殺さないのも大変だ
やってきましたメルビン領の大草原。
近くには森もあり、なかなかいい場所だ。こんな時でなきゃ、ピクニックでもしたい。
「この大草原のどこかにブエルがいるのか?」
「もしかしたら、普段は森に潜んでるかもしれないし、この広さだとかなり見つけるのも面倒ね」
俺とシェルティは少しげんなりしているが、それでも受けた依頼はこなさないとな。
しかし、探すこと1時間。野生の動物と出会すことはあっても、ブエルどころか魔獣すらいない。
「草原は一応見える範囲は探したけど……」
視力がすごいカオスちゃんが当たりを見渡しても、見つからなかった。
「魔力波とかいうのはわからないの?」
「家の中ならまだ留まるけど、外だと流石に霧散しちゃうね」
だめかぁ。なかなか骨が折れそうだ。
「!?」
俺以外が一斉に振り返った。つられて俺も後方を見ると、そこにはさっきまでいなかった魔獣がいきなり現れた。
「そんな! 気配無かったのに!」
完全に先手を取られた。
狙われたのは、やはり一番弱い俺。剣を抜く暇もなく、魔獣の攻撃が俺に突き刺さる。
「お兄ちゃん!」
カオスちゃんの声が遠くに聞こえる。
しかし。
衝撃はあったものの、傷はなし。この防具の前では敵の攻撃は意味をなさなかった。
「す、すごい」
俺が感動してるうちに、魔獣はウェスティアさんによって倒されていた。
殺してはいないようだ。
「だ、大丈夫!?」
シェルティも流石に慌てた様子で俺に駆け寄ったが、俺は全くの無傷。
「なんの怪我もないよ。この鎧のおかけだな」
トントン、と鎧を叩く。
「流石、名工の業物ですね」
ウェスティアさんもホッとした様子だ。
「でも、一体どこから……」
俺は別としてこのメンバーの目を掻い潜っていきなり現れた魔獣。
気配を消すこともできない低度の実力しかないはずなのに……。
「とりあえずお昼にしましょ。もうつかれたぁ!」
相変わらず能天気なシェルティ。まぁ、気分転換も必要か、と俺たちはお弁当を広げた。
「なんか楽しいな」
「仕事なんですよ? しゃんとして下さい」
ウェスティアさんに怒られながら、俺はオニギリを手にしたが、落としてしまった。
「あら」
コロコロ転がるオニギリを追いかける。どこぞの昔話かよ。
ピタリと止まったオニギリを拾おうと、屈んだとき、草原に似つかわしくない物を見つけた。
「みんな!」
俺は慌てて3人を呼び、それを確認する。
「これ、どう見ても地下への扉だよね?」
カオスちゃんが確認するように声をだす。俺の目から見ても、そうとしか思えない。
「もしかして、犯人とか組織ぐるみでこの中にいたり……」
昼飯もそこそこに、俺たちはその扉をくぐることにした。
「あ、この魔力波、メルビン伯爵の家にあったのと同じだ」
入った瞬間にカオスちゃんにはわかったらしい。
「じゃあ、ブエルの魔力も?」
「うん、こっちにあるよ!」
しかし、敵も簡単に侵入者を通すわけがない。
数人の警備兵らしき魔人たちが立ち塞がる。
「どうやってここにはいった!?」
「え? 普通にそこの出入り口から……」
確かに普通に捜索していたら絶対に見つからなかっただろう。
運よく俺がオニギリを落としたからこそ見つかったのだ。さすが俺!
「く、くそ!」
斬り掛かって魔人たち3人を、俺以外の3人があっと言う間に昏倒させる。
「まさか本当に敵のアジトだとは思わなかった」
俺たちは細心の注意を払いながら先に進む。
無用な戦闘は避けたいしな。
カオスちゃんの案内で、ブエルのいる所に行き着く。
「ドラゴンの時みたいだ。無理矢理魔力の元となる物を摂取させられて、ブエルに変化させられてる」
カオスちゃんが悲しそうな顔をする。
「元に戻す方法はないのか?」
メルビンの元にいた時は魔力を持った、ただの猫だったのだ。
本人(猫)の意思とは無関係に連れてこられて、悪魔にされたのだ。
「僕がこの子の魔力を吸い上げれば元に戻すことはできると思う。でも……」
この組織をどうするか。
俺達が受けた依頼は猫を取り戻すことだけ。
かといって、ここまで乗りかかったのに無視して素通り、というのもバツが悪い。
「よし、この組織、俺たちでなんとかしよう」
「「「うん!」」」
こんなこと絶対に許してはならない。
ブエルは一時ここにいてもらって、さらに奥のボスがいるであろう場所に向かうことにした。




