風鳴の丘
誰が呼んだか風鳴の丘。
ここには風の精霊が住んでいるという。
「昔は精霊信仰も盛んで、その加護を受けた者は莫大な力を得たといいます」
「へぇ。なんで廃れちゃったんだろう?そんな力があるなら、戦争に使えそうなのに」
「それは、精霊に気に入られるのがとても困難なことと、信仰心が離れ、精霊自体の力が弱くなったことが挙げられます」
ウェスティアさんが語る精霊は、平和を重んじ、調和を司る世界事象の化身とでもいうべき存在だった。
(くすくす)
「? 今誰かなにか言ったか?」
「はぁ? なんも言ってないんですけど。キモっ」
口悪すぎやしませんかね、シェルティさん。
なんとなくこの丘に来てから誰かに見られてる気がする。
自意識過剰なのかなぁ。
「ここに入ってから、誰かにずっと見られてるね。精霊かなぁ?」
カオスちゃんも感じていたらしい。よかった。
でも、しばらく歩いても魔獣一匹出てこない。
(こっちだよ)
また聞こえた。俺は声のする方へ引き寄せられるように、ふらふらと歩き始める。
「ヨーイチさん?」
みんなも不思議そうな目で俺をみてる。
「こっちから声がするんだ。俺を呼んでる」
「それってもしかして、風の精霊!?」
カオスちゃんも驚いている。
信仰がなくなったあと、精霊たちは普通の魔族や人間には姿を見せなくなったらしい。
「それなのに呼ばれるなんて……。もしかしたら、ヨーイチさんは精霊との親和性が高い異世界人なのかもしれません!」
ウェスティアさんも嬉しそうだ。
精霊と契約して戦争した者は今までいなかったらしい。
「そうか、俺は精霊と契約できるのか……」
これで強くなれる。
人間のヒュムロス大陸に現れた異世界人にも引けを取らないくらいに!
「早速行ってみましょうよ!」
シェルティもテンションが上がっている。
俺たちは声のする方へ向かった。
普通ではわからないような場所にある洞窟。
その中から声は聞こえていた。
「来てくれたね!」
約30センチ程の大きさの魔族らしき少女。
彼女が風の精霊か。
「俺を呼んだのは君か?」
「そうだよ! 面白そうな異世界人が来たから、からかってやろうと思って!」
なんだろう。基本的に俺の周りには性格悪いやつしか現れないような気がする。
優しいのはカオスちゃんだけだよ……。
「あはは! 本当になんの変哲もない人間だね!」
無邪気に笑う風の精霊。なんかムカつくな。
「それより、俺と契約する気はあるのか?」
「どーしよーかなー。私に勝てたらにしようかなー」
結局戦うことになるのか。
「他の人は手を出しちゃダメだよー」
俺の試練だ。
俺だけで戦うのが当たり前だろう。
「いくよー!」
風の精霊が突風を巻き起こす。
「くっ!」
なんて風圧だ! 動けない!
「さぁさぁ! 反撃しないとふっ飛ばされちゃうよー」
風は強くなり、嵐となった。
俺が吹き飛ばされないのは、ひとえにこの鎧のおかげだろう。
「早く攻撃してきてよー」
精霊が痺れを切らしている。
しかし、俺は吹き飛ばされないように踏ん張るのが精一杯だ。
抜いた剣も大地に突き刺し、身体を支える。
「こらー! たたかおうよー!」
風は強くなる一方だ。
「お兄ちゃん、もしかして、精霊の力が尽きるのを待ってる……?」
カオスちゃんが都合のいいように解釈してくれる。
「なるほど。精霊とはいえ、アレほどの力を酷使するのには限界があるはず。耐久戦はいい手かも知れませんね」
「あの男がそんなことできるわけないじゃない。ただ、うごけなくなってるだけよ」
面白そうにシェルティが笑う。
コイツに図星を突かれるとムカつくな。
「うぅ〜!」
精霊の顔が真っ赤になっている。
心なしか風が弱まった。
「ぷはぁっ!」
精霊が深呼吸をすると、風が止んだ。
その隙をついて、俺は精霊に剣を突きつけた。
「俺の勝ち、かな?」
「うぅ〜! 悔しい〜!」
情けない勝ち方だが、勝ちは勝ちだ。
これで精霊と契約できるぞ!
「あ〜、でも、貴方魔力回路そのものがないから、私を使うのは無理だと思うよー?」
まりょくかいろ?
「え、そんな!?」
「うそっ!?」
カオスちゃんとウェスティアさんが驚きの声をあげる。
「なんか、大変なことなの?」
「この世界の人間は魔力を通すための血管のようなものを必ず持ってます。魔法の使えない人間でも、異世界人でも、です」
「あ! コイツが神様に間違えて転生させられたせいで、魔力回路すらもってないのかも!」
シェルティの推理。
「確かに、人間界に現れた異世界人は魔力回路持ってたはずだねー」
「え、じゃあ、四大精霊の力を借りて強くなることはできないの?」
せっかく強くなれると思ったのに!
「まぁ、でも勝負で負けたし、私がついて行ってあげるよー。私の眷属も、いざとなったら力をかしてくれるよう頼むからさー!」
え、この世界の事象を操るような精霊が仲間になるの?
「それは力を授かるよりすごいことですね」
「今回は手加減したけど、本当だったら風の刃でズタボロのボロ雑巾なんたから!」
マジかよ。よかった。
「でも、仲間になってくれてありがとな」
「べ、べつにアンタのためじゃないんだからねー!」
ツンデレか。
しかし、こうして俺たちは風の精霊と共に旅をすることになった。
「他の三精霊も、仲間にしちゃおー!」
風の精霊はノリノリであった。




