三つ巴
俺、テセウス、ヘルメスが木剣を手に取る。
少し間を置いて、2人が一斉に俺に襲いかかってきた。
まだ本気ではない2人の攻撃を軽くいなす。
「腕を上げましたな、ヨーイチ殿」
「さすが、クーデターを成功に導いたことはありますね」
「そりゃどうも」
2人の剣戟は止まらない。
それほど俺を敵視してるのか、一番弱いと判断しているのか。
「水蒸気!」
俺は水の精霊の力を借りて、辺りを霧に包ませる。
テセウスの攻撃はやまない。
気配だけで俺のことを掴んでる証拠だ。
しかしヘルメスは完全に俺を見失っている。
そこまで戦闘になれていないのだろう。指揮することが多く、本人が戦場に立つことが少ないからだろう。
テセウスもその隙をを見逃すはずがなく、標的をヘルメスに絞る。
「解除」
俺が言うと、霧はいきなり晴れた。
ヘルメスとしたら意外だっただろう。
今まで協力して俺を倒そうとしてきたのだから。
それが寝返る形で自分に攻撃を仕掛けて来たのだ。
しかし、俺はヘルメスへの攻撃に加担せず、戦況を見守った。
2人の戦闘力がどれほどのものなのか見極めたかったからだ。
テセウスは流石。実戦で鍛え上げられた凄みのある剣を向ける。
対してヘルメスは流麗ながらも、どこか儀式めいてるというか、道場剣法を抜け出せていない。
それを見て俺はヘルメスへ加担し、共にテセウスを標的にした。
「くっ!」
テセウスの顔に焦りがみえる。
ヘルメスの剣技は確かに道場剣法を抜け出せていないが、命のやり取りをしないこの場に置いては十分有用だ。
「魔法剣!アイァフ!」
剣に炎をまとわせ攻撃力を増幅する。
だが、その攻撃力の上昇幅が尋常では無かった。
繰り出した剣撃は、大地を割り、湖の一部すら切り裂いて蒸発してみせた。
これが隊長の実力か!
ヘルメスは今の一撃を見て腰が引けている。
だが俺は、お構いなしに攻撃をくりだす。
確かにテセウスの魔法剣は脅威だが、こちらにも対抗策はある。
「火の精霊よ!」
俺も木剣に炎を纏わせる。
個人の魔力と、この世界の事象を司る精霊の力。
どちらが上か、明白だった。
「ここまで強くなっているとは、流石ですね」
「俺もテセウスがここまで強いなんておもわなかったよ」
俺は聖竜の試練を何度も受け、人間の限界を超えた力を手にしている。
それに比べて、テセウスは個人の力でここまで強くなったのだ。
それは驚嘆すべきものだった。
体勢を立て直したヘルメスと共に連携攻撃を仕掛けるが、綺麗に受け流され、かわされる。
ここまでやり難い相手はなかなかいない。
このままでは勝てない。
そう思った俺は目を閉じる。
すると、テセウスの防御の薄い所が見えてくる。
これが俺の力。
運で全てを切り開く!
「なんと!!」
テセウスは嬉しげな表情を浮かべる。
未だかつてここまで自分に食い下がる相手に出会ったことがないのだろう。
俺とテセウスの間に攻撃を挟む余地のないヘルメスは完全に置いてけぼりだった。
一秒間に数千発。
地形を変える程の攻撃が交わされるが、致命傷には至らない。
しかし、実力差は確実に出ていた。
俺のラッキーヒットが少しずつテセウスを捉え始めていた。
そして最も違いが出たのが出にした木剣だった。
その強度が、俺とテセウスのそれと、まったく違ったのだ。
俺は感でこの剣のを選んだ。
テセウスもヘルメスも、剣を吟味し、今の木剣を選んだ。
だが、俺が選んだ剣は2人の剣を遥かに凌駕する硬度と靭やかさを備えていたのだ。
俺の猛攻に耐えきれなかったテセウスの武器が耐えきれずに折れる。
「し、勝負有り、ですね」
剣が折れた時点でテセウスは負けを認めた。
そして、俺に敵わないと踏んだヘルメスも負けを認めた。
たまたま選んだこの剣の強度が俺を救ったのだ。
「これでわたしが使えるべき場所が決まりましたね」
テセウスもヘルメスも大人しく引いてくれ、俺はソネットとゆっくりと話すことができた。
「実は俺も異世界人なんだ」
「え? で、でも、異世界人は一つの時代に一人しか現れないはずでは……!?」
俺は俺の境遇を伝える。
「そうなんですね」
ソネットは得心いったように頷いた。
「君の能力を聞いても?」
「はい。わたしの能力を、ヨーイチさんにだけはお話しします」
一体どんな能力なのだろうか?
「わたしの能力は、心から思ったことが、『嘘』になる能力です」
「? どういうことだ?」
「例えばヨーイチさんが戦死したとして、わたしが本心から、ヨーイチさんが死んだなんて嘘だ! と思ったとき、その嘘は本当になり、ヨーイチさんは死ななくて済むのです」
それはなんというか、チート過ぎないか?
仲良くなれば仲良くなるほど、死んだのが信じられない、嘘だ! という思いが本当のことになり、生き延びることができる。
そういう能力だ。
「まさに異次元の能力だな」
「欠点は、心のそこからそう思わないといけない、というところですね」
「でも、自分が最弱だと思えれば、最強になれるってことだろう?」
「そう……ですね」
まぁ、そんなネガティブな発想なんてしたくないだろうが。
「勝利の女神様にも振られてしまったみたいですし、我々は引き上げます。ヨーイチさんはマギロスにお越しになられますか?」
「いや、このまま帰るよ」
そう言って俺は笛を取り出す。
甲高く鳴った笛の音色を聞いたドラゴンが飛んできた。
上空で待機してもらっていたのだ。
「なんと、ドラゴンまで飼いならしていらっしゃるとは。とことん規格外ですね」
「まぁ、色々あってね」
「次会った時は負けませんからね」
「私の本領は指揮に回った時です。単体の力で負けていても、総力戦なら負けませんよ」
テセウスとヘルメスに別れをつげ、俺とソネットは、ドラゴンに乗り込むと、竜魔人連合国に帰ることになった。




