夢の世界へ
「というわけで、ソネット。君の能力のレベルアップが必要なんだ」
「わたしの『嘘を本当にする力』ですか?」
「あぁ。その効力刃2時間が限度。その時間をソネット自身で自在に変えられたら、とんでもない能力になる」
ソネットが心の底から思った嘘が本当の事になるという、なかなか使いづらい能力だが、例えば、敵があまりにも強すぎる、とソネットが思った場合、敵は弱体化する。
また、味方の戦力では相手に勝てない、と思った場合も、勝つことができる。
戦争を左右する、かなり強力な能力だ。
「その能力を鍛える事に専念してほしいんだ」
「わかりました。わたしができることなら、どんな試練も耐えて見せます」
俺はとソネット。そして占い師のアレグリアでウェスティアさんの元へ向かう。
「わかりました。方法はアレグリアがご存知なのでしょう? アナタに委ねて、私は試練を与えましょう」
「そうじゃな。ウェスティアを枕に儂を含め、3人で寝転がるかの」
「そんなんで能力開花するのか?」
「いわゆる潜在意識への介入じゃな」
「そんなことまで可能なのですね」
俺たちはアレグリアの指示に従い、ウェスティアさんのお腹を枕にして横になる。
「さぁ、良いか? 儂たちは今から夢の世界に入る。ソネットの夢じゃ。目を閉じて力を抜き、なにも考えず流れに身をまかせよ」
言われた通りにすると、ゆっくりと眠気が襲ってくる。
「そのまま意識を手放すのじゃ。あとは儂が誘導しよう」
意識を手放す。
底から先は夢の世界だった。
「ここは……」
「ヨーイチさん、わたしたちは?」
「無事に夢の世界に入れたようじゃの」
ソネットとアレグリア。
なんとも言えない浮遊感が俺を包みこんでいる。
「なんだか不思議な感覚ですね。自分の肉体なのに、そうでないような」
「ここはソネットとの深層心理の世界じゃ。肉ではのうて、魂が儂等の身体を突き動かしておる」
「それで、俺たちはどこに行けばいいんだ?」
「それを決めるのはソネットじゃ」
「わたし、ですか?」
「お主の行く場所に能力開花の道が開かれよう。ただし、これは試練。ウェスティアの与える試練が待ち受けているじゃろう」
「それを突破しながら、ソネットの能力を強化していく訳か」
「そういう事になるの」
「では、早速参りましょう」
ソネットはなんの迷いもなく歩き出す。まるでゴールが分かっているように。
目の前に広がるのは広大な草原。その中に合って歪なのが、家畜と読んでも差し支えない生き物。
「あれは……」
ソネットには心当たりがあるようだ。
「わたしが幼い頃、とても疑問に思っていたことの一つです」
「疑問?」
「わたしたちは木ノ実や薬草、動物から貰える乳などで暮らしてきました。家畜は持ちません。完全な菜食主義です」
エルフは動物の肉を食べないのか。
「そのため、他の種族が、動物を家畜とし、育て、食べることに非常に違和感を感じていました」
「なるほど。でも、それとはこの動物たちとはどういった関係が?」
「わたしの価値観が変わったのだと思います。ある意味差別的であった動物を食べる、という行為を、そういう文化を持つ種族なのだと認められるようになったのだとおもいます」
「じゃあ、この動物たちは、子供の頃のソネットとの偏見だと?」
「そうなりますね」
ソネットが優しく動物を撫でると、その動物は消え去った。
「なるほどの」
アレグリアが口を挟む。
「ソネット。お主の偏見やトラウマ、そう言ったものがこの夢の世界の主題じゃ」
「わたしのトラウマ?」
「幼い頃から、今までの人生で起こってきた疑問や偏見、差別やトラウマ。そう言ったものが敵となるはずじゃ」
それはなんともやりづらそうな相手だ。
ただ倒すだけなら簡単なことだろう。
しかし、自分の価値観を根底から否定しなければならない。乗り越えなければならない。
それはとても根気のと生命力を使う作業だろう。
「今はまだ生易しいが、これから先、どんどん辛いものとなるぞ」
進むに連れ、トラウマの数は増えていく。
簡単なものは嫌いな食べ物だったり、幼い頃の宿題だったり、ほんの些細なものだった。
「わたしの子供の頃を追体験してるみたいです」
ソネットの言う通り、子供の頃の嫌なことから、育っていく過程の様に見えた。
「コレは……」
ソネットの街に入り込んだ害獣。
そこで2人の犠牲者が出た。
「今のわたしが戦闘に加われたなら、犠牲も出さずに住んだかも知れないのに……!」
その瞬間、幼い頃のソネットと今のソネットが重なる。
「この力は?」
幼い頃のソネットの身体を、今のソネットが操るように動かし、害獣を殲滅させる。
過去に死んだ同胞は、少なくともこの夢の世界では死なずに済んだのだ。
「……。当時のわたしに戦う力がありませんでした。今のわたしにはそれがあります。そのことで、わたしの過去の悔いは、確かに洗い流されました」
夢は夢。そうと分かっていても、過去の自分と仲間を救うことができた。
それだけでソネットの心は救われたようだ。
「次へ行きましょう」
「まだまだ、エルフの長い人生において、課題はあるはずじゃ。ゆっくり解いていこうぞ」
おれたはさらに歩みを進める。
エルフの里に、一匹の精霊が逃げ延びてきた。
珍しい精霊がゆえに、人間や魔族に襲われて、ソネットのいるエルフの里に逃れてきたのだ。
それを追ってきた人間との戦闘が始まる。
人間対エルフ。戦争慣れしている人間に有利ではあったが、地の利を活かした戦いでエルフたちも食い下がる。
「私たちの故郷が壊滅するなんて……」
それは過去世で実際に起こった事実。
しかし、今のソネットは違う。
壊滅してしてしまった、という現実を『嘘』に変える力をもっている。
そこからの逆転はすごかった。
的確な連携に、遠間、近間からの攻撃に、虚を付く奇襲。
森の力と犠牲者だった精霊の力も借り、ほぼ無傷で人間の部隊を退けて見せた。
「これはわたしの過去ではなかったことです。実際はこの戦闘で多くの同胞が死に、わたしたちの里は壊滅しました」
そのトラウマを、ソネットは克服したのだ。
「……。俺は平和な世界で暮らしてきた。正直、ソネットがどれほど辛かったなんて、分からない」
「ヨーイチさん」
「でも、夢の中とは言え君の記憶が改ざんされて、君の心の傷が癒えるなら俺はそれでいいと思ってる」
「そう。ですね。わたしは既にあの世界のエルフではありません。死んで、この世界に転生しました。その力を使って過去を救えたなら、それはわたしにとってもとても嬉しいことです……。心のそこから……」
確かにこの夢はソネットの心を抉る映像だろう。それと同時にソネットの心を癒す旅でもあるのだ。
もし、あの時こうしていれば。もしあの時もっとソネットが強ければ。もし、あの時ソネットが今の能力を獲得できていれば。
全てIFの話だ。
それでもソネットは確かに救われた。
「ありがとう、ございます……」
泣きじゃくるソネットの肩を優しく抱きしめる。
「まだ、あるじゃろ。この先が」
アレグリアは最悪な宣告をする。
これ以上の不幸なんて!
「そうです。まだ終わりではありません。この後、わたしは……」
言いづらそうにソネットが口を開く。
これ以上の地獄が、ソネットの身に起こったというのか。
俺たちはさらに歩みを進めた。




