登山
「ここが麓や」
聖竜界でも一際高い山。俺たちはそこを踏破しようとしている。
「確かにすごい風だな。こりゃ飛ぶのは無理だ」
普通に歩くのも辛いのに、空とんで頂上なんて無理にも程がある。
「しかも、空を飛ばない種族のドラゴンがぎょうさんおんねん。なかなか気を抜けへんで」
まぁ、大概のドラゴンなら俺たちでなんとかなるだろう。
「儂は戦闘はからきしじゃからな。戦力に入れないでほしいのぉ」
はいはい、わかってますよ。
登山グッズをかき集め、早速登頂をはじめる。
「こんだけ着込んでも寒いのか……」
「ウチが炎で風よけしてるさかい、マジな方やで」
これでマシなのか……。恐ろしい山だ。
時間はかかるが、垂直に登るより遠回りしたほうが楽だ。
ジグザグと山を登っていく。
「この山の頂上まで行けた奴はいるのか?」
「何人かの古老が登った言うてたで。ちゃんと花もあって、死者を蘇らせることもできたらしいで」
「信憑性のある話でよかったよ」
「儂の占いでもちゃんとあると出ておる。安心せい」
アレグリアのお墨付きなら心強い。
「早速お出ましや」
巨大なドラゴン……。というよりワームだな、これは。
俺とイースティアが揃って切り込む。
2人の連撃で深手を負ったワームは、所狭しと暴れ回る。
「面倒だな」
「生命力だけは、大したもんや」
次の連携で終わらせる。
「爆熱!」
「唸れ、魔爪!」
2人の攻撃を受けたワームは、反撃もできずにその場にひれ伏した。
「数だけは多いらしいからな。気ぃ引き締めていくで」
まだ登山は始まったばかりだ。
とにかく風が強い。
普通に歩くよりも3倍以上は疲れる。
「もう少しで休憩小屋が見えてくるから、そこまでの辛抱や」
「それはありがたいのぉ」
アレグリアはなんてことない表情で歩みを進めていく。
俺でも辛いのに平気なのか、コイツは。
その間にもチマチマと獣やワームが出てきてうざったいことこの上なかった。
「あれが小屋や」
砂嵐でよく見えないが、なにかがあるのがわかった。
やっとたどり着くと、そこには老人が一人いた。
「おや、こんな所に来る人がいるとは」
「なんやおっちゃん、こないな所に住んどんのかい」
「そうだ。なかなかいい家だろ?」
かかっと笑うと蓄えたヒゲを撫でつけた。
「しかもこの世の者では無いものまで連れておるな」
! この世界では、俺たちの言は知覚できないはずだが。
「見えとんのんかい」
「ここは半分、あの世みたいなものだからな」
ジジイは楽しげに話す。
「お主も知っとるよ。『夢見の魔女』よ」
「なんじゃ、儂の事まで知っておるのか。つまらんのぉ」
しかし話が早くて助かる。
「じゃぁ、俺たちが何のためにここに来てるかもしってるな?」
「もちろんだ。そこの娘っ子の試練の一つだろう?」
「せや。ウチが強くなるための試練や」
「この山の頂上の花を手に入れる。生半なことではないぞ」
「それくらいわかっとるわ。この山に住む化けもんのことやろ?」
「そうだ。見えず触れず、最強の名をほしいままにする竜だ」
「そんな奴がいるのか」
それは厄介そうだな。
「でも、ウチはやらなアカンねん。今よりももっと強くなるために」
「ならばこれを持て。風除けの守りだ。この山の風くらいなら屁でもなくなる。ただし、人の大きさほどの者しか守れんから、竜にはなるなよ」
「ありがたいな。ついでに今日はここで泊まらせてもらおう」
「図々しいな。まぁよい」
ということで、山小屋でジジイの手料理を食べ、その日はゆっくりと休むことにした。
「確かにコレは快適だ」
ジジイにもらった風除けの守りの効果は抜群で、風の影響をまったく受けない。
昨日苦労したのが嘘のようだ。
「これならサクサク行けるの」
アレグリアもご機嫌だ。
しかし、遠回りするのにも限界があり、登攀を余儀なくされることとなった。
「登山道具一式持ってきておいてよかったよ」
そう言いながら、ハーケンを打ち付け、命綱を張り、少しずつ登っていく。
ちなみに鎧は脱いで、無限袋の中に入れておいた。
「今までにも登った奴はおるんや。どこかしらに休む場所があるはずや」
そういえばアレグリアも息も切らさず付いてくるな。なんだかんだ言って戦えたりするんじゃないか?
