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裏切られ続けた令嬢は、これが最後であることを願う  作者: Kouei


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第3話 三度目に出会えた幸せ 1

 

 そうして奇跡的に決まった三度目の婚約。

 今日は両家顔合わせの日だ。


 そして目の前にいらっしゃるのが、お相手のラシオン・ヘルギス伯爵令息。

 私よりひとつ年上の方。

 黒髪に赤い瞳が印象的だった。


 『若い者同士で少し庭園を見てきなさい』と、ヘルギス伯爵様が(おっしゃ)ったので、今、庭園にあるガゼボで向かい合わせに座っている。


 それにしても、この婚約をよく承諾したものだ…と感心せずにはいられない。


 父の話では、彼も一度婚約破棄をしたそうだ。

 破棄の理由が少し気になるが…二度も破棄した私から聞くのは(はばか)られる。


 一度あるだけでもこうして理由が気になるのに、相手からしたら二度も破棄された私をどう見ているのだろう。


 だから、私の事情は先に言うべきよねっ うん。

 

「ラシオン様、私は二度とも相手の不貞で婚約破棄となりました」


「え?」


 突然の私の言葉に、戸惑っているラシオン様。


「婚約破棄の理由です。気にされていると思いまして、先にお伝えしておきます。そして、私自身はなんら恥じるような事はしていないと誓って言えます」


「…ええ、存じております」


「え…?」


 思いがけない返答に、私は驚いた。

 知っていたって…どういう事?


「僕はあなたと同じ高等学院(アカデミー)に通っていました。そこであなたとあなたの元婚約者、そしてその相手であろう女性とが学院の裏庭で話しているのを目撃しまして…」


「え!!」


「本当に偶然だったんです。次の授業の移動で近道をしようとして…」



 あの状況を聞かれていた、見られていた?!

 じゃあ…私がブチ切れてしまったのも…!?


 なんてことっっっっ!!


 私は頭を抱えたくなった…


「……も、申し訳ありません…。わ、忘れていただけないでしょうか? あの時の私は…私であって私ではなかったと思います…。みっともないところをお見せして…っ」


 恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い、ラシオン様の顔も見れずに懇願した。 

 ああ…今振り返っても貴族令嬢としてはありえないキレっぷり。

 穴があったら入りたいとはまさにこの事だわ…っ


「みっともないなどと、あろうはずがありません! …実は僕も同じ頃、婚約破棄をしました。理由はあなたと同じ、相手の不貞です。少なからず気鬱な日々を過ごしていました。そんな時、あなたのあの毅然とした姿を見かけて…僕は勇気を(もら)ったんです」


「…そ、そうなのですか…?」

 

 まさかそんな風に思ってもらえていたなんて…何が功を奏するか分からないものね。

 

「でも…おつらかったでしょう…」


「…え…っ」


「しかも女性の場合は相手に責があっても、傷つけられた側が瑕疵(かし)扱いになってしまう。理不尽極まりないです」


「……っ」


「カルミア嬢」


 一瞬、驚いた表情をした彼はすっとハンカチを私に差し出してきた。

 その時、自分が涙している事に気が付いた。


「も、申し訳…っっ」


 私は声を震わせながら、ハンカチを受け取った。

 初めて会う方なのに、私の気持ちに寄り添う言葉をかけて下さった事に胸がいっぱいになった。


 そう…私はつらかった。

 傷ついた。

 悲しかった。


 大切な幼馴染に裏切られ、信じていた友人に裏切られ…

 私が好きになる人は、なぜ私を裏切るのか理解できなかった。

 私に問題があるのではないか…と悩んだ時もある。


 そんな現実を受け止める事しかできないことが苦しかった。


 彼もきっと婚約者に裏切られて同じ思いをしたのだろう。

 だからこそかけて下さった言葉なのかもしれない。


「…大変失礼いたしました。私の気持ちを汲み取って頂けたことに気持ちが緩んでしまったもので…」


「……正直に言えば……この婚姻は政略です」


「はい」


 もとよりそのつもりです。


「そこに純粋な愛情は、今はありません」


「はい」


 当然です。

 理解しております。


「ですが…僕も裏切られた側の者です。心無い人間のせいで傷ついたあなたの心情は、他の人よりも理解できるつもりです。だからお約束します。僕は決してあなたを裏切りません」


