御柱様
「大人しくしろ!」
「めっちゃおとなしいだろ!」
縄で縛られた俺たちは、森の奥深くまで連れてこられた。
その奥には、禍々しいオーラを放つ社がそびえ立っていた。
「ここで大人しくしてるんだな。時期にあのバケモンの餌食だ」
そう言い捨てると、男たちは去って行った。
「まったく。ちゃんと荷物検査とかしないからこういう事になるんだよ」
俺は火の精霊に頼んで、縄を焼き切ってもらう。
「魔法使い相手に猿轡も噛まさないなんて、馬鹿げてるわね」
ヴァルスも魔法で縄から脱出したようだ。
「とは言え、俺たちは御柱様とやらを倒しに来たんだ。ちょうどいいと思おう」
荷物検査を怠った結果、俺たちはいつも戦闘中に装備してる武具を装着していく。
それから数十分は経ったか。
ズルリ、と奥から出てきたのは巨大な蛇だった。
「頭が七つもあるわね。気持ち悪い」
『汝らが贄か』
「大人しく贄になるつもりはないけどな」
俺はまだしも、ヴァルスに至っては魔王の娘だ。その戦闘力も半端ない。
万に一つも御柱とやらが勝つ見込はない。
『抵抗するか……。なれば、楽しませてくれるのだな?』
「楽しむどころか、苦しむかもよ?」
『人間風情が。返り討ちにしてくれるわ!!』
七つの頭から咆哮が迸る。
普通の人間や魔族なら、恐慌状態に陥ってもおかしくないほどの雄叫びだ。
しかしこちとら、普通の人間でも魔族でもない。
頭のひとつが毒液を吐き出すが、ヴァルスの絶対防御の前には何の効き目もない。
『ぬ……』
他にも炎を吐いてみたり、岩を投げつけて来たりと様々な事を試しているが、俺たちには毛ほどの傷も付けられない。
『き、貴様らは何なのだ!?』
焦りを隠せない御柱。
「なんだ、攻撃はもう終わりか? ならこちらから行かせてもらうぞ!」
俺は飛び出すと、口の中に刃を突き立てる。
「爆熱、灼熱!!」
爆熱の魔石と、火の精霊の地獄の業火に焼かれて、頭のひとつが爛れて焼け落ちる。
「ュシッラスドンイウ!!」
ヴァルスが放った風の刃は、頭を2つ、綺麗に切り裂いていた。
おそらくオリハルコンも斬れるレベルの魔法だろう。
『ば、馬鹿な!』
「大人しくするなら俺達の街に連れて行って治療してやる。もしこのまま悪虐非道を貫くなら、今ここで滅ぼしてやる。さぁ、どちらがいい?」
『ぐ……、ぬ……』
御柱の動きが止まる。
助かりたい気持ちとプライドがせめぎあっているのだろう。
「ちなみに、俺達は聖竜様に鍛えられている。お前がこちらに付くなら、今よりもっと強くなれるし、戦場で思う存分暴れられるぞ」
「えぇ〜? こんな奴もスカウトするのぉ?」
ヴァルスは不服そうだが、一兵卒程度じゃ刃が立たないくらいの強さはある。
『その話し、本当なのだろうな?』
「こんな嘘ついてどうする? ここでお前を殺すなんて簡単なことなんだぜ?」
圧倒的な戦力差は、御柱自身が感じていることだろう。
『わ、分かった。お主たちの言う通りにしよう……』
「んじゃ、魔法でふん縛って竜魔人連合国に送るわね」
ワープの呪文をいとも簡単に使いこなす。
「なんでもありだな」
「魔王の娘ですから。なんちゃって」
さて、後はもう一人の悪を退治しに行くか。
「簡単な仕事でしたぜ。アイツラは今頃、御柱様の胃の中です」
「よくやってくれた。礼は弾むぞ」
「またなにかあったら呼んで下さいまし。どんな汚れもやりますよ」
「その時は頼むよ」
領主とゴロツキ共はほくそ笑む。
「誰が胃の中だって?」
「アンタ達なんて、井の中の蛙じゃない」
「お、お前らは……!!」
「み、御柱様に食われたのではなかったのか!?」
「倒したよ、あんな雑魚」
「御柱様を、たおした……?」
状況に理解が追いついてないらしい。
「お前たちは何の目的で、ここにっ!?」
言いかけたゴロツキの両足が吹き飛ぶ。
「ぎゃあああ! 俺の足が! 足がっ!!」
「ちょっ、いきなりやりすぎではないですか? ヴァルスさん?」
「こんくらいしてやらないと、分からないでしょ? コイツ等」
「で、出合え!!」
領主が叫ぶと、ゴロツキや用心棒、はたまた兵士までやってきた。
「こ、この人数相手に生きて帰れるかな?」
領主は今にも死にそうな顔をしているが、手練が揃っているようで、強気な態度に出る。
「なら名乗りましょう。我が名はヴァルス。マギロス国が魔王のデウスの愛娘」
その瞬間に、辺りの温度が下がったような威圧感が放たれる。
瞳は金色に輝き、迸る魔力を隠そうともしない。
それだけでこの場にいる全員が恐怖で動けなくなる。
怖えぇ……。味方でよかった。
俺もこんなんとよく戦ったもんだ。
「さぁ、ミンチになりたいのは誰かしら? どなたからでもかかってらして結構よ」
しかし誰も動けない。動いたら殺されると分かっているからだ。
「なら、こちらから参りますわ」
手を一振。
それだけで百人は居ただろうゴロツキや兵士たちが肉塊と化した。
「ひっ!!」
逃げようとする者にも容赦なく凶刃が振るわれた。
「わ、ワタシはだだ、この街のためを思って……!」
領主はなんとか命乞いの言葉を発したが、今までの悪行が消えるわけではない。
「お前は今まで何人の犠牲者を出してきた? 数え切れないだろ。そのことを詫びながら、地獄に行け」
そう言うと俺は少しのためらいの後、剣を振り下ろした。
「呆気なかったわね」
「普通の人間や魔族ならこんなもんだろ」
なんか俺も目の前で人が死んでいるのに、心が動かされなくなってきたな。
なんか感情が無くなっていく気がして怖くもある。
「よう。やってくれたな」
「もうお出ましか。早いな」
裏ギルドの長が既に到着していた。
「俺はお前を信用しよう。だから、裏ギルドの人間、魔族は好きなだけ連れて行くといい。あと、コイツの後釜には最高の領主を付けてやる。約束だからな」
「あんたが約束を守ってくれてよかったよ。これからもよろしくな」
そう言って俺たちは握手を交わした。
裏ギルドの凄腕の殺し屋たち約二万人。
裏ギルドが崩壊しないギリギリの人数を引き連れて竜魔人連合国に帰ることにした。