「って、こんな所に敵も出るのかよ!」
デカいムカデが壁面を、ずるずると這い回る。
こちらに近づいて来ると、大きな顎を開けて襲いかかって来た。
「喰らえや!」
イースティアが炎を吐く。
ムカデの丸焼きの完成だ。
と思ったら、風が強すぎてさっさと消えてしまった。
「俺たち以外は風の影響モロに受けてるのか」
俺は二束三文の安い剣を抜くと、ターザンよろしくぶら下がりながら勢いをつけて斬りかかる。
くそ、かすっただけか。
ここに暮らしてるだけあって、素早い。避けられた俺は、振り子のごとく揺られて戻ってくる時に、ムカデはイースティアに狙いを定めていた。
「今だ!」
俺はどっか行ったものだと思い込んだムカデは戻ってくるとは思わなかったのだろう。
完全に隙ができたムカデの背中に剣を突き立てる。
「gyaaaaaaa!!」
そのまま切り裂き、ムカデを叩き落とした。
「まさかこんな場所で戦闘になるなんて思っても見なかったよ」
「空は飛べんから、必然的に壁を這い回るような敵になるみたいじゃのう」
アレグリアは涼しい顔をしている。
それからさらに登ると、途中に洞窟のような穴を発見した。
「昔登った人らが作ってくれたんやろうな」
人力で作られたと思しき洞窟は、俺たち3人が入っても余裕なくらい広かった。
「ここで一晩明かせそうやな」
重力に逆らって登っていくのがこんなに大変だとは……。
その夜は、誰ともなく早めに寝ることになった。
──頂上。
まるで別世界の様に草が生い茂り、森が広がっている。
「こんな所からどうやってその花を特定するんだ?」
「この森の中で一番デカいのがそうや。すぐ分かる」
「しかし、問題は怪物の方じゃ。見えず触れ得ず、倒す術などないと言われているがな」
「怪物を倒すのが目的じゃない。花さえ見つければ、逃げたっていいんだ」
俺たちは森に分け入り、花を探す。
その瞬間!
「危ない!」
俺はイースティアを突き飛ばした。
「な、なんや!?」
今までイースティアがいた地面が抉れている。
「これが怪物か!」
なんとか気配でわかったからいいようなものの、そう何度も避けられるものでもない。
「イースティア、俺の能力なら、コイツと善戦できる。その間にお前は花を探すんだ!」
「せやかて、くど……。ヨーイチ!」
「いいから、早く!」
イースティアとアレグリアは足早にその場を後にして、花を探しに行った。
俺は目を閉じて、感に従い身体を動かす。
微かな空気の揺れや吐息でなんとなく奴のいる場所や大きさがわかる。
奴は花を見つけに行ったイースティアたちを追おうとしたが、俺がそれを許さない。
しばしの間、俺に付き合ってもらおうか!
「これや! 有ったで!」
淡く光るように咲く花の一枚を優しく摘む。
「あとはどうやって逃げるか、じゃのう」
「ウチにいい案があんねん」
2人は足早にヨーイチの元に戻る。
「ぎゃあああっ!!」
2人が辿り着くと、ヨーイチの剣が相手の腕を斬り落としたところだった。
「流石やな。触れられへん奴の腕を切り飛ばすなんて、できることやないで」
「感心してないで! 花は手に入ったのか!?」
「バッチシや!」
「でも、どうやって逃げる!?」
「ウチが竜になる! ウチに飛び乗れ」
「でもそれだと吹き飛ばされるだろ!」
「ウチに案があんねん! はよせい!」
竜になったイースティアに俺とアレグリアは飛び乗った。
「ヨーイチ! 爆熱の魔法を後にぶっ放すんや! その爆風を推進力に、暴風域を突破するで!」
なるほど、そういうことか。
俺はイースティアに言われた通り、爆熱の魔石を最大火力で放つ。
ついでにその魔石の攻撃は奴にも当たったみたいだ。
こうして俺たち無事に花を手に入れ、イースティアの家まで戻ったのだった。




