第9章・後編『ギャル、転校生と再会するき(後編)』
翌日の昼休み。
アリスはお弁当箱を抱えたまま、心臓がドクドク鳴っていた。
(今日や……リンネちゃんに食べてもらう日や……うちの煮込みハンバーグ……大丈夫ながやろか)
ミナが背中を押す。
「アリス、行こ。昨日までいっぱい練習したやん。胸張り」
ユズも笑う。
「アリスの味、絶対伝わるき」
アリスは深呼吸して、リンネの席へ向かった。
「リンネちゃん。この前言いよったやつ……持ってきたき」
リンネは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。楽しみにしていました」
アリスは震える手で保温の弁当箱を開けた。
ふわっと甘い香りが広がる。
アリス特製・煮込みハンバーグ。
照りのある濃厚ソースがハンバーグを包み、玉ねぎがとろりと溶け込んでいる。
リンネは思わず息を呑んだ。
「……すごい。見た目からして丁寧に作られてるのが分かります。しかも暖かいまま食べれるように保温のお弁当箱に入ってる」
アリスは耳まで赤くなった。
「そ、そんな言われたら……緊張するき……」
リンネは箸を取り、ハンバーグをそっと持ち上げた。
ふわっ……柔らかい肉が揺れる。
リンネは目を細めた。
「……崩れそうなくらい柔らかい。煮込みの火加減、難しいのに……」
アリスは固まった。
(や、やばい……褒められたら逆に緊張する……!)
リンネは静かに口へ運んだ。
ぱくっ。
その瞬間──リンネの表情がふっと変わった。
驚き、そしてゆっくりと目を閉じる。
噛むたびに、肉汁がじゅわっと広がり、玉ねぎの甘さがふわりと追いかけてくる。
ソースの酸味と甘みが、舌の上でとろりと溶けていく。
リンネはしばらく言葉を失っていた。
アリスは耐えきれず声を震わせた。
「ど、どう……?」
リンネは答えず、もう一口、ゆっくりと食べた。
今度はソースをしっかり絡めて。
とろり……赤ワインの香りがふわっと広がる。
リンネは小さく息を吸った。
「……このソース……赤ワイン、使ってますよね?」
アリスは驚いた。
「分かるが!?うち、昨日めっちゃ頑張って煮詰めたき!」
リンネは微笑んだ。
「ええ、分かります。香りの立ち方が綺麗で……甘さと酸味のバランスがすごくいい」
ミナとユズが顔を見合わせる。
「リンネちゃん、食レポ上手すぎん!?」
「プロのコメントやん……!」
リンネはさらに一口。
今度はゆっくり噛みしめるように。
「……この食感、ふわふわで、でも崩れない。丁寧に混ぜたのが分かります。しかも肉汁が多いのでちゃんと低温で混ぜましたね」
アリスの胸が熱くなった。
(壮真と練習したとこ……全部見抜かれちゅう……なんか……嬉しい……)
リンネは箸を置き、アリスの目をまっすぐ見た。
「アリスさん。これ……すごく優しい味です」
アリスは瞬きをした。
「優しい……?」
リンネは頷いた。
「はい。一口目で“誰かのために作った味”だって分かりました。丁寧で、まっすぐで…… すごく温かい味です」
アリスの目に涙が浮かんだ。
「……ほんまに……?うちの料理……食べてもらえるレベルなが……?」
リンネは微笑んだ。
「もちろんです。アリスさんの料理、もっと食べてみたい」
ミナとユズが拍手する。
「アリス、やったやん!」
「リンネちゃんにここまで言わせるとか、すごいで!」
アリスは涙を拭きながら笑った。
「よかった……ほんまによかった……!」
リンネはアリスに向き直った。
「アリスさん。もしよかったら……今度、一緒に料理しませんか?」
アリスは目を丸くした。
「えっ……一緒に……?」
リンネは頷いた。
「同い年で料理してる人って、本当に珍しいんです。だから……アリスさんと一緒に作ってみたい」
アリスの胸がドキドキした。
(リンネちゃんと……一緒に料理……?なんか……すごいことになってきた)
アリスは小さく頷いた。
「……うん。うちでよかったら、よろしく」
リンネは嬉しそうに微笑んだ。
「こちらこそ」
◆こはる流・煮込みハンバーグ
■材料(2〜3人分)
●ハンバーグのタネ
合いびき肉……300g
玉ねぎ……1/2個(みじん切り)
卵……1個
パン粉……1/2カップ
牛乳……大さじ2
塩……小さじ1/3
こしょう……少々
ナツメグ……少々(あれば)
●煮込みソース
ケチャップ……大さじ4
ウスターソース……大さじ3
赤ワイン……大さじ3
水……150ml
コンソメ……小さじ1
バター……10g
■作り方
1. 玉ねぎをみじん切りにする
できるだけ均一に。
煮込みは玉ねぎの甘さが命。
2. タネを作る
ボウルに
ひき肉・玉ねぎ・卵・パン粉・牛乳・調味料を入れる。
空気を含ませるように優しく混ぜる。
3. 成形する
手に油をつけ、
空気を抜きながら表面をなめらかに丸める。
煮込みは崩れやすいので丁寧に。
4. 焼き色をつける
フライパンに油をひき、
中火で両面にしっかり焼き色をつける。
※ここでの香ばしさがソースに移る。
5. ソースを作る
鍋に
ケチャップ・ウスター・赤ワイン・水・コンソメを入れ、
弱めの中火でふつふつさせる。
香りが立ってきたらバターを落とす。
6. ハンバーグを煮込む
焼いたハンバーグをそっと鍋に入れる。
崩れやすいので優しく。
弱火で10〜12分ほど煮込む。
途中、スプーンでソースをかけて照りを出す。
7. 完成
ソースがとろっとしてきたら出来上がり。
ご飯にもパンにも合う“優しい味”。タネにチーズを入れるとコクが出て美味しい




