになれたようで本当に良かった!
黒髪で警戒しちゃったよ。もしや1度目の婚約者を略奪した女の子供の本当の父親じゃないか?って。まともな人で良かった
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