大木の錬金術師
遠くからでもわかるほどデカい木。
テーブルマウンテンの頂上に立っている。
「凄いなぁ」
思わず感嘆の声をあげてしまう。
「パワードアーマーに捕まって下さい。簡単に登れますから」
俺がしがみついても、スイスイと登って行く。凄いパワーだ。
あっと言う間に頂上についてしまった。
「ここに凄い薬草があるんだよな?」
「シェルティさんはそう言ってましたが……」
取り敢えず大木を目指して歩くことにした。
「はぁ、間近で見るともっと凄い」
完全に語彙力が死んでる。
「なにか用かね?」
白髪の壮年が訊ねてきた。
「もしかして、貴方が高名な錬金術師ですか?」
「高名かは知らんが、ここに住んでる錬金術師は私だけだねぇ」
「実は、ここに薬効の高い薬草と、凄腕の錬金術師がいると聞いて来たんだ」
「なるほど。よくこの場所がわかったものだ」
「色々伝手があってね」
「君たちはなぜ薬草を求めているのかな?」
「魔族と人間の戦争を終わらせるために」
壮年は目を見開くと、笑い始めた。
「わっははははは! 失礼。そんな事を本気で口に出す者がいるのかと思ってねぇ」
「俺は本気さ」
別に笑われたからと言って、気にすることはない。
俺がこれからすることは、それくらい荒唐無稽なことなのだ。
「そのために薬草が必要と言うことは、戦争でもするのかね?」
「はい、その通りです。第三勢力を立ち上げて、魔族、人間に勝ち、戦争を終わらせます」
ヒミカが力強く答える。
「なるほど。覚悟は固いようだねぇ」
「もちろんだ」
「力をかしてあげよう、と言いたい所なのだが……」
壮年は大木を見上げる。
「実は薬草というのは、この木に生えている葉、または花のことなんだ」
俺たちも釣られて上を見上げる。
そこは枯れた葉が見えていた。
「ご覧の通り、この木はもう寿命が近いんだ。なんとかしてあげたいんだけどねぇ」
壮年は悲しそうな瞳で大木を見上げる。
「なら。水の精霊、土の精霊、なんとかならないか?」
「なるよー」
「……なる」
「君は精霊と話せるのかい?」
「あぁ。2人ならこの木を組成させることができるといっている。もちろん、相応の時間が必要だけどな」
「それでも十分だ。この木が復活してくれるならねぇ」
俺は頷くと、まずは土の精霊に来てもらった。
「この大地、もう死にかけてる」
「栄養がないってことか?」
「そう」
土の精霊が大地に手をかざす。
すると、みるみるうちに赤茶けた大地が、見るからに瑞々しい土へ変わって行くのが分かった。
「これはすごい……。精霊の力は偉大だねぇ」
そして水の精霊。
この木に適した水を与えてくれた。
「これをしばらく続ければ蘇るはずだ」
「でもねぇ。今すぐ薬草が欲しいとなると、この木を登らなくちゃいけないんだよ」
確かに。この木が完全に蘇るには数年が必要だろう。
ならば、木を登りまだ青々と生い茂った葉や花を採取するしかない。
「ボクは見てのとおり貧弱で登れないから」
「なら俺達が取ってこよう」
話は早い。登れる者が取りに行く、それだけのことだ。
「ありがとう。また研究できそうだよ」
と言っても、パワードアーマーにしがみついて、ヒミカに連れてってもらうだけなのだが。
「なるべく上の方に行こう」
「はい、わかりました」
枯葉が少なくなり、段々と緑の葉が生い茂りはじめる。
ほぼ頂上に着いた所で、ヒミカが登るのを止めた。
「どうした?」
「なにか結界が張ってあって、これ以上登れなくなってます」
「どれ」
俺が登ると、スルリ、と何かを抜ける感覚があった。
「俺が入れるってことは魔力回路に関係あるのかな?」
「おそらくそうだと思います。」
「よし、少しずつ貰っていくか」
「ヨーイチさん、それはダメです。葉が欠けてますよね? それより、もっと見た目が綺麗なものを選んで下さい」
なるほど。商人でもあるヒミカは薬草の目利きも得意なようだ。
ヒミカの指示に従いながら、葉や花を採取していく。
「まさか結界を抜ける人物がいるとはな」
後から声が聞こえた。
が、誰もいない。
「私はこの木の意志だ」
「精霊みたいなものか?」
「そうとらえて貰っても構わない。お主はなぜ結界を抜けられた?」
「俺が異世界人だからだと思う」
俺はそう言いながら、頂上から落ちないように辺りを散策する。
「お主が我の葉や花を欲しているのは、ワイアルドから聞いた」
「ワイアルド?」
「我が麓にすむ錬金術師だ」
なるほど。確かに彼くらい長いことここで暮らしていれば、木の精霊とコンタクトを取ることも可能だろう。
相当大事にしてたからな。
「我を助けてくれたことには礼をいう。我の葉や花でよければ、好きなだけ持っていくがいい」
「……。痛くはないのか?」
「ははっ。面白いことをいう人間だ。我なら大丈夫だ」
そう言って精霊の気配は消えた。
頂上から少しずつ下に移動しながら、取りすぎないように注意する。
下に言った所でヒミカと合流した。
「誰かと話してましたが、どなたでした?」
「この木の精霊だって。助けた礼に、好きなだけ持ってってくれって」
「よかったですね、優しい方で」
「そうだな」
「こんなものですかね」
「確かに、結構したまで来たな」
日に当たる葉を取り、日に当たってなかった葉に光を当てる。そうする事により、未熟な葉が育つのだそうだ。
俺達は下まで降りると、オズワルドの所へ顔を出した。
「ご苦労さま。木から話しは聞いたよ。優しくしてくれたって」
「そうか? 礼なら、ヒミカに言ってくれ。彼女の言う通りに採取しただけだから」
「この木を守ろうと一人で奮闘して来たんだ。でもワタシは何もできなかった。君たちは、ワタシが何年かかってもできなかった、土と水の問題を一瞬で解決してくれた。君たちの恩に報いよう」
「じ、じゃあ、私たちと一緒に来てくれるんですか!?」
「あぁ。微力ながらね。ヒュムロス大陸にいる科学者達にも当たってみよう。かつての同僚や教え子がいるはずだ」
「それはありがたい。優秀な人材はいくらいてもいいからな!」
こうして俺たちは、オズワルドという最高の錬金術師……。科学者を連れて、町へ帰るのだった。