「………ありがとうございます。私もお約束いたします。あなたを裏切る事はいたしません」


 二度も婚約者に裏切られれば、もう相手に愛情を持つ事を諦める。

 三度目では何があろうと、割り切ろうと決意していた。


 しかし彼は思いもよらない言葉をかけて下さった。


 “決してあなたを裏切りません”


 その言葉は…口先だけの愛を語るより、幸せを約束されるより、ずっと信頼できた。


 

 そして、もう一度だけ人を信じてみよう。

 そんな気持ちにさせてくれた。



 ◇


 

 その後、私達は婚約を交わし、親交を深めて行った。

 時には街へ出掛け、時には互いにの屋敷を訪ねることもあった。


 そして今日は、私がラシオン様のお屋敷に招かれた日だった。


「これが僕の昔の写真だよ」


「覚えてて下さったんですねっ ありがとうございます」


 前にお会いした時、ラシオン様の子供の頃の写真が見たい事を口にしていた。


 ラシオン様は覚えて下さっていて、アルバムを用意してくれていたのだ。



 お母様に抱かれている写真から始まってた。

 どんどん成長していく彼の写真を見ながら、私も思い出を共有している気持ちになっていた。


「…これは…」


 次のページには無造作に挟まれた写真が数枚あった。

 今より少し幼い顔のラシオン様と並んで立っている可愛らしい女性。


「…! す、すまないっ 適当に入れてて…」


 ラシオン様があわてて写真を手にした。


「前の…婚約者の方ですか?」


「…申し訳ない、不快な思いをさせてしまって…」


「えっ? いいえ! 不快だなんて、そんな事ありませんっ」


「え…」


「…裏切られたとしても、大切にしてきた想い出まですぐに捨てられないのは…わかる気がします…。だから、謝ることはありませんわ」


「カルミア…」


 写真に目を落とすラシオン様。


「彼女と婚約したのは…13歳の時だった。もともと同じ中等学院で同級生だった。だからどちらかというと…友達同士の延長的な感覚だったんだ。だからこそ、将来うまくやっていけると思っていたよ。けど…別々の高等学院に行くようになってから…彼女が変わってしまって…」


「変わった?」


「ああ、周りにも婚約している友人が増えていくと…互いの婚約者の爵位自慢っていうか…それをひけらかすようになって…それから見栄の張り合いがエスカレートして高価なドレスや宝飾を次々に購入し、その支払いを…いつの間に持ち出したのか、うちの小切手を勝手に使って…」


「…なんて事を…!」


「そして、他の男と…もう、めちゃくちゃだった…」


「ラシオン様…」


「愛情というにはまだ時間が必要だったけど…大切に思っていた…なのに、どうして彼女はあんな事をしたのか…もしかして、僕が悪かったのだろうか…と、今でも振り返る事があるんだ…」


 私は隣に座っていらっしゃる彼の手に、そっと触れた。


「カルミア…」


「前にも少しお話いたしましたが、私の二度の婚約破棄は相手の不貞によるものでした。一度目の婚約は9年の付き合いがあった幼馴染みでした。二度目は友人でした。二人に裏切られた時、悩みました。私が悪かったのかと私に非があったのかと…」


「そ…っ! 君に非があるはずはないっ 悪いのは君を裏切り、傷つけた側の人間だ」


「そうです。悪いのは人を傷つけた人間で、私ではありません。それはあなたも同じです、ラシオン様。ですから、ご自身を責める事はもうなさらないで下さい」


「……ああ…そうだね。そう…君の言う通りだ…」


 ラシオン様はやわらかく微笑むと、重ねていた私の手を優しく握り返した。

 そして彼は、元婚約者の写真を処分された。

 私は止めたのだが、彼がこう言ってくれた。


 「これからは君との写真を増やしていきたいんだ」


 私もこの日、屋敷に戻ると過去の写真を処分した。

 そして私自身、区切りを付けられた気がした。


 そう思っていたのだけど―――――…



 数日後、一通の封書が私の元へ届いた。

 その内容は…


『君を愛している。誰よりも愛している。だから、迎えに行くよ』


 差出人名はなかった。


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