イースティアの力とカオスちゃん
死者を蘇らせる事のできる、花びらを手にいれた俺たちは、早速イースティアの両親の墓前に来ていた。
「お父さん、お母さん……。これで……」
花をお墓にお供えした瞬間、辺りが光に包まれた。
淡い紫色の光の向こうから、2人の男女が歩いて来る。
「お母さん! お父さん!!」
イースティアは涙を浮かべて走り寄るが、その姿を掴むことはできない。
「なんでや? 生き返ってはずやろ!?」
『イースティア。私たちのためにえらい苦労かけたなぁ』
『でもなぁ、あの花は死者と会うことは出来ても、生き返らせることはでけへんのや』
衝撃の事実。
なら、なんであのジジイは嘘をついていたんだ?
『その代わり、私らの力をお前に授ける。本来は成人したら、親の力を子に受け渡すことになっとるやが、今回は事情ぎちゃう』
そう言って2人は優しくイースティアを抱きしめる。
瞬間。
2人は粒子となって、イースティアに吸い込まれて行った。
「すごい力や。ウチにまだこんな力が有ったなんてな」
イースティアに悲しんでいる暇はない。
なぜなら、彼女は現実世界に戻り、聖竜としての役割を果たさなければならないし、戦争となれば一線で戦うことになるからだ。
「これで、もっと沢山の人に、強い試練を与えられるで!」
その笑顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
イースティアの心中は俺にはわからない。分からないが、彼女は笑顔を選んだ。
それが答えなんだろう。
「はよ、戻るか」
「そうじゃの。長居いする場所でもない。ほれ、儂につかまれ」
俺たち3人はアレグリアに捕まると、イースティアの夢から出て行った。
「ビシビシいくでぇ!」
「姉さん、勘弁してくださいよ!」
「ハード過ぎますって!」
「男がこれくらい耐えられんでどないすんねん!」
いつものイースティアだ。
いや、それ以上にパワーアップしてるかも知れない。
イースティアが笑ってくれている。
それだけで場が和んでいるのは明白だ。
良い旅になったなだろう。
さて、俺も書類とばかりにらめっこしてる訳にはいかないからな。
たまには修練場で、身体を慣らさないと。
「お兄ちゃん……」
カオスちゃんが近づいてくる。
「ん? どうした?」
「僕と本気で戦ってくれないかな?」
!?
「本気で言ってるのか!?」
確かにこの修練場は、ヴァルスが施した結界のおかげで外に衝撃が漏れない設計になっている。
「本気だよ、お兄ちゃん」
「わかった……」
カオスちゃんの覚悟は本物だ。なら、手加減などあり得ない。
俺たちは修練場で、円を描くように距離を保ちつつ、相手の様子を伺う。
隙が全く無い。ここで俺が突っ込んだら、確実にカウンターの餌食になる。
「やっ!!」
烈帛の気合いと共に、カオスちゃんの身体消える。実際に消えているわけではないが、近間で対峙するとそう見えるくらい素早いのだ。
遠間で見ていた観衆たちも息を呑む。
本気を出したカオスちゃんを見たことがないのだろう。
そしてカオスちゃんは自分がマギロス王の王子だとは皆に打ち明けていない。
「あいつ、あんなに強かったのかよ……」
「こんな遠くで見てるのに、見失いそうになる」
実際俺にも見えていない。
感や運で防いでるのが精一杯だ。
だが、カオスちゃんには致命的な欠点が一つある。
パターンが読みやすいのだ。
今までの敵なら、2撃、3撃で倒せていただろう。
しかし俺くらいまで粘られると攻撃が単調になるのだ。
「やっぱり、お兄ちゃんは強いなぁ。僕の連撃、ここまで防がれたのは初めてだよ」
その声には苛立ちがあった。
いつもはにこやかに立ち合ってくれているのに、今日は本当に俺に勝ちたいようだ。
感と運。
それだけで俺はカオスちゃんの連撃を受け止め、流し、カオスちゃんの一番嫌なタイミングで反撃をする。
「お兄ちゃん、本気出してよ!」
「ほ、本気だよ」
「嘘! 精霊の力も魔石の力も使ってないじゃない!」
その目には怒りがあった。
なるほど。確かに本気じゃなかった。
「ごめん。でもここからは本気だ!」
カオスちゃんは真面目に向き合ってくれている。
それなのに、俺がキチンと返事をしなくてどうする!
風の精霊の力をその身に宿し、疾風のような素早さで攻撃を繰り出す。
しかし流石はカオスちゃん。それにもきっちりと対応してくる。
さらに火の精霊の力を借りて、攻撃力を最大限まで引き出す。
カオスちゃんの拳は多大な火傷を負っているだろう。
しかし魔法ですぐさま治している。
カオスちゃんは本来万能型だ。
身体強化も、回復も、攻撃魔法も、全て自分や味方にかけることができる。
普段はそれを自身の身体強化のみに魔力を全集中している。
「っ!」
俺の剣が、少しずつカオスちゃんの防御力を上回っていく。
「ドレイブスロク!!」
カオスちゃん渾身の攻撃を、土の精霊の防御力で受け止める。
俺は本当に運がいい。
精霊は使えないと言われたが、こうして素直に言うことを聞いて力を貸してくれる。
そのおかげで、魔王レベルのカオスちゃんと互角以上に戦えている。
俺の剣が、カオスちゃん首元に吸い込まれる。
「……。ダメだった……」
カオスちゃんは肩を落とす。
この場にいた大半の者は何が起きているかすら分かってなかっただろう。
「お兄ちゃん。僕決めた。一度この国を出るよ」
「か、カオスちゃん!?」
それは予想外の言葉だった。
「僕、魔界に修行に行ってくる」
その目は真剣そのものだ。
「カオス!」
駆け寄ってきたのは、カオスちゃんの姉のヴァルスだった。
「魔界へ修行に行くのは成人してからよ? 子供のアナタじゃ絶対無理」
「でも、そうでもしないと、僕はお兄ちゃんの足手まといになる。そんなの嫌だ!」
絶対に引かない、断固たる決意。
「はぁ。じゃあ、私がついて行ってあげるわ。私は一度魔界で修行してるからね」
「お姉ちゃん!」
「それが条件」
「わかった」
話は二人の間でトントン拍子に進んで行った。
「もう行くのか?」
「うん。早く強くなりたいからね」
カオスちゃんは簡単に荷物を纏めると、ヴァルスと共に魔界に旅立って行った。




