第11話・前編『ギャル、ついに“リンネと並んで立つ”日が来たき』
翌日の放課後。
アリスは教室の窓から外を見ながら、胸の奥がずっとそわそわしていた。
(今日……リンネちゃんと一緒に料理する日や……うち、ちゃんとできるろうか……昨日の肉じゃが、壮真に“こはるの味”って言われたけど……それでもやっぱり緊張するき)
ミナが机をドンッと叩いた。
「アリス、顔こわっ!なんか今日ずっと緊張しちゅうやん!」
ユズも笑いながら覗き込む。
「そうそう!リンネちゃんと料理するだけやん!デートちゃうきね!」
アリスは真っ赤になった。
「だ、だれがデートやねん!うちはただ……ちゃんと並んで立ちたいだけやき……昨日、壮真にめっちゃ特訓してもらったし……失敗したくないがよ……」
ミナはニッと笑った。
「アリス、昨日の肉じゃがめっちゃ美味しかったやん!あんた、絶対大丈夫やって!」
ユズも拳を握る。
「そうそう!リンネちゃんもアリスのことめっちゃ気に入っちゅうし!“アリスさんの味が好き”って言いよったやん!」
アリスは少しだけ笑った。
「……うん。ありがとう。うち、頑張るき」
ミナとユズはハイタッチした。
「それや!アリス!」
「ギャルは前向きが一番やで!」
アリスは深呼吸した。
(うち……昨日の特訓で、ちゃんと成長できた。壮真にも“胸張れ”って言われた。今日は……
逃げん。ちゃんとリンネちゃんと並んで立つき)
夕方。
アリスがこはるの暖簾をくぐると、すでにリンネが厨房に立っていた。
白いエプロンをきゅっと結び、髪を後ろでまとめて、真剣な目でまな板を見つめている。
アリスは思わず息を呑んだ。
(……やっぱり綺麗や……料理してる時のリンネちゃん、なんか……すごい)
リンネはアリスに気づいて微笑んだ。
「アリスさん。今日、よろしくお願いします」
アリスは慌ててエプロンをつけた。
「よ、よろしく……!うち、昨日めっちゃ練習したき!足引っ張らんように頑張るき!」
リンネは首を振った。
「足を引っ張るなんて思ってませんよ。アリスさんと一緒に作れるの、楽しみなんです」
アリスは胸が熱くなった。
(リンネちゃん……ほんまに優しい……うち、絶対頑張るき)
壮真が奥から出てきた。
「お、揃ったか。ほんなら今日は二人で作ってみい」
リンネが丁寧に頭を下げる。
「壮真さん。今日はよろしくお願いします」
アリスも慌てて頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします!」
壮真は二人を見て、少しだけ笑った。
「なんや、ええ雰囲気やな。ほんなら今日は“こはるの定番料理”を作ってもらう」
アリスとリンネは同時に身を乗り出した。
「な、何作るが……?」
壮真はまな板に材料を並べた。
鶏肉
しょうが
醤油
みりん
酒
砂糖
だし
アリスは目を丸くした。
「これって……」
リンネが小さく呟いた。
「……照り焼き、ですね」
壮真は頷いた。
「そうや。こはるの照り焼きは、シンプルやけど奥深い。二人で作るにはちょうどえい」
アリスは拳を握った。
(照り焼き……うち、まだちゃんと作ったことない……でも……リンネちゃんと一緒なら……絶対できるき)
リンネはアリスの方を向いた。
「アリスさん。一緒に頑張りましょう」
アリスは笑った。
「うん!うち、やるき!」
壮真が言った。
「ほんなら、まずは鶏肉の下処理からや。二人で相談してやってみい」
アリスとリンネはまな板の前に並んだ。
アリスは心臓がドキドキしていた。
(うち……ほんまに今、リンネちゃんと並んで立っちゅう……昨日までのうちとは違うき……絶対頑張る)
リンネは優しく言った。
「アリスさん。まずは余分な脂を取るところから始めましょうか」
アリスは頷いた。
「うん!任せて!」
二人の包丁が、同じリズムでまな板を叩き始めた。
その音は、アリスにとって“新しいスタートの音”だった。




