異変の正体
「大丈夫かな?」
「かなり衰弱してるみたいですね。どうすれば……」
「あの泉に浸せばええねん。魔力も回復できるはずや」
俺は言われた通り、泉の中に水の精霊をいれる。
「う……」
水の精霊は軽くうめき声をあげ、目を覚ました。
「私は、たしか……」
「なにがあったか、ゆっくりでええから教えてや」
「イースティア様」
なぜここにいるの? というような目でイースティアを見つめる。
「人間にやられたんや。土の精霊もや」
「そんな! そんなことしたら、この大陸が大変な事に!」
「せや。だから今お前の力が必要なんや。仲間になってくれるか? 頼むで」
「わ、わかりました。この後は土の精霊の下へ?」
「そのつもりや」
イースティアはすでに次の算段を立てていた。
この大陸のことはイースティアが一番よく知っている。
なら、俺たちはそれに従うのが最善だ。
「そう言えば、精霊精霊たちは持ち場を離れても大丈夫なのか?」
「精霊はこの世界に存在するだけで影響を及ぼす存在です。たた住処が分かれてるのは、彼女たちが住みやすいからですよ」
好みの問題か。
「じゃあ、水の精霊を仲間にできたから、次は土の精霊精霊だな」
「待って。ワタシはその異世界人に気を許したわけじゃない。しっかり戦って見極めさせてもらうわ」
おぅいぇー。そう来たか。でも俺の戦闘力なんてたかが知れてるし、世界の事象に関与できる精霊に勝てる気はしないぞ。
「いくわよ」
いきなり突っ込んでくる水の精霊。
俺の今のありったけはこの爆熱の魔石だけだ。
「爆ぜろ!」
しかし。
「水と炎。相性は最悪ね」
爆熱の炎は、いとも簡単に消されてしまう。
「俺の切り札が!」
その危機的状況の中、俺の隠された能力が目覚め……。
るはずもなかった。
「ひえぇ〜!」
情けなく逃げ回る俺。
いつの間にか精霊の泉にはいっていた。
「そこはっ!」
精霊の泉には、水の精霊の力が集約されていた。
剣が、鎧が、盾が、その力を吸収する。
そして、吸収されたのは力だけではない。
水の精霊の力を根こそぎ奪ったのだ。
「おぉ、こんな事ができたとは」
運がよかった。これで水の精霊は人型のスライムと化して、無力化されたのだった。
「その鎧自体が魔石のような構造になっているみたいですね」
魔石に魔力を封入することもできれば、吸収することもできる、か。
じゃあ……。
「空の魔石あるか? 爆熱の魔石に魔力を与えるみたいに、水の精霊の力も空の魔石に力を込められるかも知れない」
「なるほど。えぇ考えやな! 水の精霊の力をいつでも誰でも使える、いうわけやな」
早速試したところ、見事に成功した。
「そ、そんな……。これじゃアタシ、ただのスライムじゃないですか。ぷるぷる。ボク悪いスライムじゃないよ……」
どこかで聞いたことあるセリフだが、気にかけないでおこう。
こうして俺たちは見事水の精霊を仲間にして、洞窟を出た。
「次は土の精霊か」
「土の精霊は険しい山を登らなあかんから、大変やぞ。しかも、竜とかおんねん」
その竜の頂点に立ってる人が2人いるし、なんとかなるだろ。
「2人は竜と会話できるんだろ? なら、竜は、大丈夫じゃないか?」
「人の話聞かへん輩は沢山おるわ。人間かて盗賊おるやろ? それと一緒や」
なるほど。善良な竜なら話し合いでなんとかできるかも知れないが、跳ねっ返りの竜はその限りではない、と。
「とりあえず行くしか無いだろ。 この場所はもう守らなくても良いんだよな?」
「ええで。あの使い魔もまた連れてこ」
俺たちはデモンズも仲間に加えて、ギルドに足を運び、クエストの終了を告げた。
土の精霊の居場所は遠い。そしてその間に町がない。
「食べ物は沢山買い込まないといけませんね」
すっかり世俗の料理にハマったウェスティアさんが町で大量に保存食と調味料を買っている。
「日焼け止めに、防虫剤に……」
シェルティもいらない心配をしていた。
「まずは土の精霊の居場所に一番近い町、ヘリオスの町まで一週間か。そこからまた半月近く山登り……。確かに過酷だな。」
土の精霊は寡黙で人付き合いが悪く、人はおろか聖竜や同じ精霊たちとも仲良くしようとはしないらしい。
その時、1羽のコウモリが飛んできた。
コウモリは手紙らしきものを俺に渡すと、またどこかへ飛んでいった。
「コレは……。カオスちゃんからか」
たしか、デウス王にもお伺いをたてる、というようなことを言ってたな。
「デウス王も、船の件があるまで、ヒュムロスの王が変わったのは知らなかったみたいだな」
「そんな! 外交問題ですよ!?」
ウェスティアさんが声をあげる。
確かにその通りだ。本来ならば、セントラル大陸以外での私闘は禁じられている。
それを反故にしたのだ。
「でも、神の命令でセントラル大陸以外で諍いは起こしちゃいけなかったんじゃないか?」
「考えられるとしたらウェスティアね」
シェルティが代わりに答える。
「魔剣に力を吸い取られ、その剣で魔脈の管理はできてる。でもそれ以外は《・・・・・》できなくなったのよ」
「確かに、私が万全の状態でセントウェスティアいれば、こんなことにはならなかったかも知れないですね」
「それは聖山追い出されたウチも同じや。世界秩序が狂うのも無理ないわ」
そんな盲点があったのか。
「じゃあ、ヒュムロスの人間たちはコレを狙って? でも、ウェスティアさんの事は知らないはずだ」
「ウチ一人でも片付けたらそれで終いや。信仰心を失った聖竜や精霊は脆いで」
これは思った以上に急がないと、セントラル大陸以外でも戦闘が始まってしまうかも知れない。
少なくとも、すでに貿易摩擦は始まっている。
「急ごう」
俺の言葉に皆が頷いてくれる。
まずはヘリオスの町に向う。
話はそれからだ。




