未開の大地へ!
「ちょっと、お兄ちゃん! その女誰よ!」
フレイアを連れて皆のもとに戻ると、非難轟々だ。
「彼女は未開の地出身なんだ! 向かう先が同じなんだからいいだろ?」
「あははっ! 好かれてるな、ヨーイチ」
「私も手籠めにされましたし、ヨーイチさんは生来の女たらしですね」
ヒミカまで!
「でも、本名を明かしたということは、フレイアさんに異世界人だと伝えた、ということですよね? なぜですか?」
あぁ、ウェスティアさん、貴女がまともに見えます!
「実は彼女、火の精霊と契約してるんだ」
「!!」
火の精霊は気難しいことで有名らしく、今まで契約できた人はいなかったらしい。
「それで、フレイアの力を借りれたら、って思ったんだ」
「なるほどね。ヨーイチにしては考えたじゃない」
シェルティが肩パンをかましてくる。
地味に痛いからやめてほしいんだけど。
「私も長いこと旅してきたけど、他の精霊の行方がわからなくてね。契約できたらいいな、と思ってたんだ」
しかも故郷に帰る船を特別に見繕わなくても良くなった。
「よし、未開の地へ向けて出発だ!」
船での航海も、途中までは順調だった。
しかし。
「ここいらはもう人外魔境だ。普段人の行き来がないから、どんな魔物が出てくるかわかったもんじゃない」
船長が不穏なこと言う。
やめて! それはフラグっていうのよ!
そして案の定。
「船長! 眼前に巨大な影、恐らくクラーケンです!」
ほら! まぁ、フラグ立てようが立てなかろうが、出るときは出るけどさ。
「この船は一応自衛の大砲なんかはあるが、戦艦じゃねぇ。魔法が使えるなら、頼む」
やっぱりそうなるのね。
そうこう言ってる間にも、クラーケンはこちらに高速で近づいてくる。
シェルティやウェスティアさんが魔法で応戦するが、大して効いてはいないようだ。
「海の中に素早く隠れて、魔法の威力を殺してますね。意外と厄介です」
「ソレなら火の精霊もあまり役に立たないかもねぇ」
フレイアもお手上げだ。
そうだ、この前みたく雷を発生させれば。
そう思って、精霊に力を借りようとしたが、反応してくれなかった。
(メンドーい)
(疲れるから嫌だ)
という始末。
契約できないとこういうことになるのね……。
水の精霊だけは力を奪ったので、俺でも使えるが。
海の生物に水の精霊魔法は効くのか?
「まぁ、いいや! 水の精霊よ!」
クラーケンの周りの海水が淡く光る。
すると、クラーケンがいきなり苦しみだした。
「なるほど、クラーケンは海水で生きてますからね。そこに周りの水だけ淡水にされたら、生きて行けないでしょう」
ウェスティアさんが冷静に解説してくれた。
しばらくして、クラーケンは完全に息絶えた。
「ヨーイチ、すげぇな……」
フレイアもヒミカも驚いている。
いや、たまたまなんだけどね。
「そうなの! お兄ちゃんは色々機転がきくんだよ」
カオスちゃんも自慢げだし、そういうことにしておくか。
「いやぁ、まさか大砲使わずにクラーケンが倒せるとはありがたい」
船長もご満悦だ。
そうして残りの航海はつつがなく終わった。
「ここが未開の大地……」
「じゃあ、俺らはこれでお役御免だ。気をつけろよ」
船長たちはあまり長居したくない様子で、そそくさと出ていった。
「よし、じゃあ早速フレイアの故郷に行こう」
「任せて」
草原を歩く。
この未開の地では、少数部族が沢山存在していて、お互いに生活圏が被らないようにして、暮らしているらしい。
人間だけの集落。
魔物だけの集落。
人間、魔物混合の集落。
様々あるらしい。
「なかなか個性の強い奴らだよ。もしヨーイチがこの大陸で第三勢力を作りたいなら、未開の地を平定するくらいの気持ちでやらないとダメだね」
「あ、僕少しお手伝いできるよ!」
カオスちゃんに何やら妙案があるみたいだ。
「僕の私兵、100人くらい居るって言ったよね? 彼らをここに招集するよ!」
「そんなことして大丈夫なのか? いかにも反乱起こします、って言ってるようなもんだぞ?」
そりゃそうだ。
私兵を集めてすることなんか武力行使に他ならない。
「大丈夫大丈夫。父上は、お兄ちゃんの発想に感心してたよ! 正々堂々と戦おうって!」
そんなやり取りまでしてたのか……。
「俺もハヤテとかに声掛けてみようかな」
結構仲良くなれたし、かなり腕もたつ。
「まぁ、取り敢えず私の集落行こうぜ。ここから一週間歩けば着くからさ」
フレイアの言う通りだ。
仲間を呼ぶにしろ、拠点が決まらないとどうしようも無い。
「他の部族と交流は有ったりするのか?」
「年1くらいだな。お祭りやったり、獲物の交換したり、族長同士で話し合いしたりするくらいだ」
まったく交渉の余地がない、というわけでも無さそうだな。
「でも、士気の方はどうなんですか? この大陸の人たちは基本戦争とは無関係ですよね? それなのに力を貸してくれたりしますか?」
「うっ。確かに」
ヒミカにいたい所を突かれた。
それは俺も懸念していた所だ。
「また見切り発車? ほんと使えないわね……」
シェルティにため息をつかれてしまった。
「実際、ここいらの人たちの戦闘能力ってどうなんだ?」
「未開の地はかなり強力で大型の魔獣が多数棲息してる。それらを狩るくらいの能力はあるが、対人戦は得意ではないだろうな」
たまに部族交流とかで、どっちの戦士が強いか腕試しするくらいだという。
「私の能力が戻りさえすれば、人々に困難を授け、大幅にレベルアップできるのですが……」
ウェスティアさんは元々は人々に試練を与え、その者の潜在能力を引き出す事を得意としている。
しかし、俺のせいでその力を失ってしまったのだ。
「なんとかイースティアも来てくれないかな」
東のヒュムロス大陸の聖竜。
ウェスティアさんと双璧をなす強者だ。
「それができたら楽ですね」
現状と希望と現実と未来。
最善になるように手を打たねばならない。
そうこうしているうちに、夕方になっていた。
「ここいらで夜営しよう」
フレイアの一言で皆で夜営の準備に取り掛かる。
お嬢様であるヒミカだけは少しもたついて入るが、さっさとテントも建てて、火も起こして食事の準備に入る。
「そういえば、この大陸には聖竜はいないのか?」
「いませんね。元々この大陸はイレギュラーなのです」
あっさりと否定されてしまった。
「地殻変動と、水位の変化によって、後年になってできた新しい大陸です」
「好奇心旺盛なご先祖様たちが、この大陸に渡って様々な部族を作り上げたのさ」
なるほどね。
「さぁ、明日も早い。そろそろ寝るとしよう」
俺たちは早々に床に入り、明日へ備えることにした。




